出演キャスト様 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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役名 | 番号 | 台詞 | 注釈 |
【ザザーンザザーン・・・と波の音】 | |||
(後ろからやってきた佐久弥。ふと見ると、遠くを見て立ち止まっている比奈伎がいた) | |||
佐久弥 | 001_001 | 「――思ったより、早めに着きそうだね。少し天気が荒れるんじゃないかと思ったけれど、大丈夫だったし……。……比奈伎?どうしたの」 | |
比奈伎 | 002_001 | 「ああ、いや――」 | |
(回想/任務に出る前のシーン) | |||
彩登 | 003_001 | 「――は〜……ドキドキする」 | |
珠菜 | 004_001 | 「彩登。大丈夫ですの?」 | |
彩登 | 005_002 | 「珠菜」 | |
珠菜 | 006_002 | 「いまからあまり力を入れすぎていると、かえって疲れてしまいますわよ」 | |
夜紫乃 | 007_001 | 「そうそう。抜きすぎてもダメだけどさ、もうちょーっと肩の力を抜いた方がいいよ」 | |
彩登 | 008_003 | 「う、うん」 | |
珠菜 | 009_003 | 「とは言うものの、今回は少し……特殊ですものね」 | |
夜紫乃 | 010_002 | 「まぁね……。なにしろ、主(しゅ)・斉彬(なりあきら)様を通しての任務じゃないんだから」 | |
珠菜 | 011_004 | 「まあ、あのお頭のことですから、どこにどのようなお知り合いがいようとも、驚きはしませんけれど」 | |
夜紫乃 | 012_003 | 「でも今回はさ、実を言うと……少し楽しみでもあるんだよね、僕」 | |
彩登 | 013_004 | 「ええ?」 | |
珠菜 | 014_005 | 「夜紫乃ったら。不謹慎ですわよ?」 | |
夜紫乃 | 015_004 | 「だあってさ! 海だよ、海! 僕、海を見るのなんて初めてだよ」 | |
彩登 | 016_005 | 「あ……彩登も! ずっと前に、朱音さまと佐久弥がお話してくれたけど……海って、すっごく大きいんだって。ほんとかなぁ?」 | |
珠菜 | 017_006 | 「まあ…、わたくしも、実際に目にするのは初めてですけれど……そのように浮かれていては、雷が落ちますわよ?」 | |
比奈伎 | 018_002 | 「――なにを浮かれている」 | |
夜紫乃 | 019_005 | 「うわっ、比奈伎!」 | |
珠菜 | 020_007 | 「噂をすれば」 | |
比奈伎 | 021_003 | 「俺たちは物見遊山に行くわけじゃないんだ。気を引き締めろ」 | |
夜紫乃 | 022_006 | 「はぁい」 | |
彩登 | 023_006 | 「ごめんなさい」 | |
珠菜 | 024_008 | 「それで、わたくしたちはどう動けばよろしいんですの?」 | |
夜紫乃 | 025_007 | 「朱音さま直々(じきじき)の指示なんだろ? その相手って、いったいどういう知り合いなの?」 | |
佐久弥 | 026_002 | 「ずいぶん昔になるけれど、海からの物資調達に協力してくれた人なんだよ」 | |
珠菜 | 027_009 | 「船を操れる方、というわけですわね」 | |
彩登 | 028_007 | 「佐久弥は会ったことあるの?」 | |
佐久弥 | 029_003 | 「ううん。会ったことがあるのはお頭だけ。私は、チラッと顔を見ただけなんだ」 | |
彩登 | 030_008 | 「へえ〜」 | |
珠菜 | 031_010 | 「とりあえず、その方のお役に立つように、ということでしたけれど……本当なら、お頭自ら行きたかった様子でしたわよね」 | |
夜紫乃 | 032_008 | 「主からの呼び出しと重なっちゃったからね〜。まあ、あとから本陣(ほんじん)として合流してくれるけどさ」 | |
珠菜 | 033_011 | 「けれど、まあ、ちょうどよろしかったのではありません? こう言ってはなんですけれど…、お頭がいらっしゃったのでは、少し目立ちすぎる気がしますわ」 |
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夜紫乃 | 034_009 | 「それは言える」 | |
彩登 | 035_009 | 「今回は、目立たないように、こっそり、だもんね」 | |
珠菜 | 036_012 | 「そうそう」 | |
比奈伎 | 037_004 | 「主の命ではない以上、俺たち鬼火が先陣を切って起つわけにはいかないからな」 | |
珠菜 | 038_013 | 「これは、私闘になるのではありません? お頭は主からどうやってお許しをいただいてきたのかしら」 | |
佐久弥 | 039_004 | 「いま、海を使っての物資調達の道を失うわけにはいかないからね。主にしても、なんとかしたいと考えていたと思うよ」 | |
彩登 | 040_010 | 「そっかぁ」 | |
夜紫乃 | 041_010 | 「とにかく、みんなが合流するまでは、僕らは情報収集だね」 | |
彩登 | 042_011 | 「うん!」 | |
珠菜 | 043_014 | 「今回、わたくしと彩登が中心になって内部の情報を集めるのですから、頼りにしていますわよ、彩登」 | |
彩登 | 044_012 | 「う、うんっ! がんばる!」 | |
比奈伎 | 045_005 | 「では、おおよそになるが、今回の動きの流れを説明する――」 | |
(だんだんFO・回想終わり/高い位置から、海の見える場所を見下ろしている) | |||
【再び波の音】 | |||
比奈伎 | 046_006 | 「……。こんなにも凪いでいるのに――嵐がくるのか」 | |
佐久弥 | 047_005 | 「……そうだね」 | |
比奈伎 | 048_007 | 「(溜息)」 | |
佐久弥 | 049_006 | 「水面下では、ずっと荒れていた。それが、とうとう表に出てくるだけだ。本当は、ずっと荒れていた――数十年も前から、ずっと」 | |
比奈伎 | 050_008 | 「ああ……」 | |
(ふと視線を降ろすと、海のほうに走っていく夜紫乃たち) | |||
比奈伎 | 051_009 | 「あっ・・・あいつら」 | |
夜紫乃 | 052_011 | 「彩登、珠菜! 早く早く!」 | |
(軽く走っていく夜紫乃、後ろを走る彩登、珠菜) | |||
彩登 | 053_013 | 「…うわああああああ!」 | |
珠菜 | 054_015 | 「これは…! ………大きい…というか……とても広いですわね!」 | |
夜紫乃 | 055_012 | 「これが海かあ…。すごいなー!」 | |
彩登 | 056_014 | 「うん!」 | |
夜紫乃 | 057_013 | 「ふふふーっ、寿々加たちもすっごく見たがってたから、僕らが一番最初に見たって言ったら羨(うらや)ましがるよ、きっと!」 | |
彩登 | 058_015 | 「みんな、海を見られるの、すごく楽しみにしてたもんね!」 | |
珠菜 | 059_016 | 「任務を前に、ちょっと不謹慎かしら、とは思いますけれど……まあ、お頭ならきっと許してくれますわよ」 | |
彩登 | 060_016 | 「うん、彩登もそう思う!」 | |
夜紫乃 | 061_014 | 「僕も〜」 | |
彩登 | 062_017 | 「あっ、ねえ見て見て珠菜、綺麗な貝殻(かいがら)がある」 | |
珠菜 | 063_017 | 「あら、ほんとですわ。これ、お土産にちょうどよろしいんじゃありません?」 | |
夜紫乃 | 064_015 | 「留守番組(るすばんぐみ)もいるからね。よーし、じゃあいくつか拾っていこうよ」 | |
彩登 | 065_018 | 「さんせーい!」 | |
(そんな様子を見て) | |||
比奈伎 | 066_010 | 「まったく・・・あれほど言ったのに」 | |
佐久弥 | 067_007 | 「そういう比奈伎も、海を見るのが初めてで、実はわくわくしてるんだよね」 | |
比奈伎 | 068_011 | 「わ――! …………わ、わくわくはしてないっ、わくわくは、さすがに、わくわくは」 | |
佐久弥 | 069_008 | 「ふふ、そう」 | |
比奈伎 | 070_012 | 「――……。い、行くぞ佐久弥っ(くるっときびすを返す)」 | |
佐久弥 | 071_009 | 「(くすくす)うん」 | |
比奈伎 | 072_013 | 「不謹慎だぞっ」 | |
佐久弥 | 073_010 | 「――はい」 | |
【ふと比奈伎が立ち止まって】 | |||
比奈伎 | 074_014 | 「…………」 | |
佐久弥 | 075_011 | 「…比奈?」 | |
比奈伎 | 076_015 | 「…………この海は、こんなに、……美しいのにな」 | |
佐久弥 | 077_012 | 「――。……そうだね――……」 | |
比奈伎 | 078_016 | 「――(一度目をとじ、気を取り直すように)――行こう」 | |
佐久弥 | 079_013 | 「――(頷く)」 | |
*** | |||
(そこは大海原) | |||
【激しい波の音】 | |||
穂河武士 | 080_001 | 「討て討てー!ひるむなー!」 | |
【ザバーン!】 | |||
有川武士 | 081_001 | 「くっ!波が高くなってきたな……これ以上は危険だ、船を戻せ!」 | |
林武士 | 082_001 | 「陸地へ引き上げだ!」 | |
ヤマト武士 | 083_001 | 「みな、引き時だ!引け!引けーい!」 | |
宮口武士 | 084_001 | 「(突然、あらぬ方向から弓矢が飛んできて刺さる)ぐおっ」 | |
織山武士 | 085_001 | 「…な、何!?弓矢だと!?」 | |
武士全員 | 086_001 | (次々に飛んでくる弓矢に逃げ惑う武士) | |
穂河武士 | 087_002 | 「いったいどこから…っ!」 | |
織山武士 | 088_002 | 「馬鹿な!高波の中から矢が……!」 | |
林武士 | 089_002 | 「な、なんだと!?」 | |
宮口武士 | 090_002 | 「こうも簡単に我ら水軍のうしろを取るとは!」 | |
ヤマト武士 | 091_002 | 「おのれ…、何奴ッ!」 | |
有川武士 | 092_002 | 「…あっ!あれは…ッ!見ろ、あそこだ!」 | |
(荒れ狂う波間に小さな船が見え、竜の面を被った水輪一族が次々姿を現す) | |||
林武士 | 093_003 | 「バ、馬鹿な!こんな荒れた海の上で船を操れるはずが……!」 | |
有川武士 | 094_003 | 「(激しくハッとして)あれは!りゅ、竜の面だ…!」 | |
宮口武士 | 095_003 | 「竜の面!?では、まさか…まさか!」 | |
武士全員 | 096_002 | 「水(みな)輪(わ)一族だあーー!」 | |
(頭領・漁火が一歩前に進み出て、参戦を宣言) | |||
漁火 | 097_001 | 「我らは水輪一族! 水神(すいじん)の眠りを妨(さまた)げることは何人(なんぴと)たりとも許されぬ! 即刻(そっこく)、去(い)ねい!さもなくば――その穢(けが)れを力づくでも祓(はら)おうぞ!」 |
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濠 | 098_001 | 「この海の安寧のため、この水輪一族、これより参戦いたす!」 | |
漁火 | 099_002 | 「(振るう)行けい!」 | |
みぎわ | 100_001 | 「(槍を振るい)さあ!この刃の餌食になりたい者はどいつだ!」 | |
汀 | 101_001 | 「退かぬものは全て斬る!」 | |
【飛び出して、脅威的なジャンプ力で相手の船に飛び移る】 | |||
武士全員 | 102_003 | 「!!(ザワッと後ずさる)」 | |
(次々、飛び出していく一族の面々。すぐさま攻撃に移る) | |||
泪 | 103_001 | 「命を惜しまぬ者はかかってこい!」 | |
武士全員 | 104_004 | 「(逃げ惑う)」 | |
滴 | 105_001 | 「こさめ!深追いしすぎるのではないよ!」 | |
こさめ | 106_001 | 「滴、お前こそ!」 | |
漣 | 107_001 | 「滴(しずく)、こさめ!退(ひ)きどきを誤(あやま)らないように!」 | |
滴 | 108_002 | 「わかっている!」 | |
こさめ | 109_002 | 「ああ!」 | |
漁火 | 110_003 | 「さあ!竜神の子らよ!大海原(おおうなばら)を統(す)べるその業(わざ)を、とくと見せるのだ!!」 | |
汀 | 111_002 | 「おお!」 | |
みぎわ | 112_002 | 「おう!」 | |
滴 | 113_003 | 「ああ!」 | |
漣 | 114_002 | 「はい!」 | |
こさめ | 115_003 | 「ああ!」 | |
泪 | 116_002 | 「おう!」 | |
濠 | 117_002 | 「おお!」 | |
*** | |||
【風/鈴】 | |||
ナレーション | 118_001 | 「そこには『竜』と呼ばれた一族が居た。 海の猛者(もさ)と呼ばれる水軍をもってしても 決して追いつくことも出し抜くことも出来ぬとされる 船と波を操る術(すべ)は まさに海を支配する竜神がごとく。 決して 歴史の表舞台には名を残さないその一族を ―――『水(みな)輪(わ)一族』と言った―――」 |
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ナレーション | 119_002 | 「原作、ヤマトアキ。オリジナルボイスドラマ『鬼神楽』」 | |
*** | |||
【波の音】 | |||
(砂場で座り込んで武器の手入れをしていた汀に、ちょっと遠くから寄りつつ) | |||
みぎわ | 120_003 | 「なぎさー!なーぎーさー!なーぎーさ」 | |
汀 | 121_003 | 「(遮って)そんなでっかい声で呼ばなくても聞こえてるよ、みぎわ」 | |
みぎわ | 122_004 | 「そぅお?波の音で聞こえないかと思ったんだけど」 | |
汀 | 123_004 | 「で?」 | |
みぎわ | 124_005 | 「ん?」 | |
汀 | 125_005 | 「用があったから呼んだんじゃないの?」 | |
みぎわ | 126_006 | 「(ぽむ)ああ!そうそう。ちょっと聞いてよ!親父様はいないし、漣(れん)も泪(るい)も滴もこさめもみーんな捕まらなくて……、酷いと思わない?」 | |
汀 | 127_006 | 「ふーん」 | |
みぎわ | 128_007 | 「なんかねえ、要するになにが言いたいかというと一言でまとめると、――暇だから遊んで。(真面目)」 | |
汀 | 129_007 | 「………………。やだ。(真面目に)」 | |
みぎわ | 130_008 | 「ええ!?ケチー!」 | |
汀 | 131_008 | 「いい波があるんだからそれで一人でなんかすれば」 | |
みぎわ | 132_009 | 「ちょっと。一人遊びの達人になっちゃうじゃないの」 | |
汀 | 133_009 | 「(笑って)それもいいかも」 | |
みぎわ | 134_010 | 「(笑い返して)じゃあ、修練するから付き合ってよ」 | |
汀 | 135_010 | 「(軽く頷いて)それならいいよ(手をはたいて立ち上がる)」 | |
*** | |||
(モノローグ) | |||
汀 | 136_011 | 「(M)――時にそれは姿を変える。 見上げれば風は吹き荒び雲は押し流されていき、 視線を降ろせば、波が全てを覆うかのように激しく怒り狂う。 海の神がその怒りを沈めれば、そこは美しいほどに凪いだ見渡す限りの海原。 ――それが俺たちの生まれた場所。 ここが俺たちの生きる場所。 何者にも侵されず、何者もそれを奪うことは出来ない」 |
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みぎわ | 137_011 | 「(M)大小さまざまな島々の浮かぶ潮流を、 時にあざ笑うかのように、時に優しくあやすように。 大地を踏みしめるよりも早く波を操る術を覚えた。 穏やかに打ち寄せる飛沫はその心を癒し、激しく鳴り狂う大波は、 どれほど大地を飲み込もうと、私たちには子守唄に過ぎない」 |
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佐久弥 | 138_014 | 「(M)――戦国の世。 唯一の主をいだき、主がために戦う一族たちがいた。 鬼と呼ばれ、風と呼ばれ、それを追う者として砂と呼ばれる者たちがいた」 |
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珠菜 | 139_018 | 「(M)彼らは主の命に従い、戦場(いくさば)へ臨み、己の私欲は一切切り捨て、ただ主に勝利を与えるためだけにその剣を振るう」 | |
比奈伎 | 140_017 | 「(M)大地は広がり、それはやがて母なる海へと導かれる。 人から離れ、その海を里とし、水神を主と仰ぎ、海と共に生きる一族がいた――」 |
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汀 | 141_012 | 「――俺たちはこう呼ばれた。『竜神の慈悲を乞い、海に生きることを叶えられし者』すなわち、『水輪一族』と――」 | |
みぎわ | 142_012 | 「(タイトルコール)『鬼神楽』〜流の章〜」 | |
*** | |||
(会合の館。戦後の会合。上座に座る瀧子、傍に仕える漁火。 瀧子は一段高い位置に座したまま、ぐるりと一同を見回してねぎらいの言葉をかける) |
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瀧子 | 143_001 | 「――此度(こたび)の戦では、各々(おのおの)よい働きをしてくれた。さすがは誉(ほま)れ高き竜神(りゅうじん)の子ぞ。この瀧子(たきこ)も鼻が高いというもの」 | |
汀 | 144_013 | 「は!」 | |
みぎわ | 145_013 | 「は!」 | |
滴 | 146_004 | 「は!」 | |
漣 | 147_003 | 「は!」 | |
こさめ | 148_004 | 「は!」 | |
泪 | 149_003 | 「は!」 | |
濠 | 150_003 | 「は」 | |
瀧子 | 151_002 | 「いまだ、水軍(すいぐん)の手を煩(わずら)わせている海賊どもも存在する。が、そなたたちならば決して引けを取らぬ」 | |
汀 | 152_014 | 「は」 | |
みぎわ | 153_014 | 「は」 | |
滴 | 154_005 | 「は」 | |
漣 | 155_004 | 「は」 | |
こさめ | 156_005 | 「は」 | |
泪 | 157_004 | 「は」 | |
濠 | 158_004 | 「は」 | |
汀 | 159_015 | 「(少しの緊張感を持って)――瀧子様。恐れながら」 | |
瀧子 | 160_003 | 「うん?なんじゃ、汀(なぎさ)。申してみよ」 | |
汀 | 161_016 | 「は。こたびの戦いで、わが一族の傘下に下ることを願う者が多く。ほとんどが、金で雇われた連中です。ゆえに、主(あるじ)を見限り、水輪の杯を受けたいと。どうなさいますか」 | |
瀧子 | 162_004 | 「そうじゃな……。数はどれほどじゃ」 | |
みぎわ | 163_015 | 「男が二十三、女が六です」 | |
瀧子 | 164_005 | 「すべてを捕虜(ほりょ)とするには、ちと多いな」 | |
汀 | 165_017 | 「はい」 | |
瀧子 | 166_006 | 「漁火(いさりび)」 | |
漁火 | 167_004 | 「――は」 | |
瀧子 | 168_007 | 「半数(はんすう)を捕虜とし、半数は我が傘下(さんか)に加えよ。水(みな)輪(わ)の杯(さかずき)を受けることを許す。そなたが采配(さいはい)を振るえ」 | |
漁火 | 169_005 | 「御意(ぎょい)」 | |
瀧子 | 170_008 | 「――これをもって本日の会合は終(しま)いとする」 | |
汀 | 171_018 | 「は!」 | |
みぎわ | 172_016 | 「は!」 | |
滴 | 173_006 | 「は!」 | |
漣 | 174_005 | 「は!」 | |
こさめ | 175_006 | 「は!」 | |
泪 | 176_005 | 「は!」 | |
濠 | 177_005 | 「は!」 | |
漁火 | 178_006 | 「は!」 | |
*** | |||
(会合が終わってそれぞれ、離れや、仕事場に散っていく) | |||
洋汰 | 179_001 | 「あ!おっかえりなさーい!」 | |
みぎわ | 180_017 | 「ただいま、洋汰!」 | |
こさめ | 181_007 | 「ただいま」 | |
みぎわ | 182_018 | 「あれ?私らが一番かぁ」 | |
潤河 | 183_001 | 「おかえりなさい、みぎわさん、こさめさん。ご無事で何より」 | |
みぎわ | 184_019 | 「うん、ありがと。あ〜、おなかすいちゃった。潤(じゅん)河(か)、何か作ってくれる?」 | |
潤河 | 185_002 | 「(くすくす)はいはい。みぎわさんは、今回もずいぶんとご活躍だったのねえ」 | |
洋汰 | 186_002 | 「みぎわねーちゃん、すっげー強いもんな!あ〜!おれも早くみんなのそばで戦いたいなぁ」 | |
みぎわ | 187_020 | 「なに言ってんの、洋汰。あんたみたいな未熟者が戦場(いくさば)に出てきたら、あっという間にどっかいっちゃうわよ」 | |
こさめ | 188_008 | 「(笑いながら)言えてる」 | |
潤河 | 189_003 | 「(くすくす)洋汰さんは、まだまだ見習いですものねえ」 | |
洋汰 | 190_003 | 「もーっ、みんなして!どっかってなんだよ〜っ」 | |
潤河 | 191_004 | 「こさめさんは?すぐに戻ります?」 | |
こさめ | 192_009 | 「いや、アタシはこれから捕虜の確認だよ。しかも今回はちょっと人数が多いからね、濠(ごう)にも手伝ってもらう手はずになってるんだ」 | |
(そこにちょうど濠が現れた) | |||
濠 | 193_006 | 「――こさめ」 | |
こさめ | 194_010 | 「噂をすれば、だ。なんだい、濠」 | |
濠 | 195_007 | 「捕虜の場にすべてまとめたぞ。あとは確認と、杯組の選別の準備だ」 | |
こさめ | 196_011 | 「もう?親父様、今回はずいぶんと選別が早かったんだね」 | |
みぎわ | 197_021 | 「いつもは、十日くらい頭抱えてうんうん言ってるのに」 | |
洋汰 | 198_004 | 「この前、泪(るい)ねーちゃんに、遅い!ってこてんぱんに怒られてたからだよ、きっと」 | |
みぎわ | 199_022 | 「(笑って)ありえる!」 | |
濠 | 200_008 | 「(こちらも目は笑って)なんにせよ、早く済むのはありがたいことだ。長にならって、私たちもはやく済ませよう」 | |
こさめ | 201_012 | 「そうだね。じゃあ洋汰、あとでね」 | |
濠 | 202_009 | 「できるだけ早く準備を終わらせよう」 | |
洋汰 | 203_005 | 「うん!戻ったら話いっぱい聞かせてくれよな」 | |
潤河 | 204_005 | 「そうねえ。私にも聞かせてくださいな」 | |
こさめ | 205_013 | 「わかったわかった。潤河、アタシにもなにか軽く頼むよ」 | |
みぎわ | 206_023 | 「(笑いながら)きっとみんな同じこと言うと思うから、みんなの分も用意しといた方が良いと思うよ、潤河」 | |
潤河 | 207_006 | 「(くすくす)はいはい。わかりました。そのようにして待っていることにしますよ」 | |
*** | |||
(汀が廊下を歩いていると、漣に呼び止められた) | |||
漣 | 208_006 | 「汀(なぎさ)」 | |
汀 | 209_019 | 「漣」 | |
漣 | 210_007 | 「杯を受けた者たちを見ましたか?」 | |
汀 | 211_020 | 「いや?まだだ」 | |
漣 | 212_008 | 「ちょっと可愛い子がいますよ。珍しいですよね、水軍があんな小さい子を船に乗せてるなんて」 | |
汀 | 213_021 | 「小さいのか」 | |
漣 | 214_009 | 「歳は十(とお)ほどかな。見習いの賄(まかな)い係だったらしいですけど」 | |
汀 | 215_022 | 「そんな子どもを戦場に連れてくるとはね。その水軍の器が知れるな」 | |
漣 | 216_010 | 「――ほら、あの子。茶色い髪の毛の。桜色の髪をした女にぴったりとくっついてる……」 | |
(その方向を見た汀。 | |||
茶色の髪の毛をした少女の斜め後姿を見た瞬間、何かが体の中を走りぬけるのを感じた) | |||
汀 | 217_023 | 「――!」 | |
漣 | 218_011 | 「……汀?」 | |
汀 | 219_024 | 「え……」 | |
漣 | 220_012 | 「汀?どうしました」 | |
汀 | 221_025 | 「あ……いや、…………(M)…………ああ……」 | |
滴 | 222_007 | 「汀。漣。どうかしたかえ?」 | |
漣 | 223_013 | 「滴」 | |
汀 | 224_026 | 「あー、いや、なんでも」 | |
漣 | 225_014 | 「捕虜の方はどうですか」 | |
滴 | 226_008 | 「いまは大人しいものだよ。幾人かは杯を受けたがり、残念がっていたけれど……親父様が頑として首を立てにふらなんだ」 | |
汀 | 227_027 | 「含みがあるってことか」 | |
滴 | 228_009 | 「(頷いて)親父様の見る目は確かだからね。そういうことだろう」 | |
みぎわ | 229_024 | 「そぅお?私の見る限り、あれは勘だと思うけど」 | |
漣 | 230_015 | 「(くすくす)その勘が、人を見る目、とも言う。そういうことなんでしょう。――さて。自分は、その捕虜の管理を、親父様と相談に行ってきます」 | |
滴 | 231_010 | 「ああ」 | |
みぎわ | 232_025 | 「杯組のほうはどお?」 | |
汀 | 233_028 | 「ああ……なんか、小さい子がいたよ」 | |
みぎわ | 234_026 | 「へえ!珍しーい」 | |
滴 | 235_011 | 「(眉を寄せ)そんな小さな子どもを戦に加えるとは……。その水軍を率いる大将の底が知れようというもの」 | |
汀 | 236_029 | 「(噴出して)俺と同じこと言ってら」 | |
(そこに泪が加わる) | |||
泪 | 237_006 | 「――親父の采配だって?」 | |
みぎわ | 238_027 | 「泪!おかえり!」 | |
泪 | 239_007 | 「ああ」 | |
汀 | 240_030 | 「捕虜を見た?」 | |
泪 | 241_008 | 「ああ。なんだあれは。わざとやっているにしてもやりすぎだろう。歳を上から順に数えて、多い者が捕虜、少ない者が杯組。なにが人を見る目だ」 | |
みぎわ | 242_028 | 「(噴出して)ちょっと!そんな選び方!?」 | |
泪 | 243_009 | 「あのボンクラ親父め……。ちゃんと目を見開いて選んだんだろうな。居眠りしながら舵をとるようなやつだぞ」 | |
滴 | 244_012 | 「(笑いを含みながら)これ泪。畏れ多くも水輪一族の長たる方に向かって。少しは口をつつしみや」 | |
泪 | 245_010 | 「はは。少し慎んだところではなにも変わらないから、かえって少しも慎まないほうがマシさ」 | |
汀 | 246_031 | 「すごい持論」 | |
みぎわ | 247_029 | 「でもなんだか納得」 | |
汀 | 248_032 | 「(くすくす)言えてる(笑)」 | |
滴 | 249_013 | 「こさめと濠は」 | |
泪 | 250_011 | 「そのまま捕虜の面倒を見ている。まずは瀧子様への面通しだな」 | |
滴 | 251_014 | 「(頷いて)捕虜の中でも、運が良ければ杯組に加わることも出来るであろ。すべては、瀧子様のご機嫌次第だが」 | |
(そこに、こさめがちょうど戻ってきた) | |||
こさめ | 252_014 | 「――ちょっと滴、その話、捕虜の前ではするんじゃないよ?」 | |
滴 | 253_015 | 「こさめ」 | |
こさめ | 254_015 | 「大の大人が杯を受けさせてくれって泣き叫ぶんだ。見ぐるしいったら。最初はずいぶん大人しくしてたくせに、どっかで杯組の様子を聞いたんだろうね。今の話を聞いたらきっと、瀧子様の袖をつかんで離さないよ」 | |
滴 | 255_016 | 「そんなにうるさいのかえ」 | |
こさめ | 256_016 | 「うるさいなんてもんじゃない!一人が騒ぎ出して、それが伝染してすごいことになってるんだから」 | |
汀 | 257_033 | 「うわあ……」 | |
みぎわ | 258_030 | 「うわあ……」 | |
こさめ | 259_017 | 「いいかいおまえたち。しばらくは捕虜のいる場に近寄るんじゃないよ。いまは濠が睨みをきかせてくれてるけど、万が一着物でも掴まれてごらん、裸に剥(む)かれるまで放してもらえなくなるからね」 | |
汀 | 260_034 | 「うわぁ……。(両手を軽く挙げて)絶対近寄らない」 | |
みぎわ | 261_031 | 「私もー」 | |
泪 | 262_012 | 「だから親父の采配など当てにならんというんだ、まったく!」 | |
*** | |||
(頭領・漁火の部屋にて) | |||
漣 | 263_016 | 「――親父様」 | |
漁火 | 264_007 | 「うん?おう、どうした漣(れん)」 | |
漣 | 265_017 | 「いえ――(笑いを含ませて)捕虜(ほりょ)の選別(せんべつ)ですが。今回はまた格別(かくべつ)ですね」 | |
漁火 | 266_008 | 「はっは。すごいだろう」 | |
漣 | 267_018 | 「あとで泪になにを言われても知りませんよ?」 | |
漁火 | 268_009 | 「(ぐぅっと喉を鳴らす)……いや、まあ、ほら、これから瀧子様への面通しもあるんだ、そこで幾人(いくにん)かは杯を受けることになるやもしれんし」 | |
漣 | 269_019 | 「(頷いて)逆に、独り(ひとり)もならぬやもしれぬ、と」 | |
漁火 | 270_010 | 「(両手を軽く挙げて)漣。勘弁(かんべん)してくれ」 | |
(こさめ、戸の外から声をかける) | |||
こさめ | 271_018 | 「――親父様。ちょっといい?」 | |
漁火 | 272_011 | 「おう、こさめか。どうした」 | |
こさめ | 273_019 | 「(入ってきて)捕虜のこと!あんなうるさい連中、どうやって面倒見ろって!?」 | |
漣 | 274_020 | 「泪よりこっちが先でしたか」 | |
漁火 | 275_012 | 「ひどいか」 | |
こさめ | 276_020 | 「さっき滴にも見に行ってもらったけどね。あの滴さえ耳を塞ぐ有様だよ」 | |
漁火 | 277_013 | 「あちゃあ……」 | |
汀 | 278_035 | 「(ひょいっと覗いて)親父様。いい?」 | |
漁火 | 279_014 | 「おう。汀までどうした」 | |
汀 | 280_036 | 「捕虜だよ。あれって年齢順だって?ちょっとひどすぎない?」 | |
漁火 | 281_015 | 「お前までその話か」 | |
みぎわ | 282_032 | 「だあーって!あれはひどいでしょ!うるさくって、捕虜の場の近くにすら行けないわよ」 | |
こさめ | 283_021 | 「あれ、みぎわ。泪と滴は?」 | |
みぎわ | 284_033 | 「いちお、瀧子様との面通しの準備に取り掛かるって。面通しの前までにどうにか落ち着かせないとだろうけどね」 | |
こさめ | 285_022 | 「あれを落ち着かせるのか……」 | |
漣 | 286_021 | 「……ここは一つ。采配(さいはい)を振るったご本人に、おさめていただくというのは?」 | |
漁火 | 287_016 | 「!!(ぎょ)」 | |
こさめ | 288_023 | 「(手を打ち)そりゃ名案!」 | |
汀 | 289_037 | 「異議なし」 | |
みぎわ | 290_034 | 「右に同じ」 | |
漁火 | 291_017 | 「〜〜っ、まったく!頭領(とうりょう)使いの荒いヤツラめ!」 | |
*** | |||
(所変わって。水輪一族のいる場所から少しはなれたところ。鬼火一族の面々) | |||
比奈伎 | 292_018 | 「――どうだ」 | |
夜紫乃 | 293_016 | 「うん、すっごく良好。良く見えるよ、この遠眼鏡(とおめがね)。いまさっき、二人が中に入っていったところ」 | |
比奈伎 | 294_019 | 「あとは……杯を受けられるか、捕虜となるか、だな。うまくやっていればいいが……」 | |
佐久弥 | 295_015 | 「――二人とも捕虜の中にはいなかったよ」 | |
夜紫乃 | 296_017 | 「おかえり!どうだった?」 | |
佐久弥 | 297_016 | 「うん。捕虜たちはすごい騒ぎだったけれど……二人は、別に移されたみたいだ」 | |
比奈伎 | 298_020 | 「ならば、うまくもぐりこめたということか」 | |
佐久弥 | 299_017 | 「だと思う」 | |
夜紫乃 | 300_018 | 「みんなに知らせる?」 | |
比奈伎 | 301_021 | 「……ああ。ひとまず、一石を投じたと伝えてくれ」 | |
夜紫乃 | 302_019 | 「了解」 | |
(夜紫乃、ざっと消える) | |||
比奈伎 | 303_022 | 「それで、会えたか?」 | |
佐久弥 | 304_018 | 「いや――さすがにね。館の一番奥まで調べるには少し無理があるな」 | |
比奈伎 | 305_023 | 「約束の刻限まではまだ日がある。少しずつ、外堀から攻めていくしかないか」 | |
佐久弥 | 306_019 | 「そうだね」 | |
比奈伎 | 307_024 | 「二人の安否は?」 | |
佐久弥 | 308_020 | 「それは大丈夫。確たる盟約がある」 | |
比奈伎 | 309_025 | 「(頷いて)ならば、こちらも動こう」 | |
佐久弥 | 310_021 | 「(頷く)」 | |
*** | |||
(戻って、水輪の館) | |||
泪 | 311_013 | 「――親父!あの捕虜」 | |
漁火 | 312_018 | 「(遮って)勘弁(かんべん)してくれ泪!さっきからみなに同じことで責められ通しなんだ!」 | |
泪 | 313_014 | 「……(むぅ)自覚はあるんだな」 | |
漁火 | 314_019 | 「采配(さいはい)のことだろう。ありゃあ……今回はわしじゃな、あっ(ぽろっと口が滑った)」 | |
泪 | 315_015 | 「なに?――なんだって?」 | |
漁火 | 316_020 | 「…………(だらだら)」 | |
泪 | 317_016 | 「親父」 | |
漁火 | 318_021 | 「――(溜息・・・)、みなにはこぼすなよ。内密(ないみつ)のことだ。あれは、指示があった。そのようにせよ、とな」 | |
泪 | 319_017 | 「……瀧子様から?」 | |
漁火 | 320_022 | 「ああ」 | |
泪 | 321_018 | 「なんだ。じゃあ別にそれでいいじゃないか。何を隠す必要がある?みんなも、瀧子様からのご指示だと聞けば、納得するさ」 | |
漁火 | 322_023 | 「……、ああ、そうだな」 | |
泪 | 323_019 | 「……親父?」 | |
漣 | 324_022 | 「――親父様!少しいいですか?」 | |
泪 | 325_020 | 「っ」 | |
漁火 | 326_024 | 「っ。お、おう!いいぞ。なんだ、漣」 | |
漣 | 327_023 | 「面通し(めんとおし)の順序なんですが――」 | |
漁火 | 328_025 | 「おう、それな。すでに考えてある、わしの部屋に来い」 | |
漣 | 329_024 | 「はい」 | |
(さりげなくその場から去っていく漁火。その後姿を見送る泪) | |||
泪 | 330_021 | 「……」 | |
*** | |||
(捕虜の中にまぎれていたのは珠菜と彩登。無事に杯組に選ばれ水輪の中に入ることを許された) | |||
滴 | 331_017 | 「おまえとおまえ。名は?」 | |
珠菜 | 332_019 | 「珠菜」 | |
彩登 | 333_019 | 「あ、彩登です」 | |
滴 | 334_018 | 「(頷いて)我は水輪の滴。こちらは、泪」 | |
泪 | 335_022 | 「(軽く頷く)」 | |
滴 | 336_019 | 「このような幼子(おさなご)が戦に巻き込まれるは不憫(ふびん)には思うが、これも戦国の世の習い。我ら水輪の杯を受けられることになったからには、おまえたちの安全は我らが保証するゆえ」 | |
彩登 | 337_020 | 「竜の、お面……」 | |
滴 | 338_020 | 「ふふ。この面は、我らが水輪の本家である証。また、我らが竜神の子である証。水輪の印のようなもの。おまえたち杯組の者たちがこれを得るはかなわぬがな」 | |
珠菜 | 339_020 | 「正式に、『水輪一族』を名乗るものだけがつけることを許されるお面、なのですわね」 | |
滴 | 340_021 | 「そういうことえ」 | |
珠菜 | 341_021 | 「こうして杯組として受け入れていただけることは光栄ですけれど……こんなにたくさんの人数を受け入れてばかりいて、水輪は大変ではありませんの?捕虜も合わせれば、今回だけでも三十名ほどいたはず」 | |
泪 | 342_023 | 「はは。余計な気回しは必要ない。我らは『一族』とはいっても、実際には大名と同じだけの権限がある。戦のたびにこうして人数を増やしていくことも、許された行為なのさ」 | |
珠菜 | 343_022 | 「そうなんですの……すごいですわ」 | |
滴 | 344_022 | 「――さて。おまえたちにはこれから、面通しの用意をしてもらう」 | |
珠菜 | 345_023 | 「――面通し?」 | |
滴 | 346_023 | 「そうえ。本来ならば捕虜から先にするはずだったが、今回は杯組のほうから始める。それで、おまえたちが最初というわけだよ」 | |
彩登 | 347_021 | 「面通しって……なにをすればいいの?」 | |
泪 | 348_024 | 「なにも」 | |
彩登 | 349_022 | 「なにも?」 | |
滴 | 350_024 | 「そうえ。ただ黙っていれば良いのだよ。すべては、瀧子様が善いようになさってくださる」 | |
彩登 | 351_023 | 「瀧子様……?」 | |
滴 | 352_025 | 「(頷く)瀧子様にお目通りかなうことを光栄に思うことえ。我ら水輪の、――神なのだから」 | |
*** | |||
(心持ち、ぼそぼそと) | |||
彩登 | 353_024 | 「――神様、だって」 | |
珠菜 | 354_024 | 「これは……想像以上でしたわね」 | |
彩登 | 355_025 | 「神様って、人じゃないのかなあ?」 | |
珠菜 | 356_025 | 「さあ……どうでしょう。わたくしたちは、そういうものとは縁がありませんでしたし……」 | |
彩登 | 357_026 | 「どんな人なんだろ」 | |
珠菜 | 358_026 | 「今夜お会いできるようですけれど。念のため、みなさまにご報告したほうが良さそうですわね」 | |
彩登 | 359_027 | 「うん。……もうみんな近くまできてるかなあ?」 | |
珠菜 | 360_027 | 「ええ。先ほど合図が見えましたもの。向こうも、すでに動いているようですわ」 | |
彩登 | 361_028 | 「みんなにもっといい報告が出来るように、がんばらなくちゃねっ」 | |
珠菜 | 362_028 | 「ふふふ、そうですわね。――シッ」 | |
(滴が歩いてくる) | |||
彩登 | 363_029 | 「……」 | |
珠菜 | 364_029 | 「……」 | |
滴 | 365_026 | 「――珠菜。彩登。さあ、二人ともこちらへ」 |