●鬼神楽●
【〜楽業の章・第8話〜】
この色…東風
この色…鬼火
セリフ番号
「セリフ」
(炎が広がっていく)
01_珠菜 「―――ね、『アイツ』ってどんな方?」
02_左京 「口うるさい女だ」
03_珠菜 「それだけですの?」
04_左京 「(苦しい息の下から)顔は…良く覚えていない。ロクに見てやらなかったな」
05_珠菜 「(呆れたように、でも笑顔で)ひどい方ですわねえ」
06_左京 「かもしれん。…お前の顔も…良く見なかったな」
07_珠菜 「わたくしも…。でも、…見なくてもわかりますわよ。
その方はきっと美人さんですわよね。わたくしに声が似ているんですもの」
08_左京 「…どういう根拠だ(咳き込む)」
09_珠菜 「それに、あなたも絶対に美丈夫さんですわ。
だって、わたくしの好きな方と声が似ているんですものね」
10_左京 「…ふ、…そういう所も、良く似ている―――」
(SE:爆発/モノローグ)
11_近衛 「主のため―――と口では言いながら、実際には己のためだった。

遠い昔に、夢を見たことがある。
いつのことだったか、ただ一度だけ。
気がつけばそこは、暖かな光の中だった。
暗闇と血飛沫に慣れたこの身体に、その光はどこまでも優しく注ぐ。

それは初めての思い。初めて、己のための願望を持った瞬間。

最初は戸惑うだろう。
けれどそこは確実に自分たちの居心地のいい空間になるという確信があった。
自分一人だけではなく、己の一族もその暖かさの中に佇ませることが出来れば。
それは、東風一族の頭領として、初めて戦い以外のことで抱いた、希望だった」
(モノローグ終わり/東風の生き残っているものが集まっている)
12_真木 「鬼火の頭領ですって!? 本当ですの、円!」
13_円 「ああ。里に、本物が居るらしい。八重が連れて来たんだ」
14_真木 「八重が?」
15_茶々 「八重…、生きていたのね…! 良かった」
16_真木 「でも茶々…芳もあれきり戻っては来ませんし…なんだか不気味ですわよ」
17_浅葱 「結局、巴も分かれてそれっきりですか…」
18_円 「あれから屋敷内を探してはみたが、左京や卓麻、白銀にも会えずじまいだしな」
19_浅葱 「真木。碧はどうしました?」
20_真木 「…あの子も春日も、三手に分かれてからそれきりですわ、浅葱」
21_茶々 「…なんてことなの…」
22_円 「…茶々、真木、浅葱。とにかく、一度里に戻って、全てを近衛に報告するんだ」
(タイトルコール)
23_近衛 「『鬼神楽』最終章   〜楽業の章〜 第八話」
(主の屋敷にて。芳たちと別れ、一人で歩く比奈伎。顔がそっくりなことに疑問を抱いている)
24_朱音 「(E)比奈伎! そんな手段で私を救おうなどと考えるな!」
25_芳 「(E)アタシは、芳。こっちは、静。二人とも、東風一族だよ」
26_比奈伎 「(M)俺が刺した東風一族のあの女―――怖ろしいほどに良く似ていた。
全くそのものだった。……朱音を、刺したかと、思った―――」
(比奈伎が一人で屋敷内を探索中、鋭い気配に気づく)
27_比奈伎 「―――!(気配に気づく)」
28_比奈伎
28_白銀
※「(武器が交差する)」
29_白銀 「(…トン)ここから先に行きたいの?」
30_比奈伎 「…その狐の面…東風か」
31_白銀 「(壁に沿って歩きながら)
僕は別にアンタが何処に行こうが興味はないけど…アンタ、鬼火だろ?」
32_比奈伎 「ああ―――俺は鬼火の比奈伎」
33_白銀 「ひなき、ひなき…ああ! 確か、副頭領だよね?」
34_比奈伎 「…立場的にはな」
35_白銀 「そ。(向き直って)じゃあ悪いけど、頭(かしら)には消えてもらうから」
36_比奈伎 「…っ」
37_白銀 「でも、まずはアンタだ。次は、頭領」
38_比奈伎 「…」
39_白銀 「あんたたちの事は良く知ってるよ。頭領の名前もね。確か、あかね…だっけ?
女が頭領なんて、信じられないな。鬼火の連中も物好きだよね」
40_比奈伎 「…情報がいってるようだな」
41_白銀 「まぁね」
42_比奈伎 「……お前の名前は」
43_白銀 「…聞いてどうするの、って言いたいところだけど…まあ、良いや。
教えてあげるよ。僕だけアンタの事知ってるのも、不公平だしね。
僕は東風の白銀。切り込みを務めてる」
44_比奈伎 「切り込みだと?」
45_白銀 「そうだよ」
46_比奈伎 「悪いが…俺の知っている切り込み担当は、もっと…強いヤツだった!」
47_白銀 「(刃を受ける)!!」
(SE:互いに後方へ飛び下がる)
48_白銀 「……ヘエ…鬼火は、正々堂々の勝負が好きなんだと思ってたけど…
案外、骨がありそうだね」
49_比奈伎 「お前相手に、正々堂々の勝負は必要ないだろう」
50_白銀 「言ってくれる…!」
(何度か打ち合う)
51_白銀 「まだわからないの?
僕らの目的は「勝つ」こと。あんたたちの目的は「負けない」こと。
ここですでに根本的に違う。
気概の時点ですでに、あんたたちは僕らに負けてるんだよ」
52_比奈伎 「『想い』の強さなら、絶対に負けない」
53_白銀 「残念だけど、祈りで勝てるほど、僕は弱くないよ」
54_比奈伎 「(息切れ)試してみなくては…わからないだろうッ!」
55_白銀 「(刃を余裕で受け流して)ハン、鬼火も大した事無いな。
ホラホラ、左がガラ空きだ、そんな技で僕を殺そうって言うの…!?
ハハッ、甘く見られたもんだよねッ!!」
56_比奈伎 「ク…ッ!! (刀を弾かれ、倒される)…う!」
57_白銀 「(膝を比奈伎の腹部に乗せて、馬乗り)―――捕まえた。…さあ、これからどう出る?」
58_比奈伎 「…ッ」
59_白銀 「ククッ、無駄無駄! どんなに足掻いたところで、僕に勝てやしないんだ」
60_比奈伎 「…!」
61_白銀 「さーて、まずはその、忌々しい鬼の面をいただこうか。
…初めて見た時から、気に食わなかったんだよね!
(刃を振り上げて、地面に突き立てようと)」
62_比奈伎 「!」
63_白銀 「これで、終わりだ!」
(白銀の刃が比奈伎の面をかすめる)
64_比奈伎 「(必死)―――白銀ッ!!」
65_白銀 「―――」
(面、ピシリッ)
66_白銀 「―――、…え?(思わず腰を浮かす)」
67_比奈伎 「!(思い切り身体を起こす:ガバッ)(懐剣で刺す:―――ドスッ)」
68_白銀 「(刺される)」
(割れた面が、落ちる(カラカラーン……)。血が落ちる(………タッ、ポタポタッ…)
69_比奈伎 「(白銀の腹部に、懐剣を突き立てたまま)ハァッ、ハァ…ッ」
70_白銀 「―――たくま?」
71_比奈伎 「…え?(はじめて、その面を正面から間近に見る)」
72_白銀 「…ハ、いや―――(ふらり、と比奈伎から離れ、下がる)」
73_比奈伎 「…?」
74_白銀 「(壁まで下がり壁に背をつけて、腹部に刃を受けて、苦しげに)…ッ、ハ…ッ…ハァ…ッ…
(血だらけの自分の掌を見て、自嘲気味に)懐剣、か…
つくづく…鬼火は、仕込みの好きな…一族、だな―――」
75_比奈伎 「(半ば信じられないと言うように)…お前―――油断したのか?」
76_白銀 「油断…? ……う、ん……そう、みたいだね」
77_比奈伎 「何故だ。…お前は強かった。本当なら…俺では勝てなかったはずだ」
78_白銀 「…! は、はは…嬉しい事…言ってくれる…じゃないか……、その……顔で―――」
79_比奈伎 「顔…? 何の事だ」
80_白銀 「良いから…行けよ―――おまえの頭領を…助けに来たんだろ…(咳き込む)」
81_比奈伎 「……おい、白、銀…」
82_白銀 「(一瞬目を見開いて)……もう一回」
83_比奈伎 「? 白銀―――」
84_白銀 「…(小さく笑って)そうか…(がくりと膝をつき)
(M)ずっと…名前を呼んで欲しかったのかもしれない―――
きっと、そうする事で…認めてもらえると、そう思っていたのかも―――(倒れる)
(苦笑)我ながら、子どもじみてるなァ―――(意識を失う)」
(比奈伎、その場から去り、倒れた白銀の元にだんだん足音と、やり取りが近づいてくる)
85_碧 「春日!? ちょっと待ってよ、何処に行くの!?」
86_春日 「だって…俺じゃどうしようもないよ!」
87_碧 「春日、このまま逃げる気!?」
88_春日 「だって! 結局左京にも卓麻にも…白銀にも会えないし、俺たちだけじゃ危ないよ!」
89_碧 「でも、もう少し探せば誰かいるかもしれないじゃない!」
90_春日 「俺は東風の里に帰る! 碧、おまえは残るなら一人で探せば良いよ!」
91_碧 「バカ!! 大バカ春日ー!!」
(場所は全く変わる。主の屋敷に一人迷い込んでしまった瀬比呂。あたり一面の血の海を見て)
92_瀬比呂 「(走りながら)何、これ…何、これ!? 何がどうなってるの…!?
もう、戻らないの!? どうやったら戻るのか誰か教えてよ…!!」
93_碧 「(離れたところから)!? 誰かいるの…? 春日!?」
94_瀬比呂 「!!」
95_碧 「え…八重…!?」
96_瀬比呂 「え…っ?」
97_碧 「ううん、違う…その鬼の面…も、もしかして、鬼火一族なの!?」
98_瀬比呂 「う、うん…ぼ、僕は…僕は、瀬比呂…鬼火の……
(表れた人物の顔を見てはっとする)…睦月!? 無事だったんだね、良かった…!!」
99_碧 「あ、アタシは…睦月って言う子じゃ、ないよ…」
100_瀬比呂 「…だ、って、すごく似てる…! ううん、似てるなんてそんな感じじゃなくって…
そっくりだよ、絶対睦月だよ!」
101_碧 「睦月って言う子は…、……。とにかく、アタシは睦月じゃないよ。アタシは、東風の碧。
アタシの里にも…君とそっくりな子がいるよ。…八重っていうの」
102_瀬比呂 「僕に…そっくりな子?」
103_碧 「うん―――ちょっと生意気だけどね、…良い子だったんだ…
でも、この屋敷ではぐれちゃって…(膝を抱えて涙を堪える)」
104_瀬比呂 「……ほんとに、睦月じゃ、ないの…?」
105_碧 「うん。…ごめんね?」
106_瀬比呂 「睦月じゃ…ないんだ…」
107_碧 「うん……」
108_瀬比呂 「…ねえ、東風の一族って、言ったっけ…? どんな一族なの?」
109_碧 「え?」
110_瀬比呂 「ええっと、…碧、だっけ。良かったら、聴かせて…」
111_碧 「うん。…頭領はね、近衛っていう、すごく頼りになる人でね…」
(回想シーン/碧の脳裏に、何事にも揺るがないどっしりと構えた近衛の頼もしい姿)
112_近衛 「良いか。これは我ら一族の命運にも関わる大きな戦になるだろう。
碧、八重に至るまで、みなの力が必要になる。
我らの主、隆利様が表に立ち、我ら東風一族が光の元でその名を馳せるため、
今ここに、全ての力を出し尽くせよ。

そうすればきっと、我らの先に見えるものは、暖かな眩しい光だ。
闇の中ではなく、光の下で、一族は生きる事が出来る。

―――時は今。
東風一族が起つべき時が来たのだ」
(回想終わり)
113_瀬比呂 「ええと…碧…? 」
114_碧 「…ただ、光の下に出てみたかっただけなのに」
115_瀬比呂 「え?」
116_碧 「もう…何が何だか…!! いったいどうしてこんな事になっちゃったのか」
117_瀬比呂 「うん…僕も、早くみんなに会いたい…あっ(近づいてくる武士たちの気配に気づく)」
118_碧 「…気付いた? …たくさんの武士がこっちに向かってる」
119_瀬比呂 「う、うん…、ど、どうしよう…っ」
120_碧 「………アタシ、巴のあとを追っていった八重を、追えなかったんだ」
121_瀬比呂 「え? 八重って、僕に似てる、っていう…」
122_碧 「だからっていうわけじゃないけど。アタシ…今度は、逃げないで、…戦う」
123_瀬比呂 「碧!? 何言ってるの!?」
124_碧 「…アタシ…アタシね、…結局、これくらいしか、出来ることないんだもん。
だから、これだけは負けたくないんだ。
(小さく笑って)こんな事、敵のはずの君に話すのって…変だよね」
125_瀬比呂 「…ううん。ううん…! 変じゃないよ! だって…僕らが敵同士って、誰が決めたの!?
そんな風に言わないでよ碧!! 一緒に行こうよお!!」
126_碧 「瀬比呂…ありがと…。…良いから…行きなさい!!」
127_瀬比呂 「碧! いやだよおお! 碧ー!!!」
(爆音が響く。爆炎の中に消える碧/倒れた白銀の元についた春日。血だらけの白銀を抱き上げる)
128_春日 「―――白銀…! 白銀っ!!」
129_白銀 「(ふと目を開ける)」
130_春日 「白銀…!(倒れた白銀を抱きかかえる)」
131_白銀 「(苦しげに)…はは、ちょっと…どじったみたいだ」
132_春日 「ばか…! ばかぁ…! 何やってるんだよ!」
133_白銀 「…春日…泣いてんの…?」
134_春日 「ば、ばか! 泣いてねえよ!」
135_白銀 「びっくりしたよ…そっくりなんだもんなァ…ちょっと、躊躇っちゃったよ…この僕が―――」
136_春日 「え!? 躊躇ったって…白銀が敵相手に!?」
137_白銀 「同じ、顔だ―――」
138_春日 「同じ顔…?」
139_白銀 「うん―――(咳き込む)…あーぁ……、すっごく、痛い、なァ……―――」
140_春日 「刺されたんだから、当たり前―――……白銀? …白銀……―――」
(比奈伎、白銀の元から離れて走ってきて)
141_比奈伎 「(走ってきて)―――ッ(がくり、とよろける)
……やはり、切り込み相手にタダと言うわけには行かなかったか…」
(東風の面々が集まっている)
142_八重 「―――白銀が死んだって!? そんな―――馬鹿な!! 何言ってんの春日!?」
143_茶々 「そ、そんな…、茶々には信じられない…! それは本当なの? 春日…」
144_春日 「ほんとの事なんだよ…っ八重、茶々…! 俺が見つけたときは、もう、虫の息で」
145_真木 「(溜息)まるで、悪い夢でも見ているようですわね…」
146_浅葱 「私たちは全員、その悪い夢に掴まって逃げられないんでしょうか」
147_近衛 「戦いに生きる者はいつか死ぬ。それだけの事だろう」
148_円 「で、でも近衛、…あの芳も、左京も死んだんですよ」
149_近衛 「芳は死んだりはしていない」
150_八重 「近衛…」
151_近衛 「…私たちはまだ、その最期を見たわけではない―――見もしないうちから決め付けるな」
152_円 「近衛…ですが!」
153_近衛 「芳はこの一族の内でも特に強い女だ。アレは決して負けるはずが無い」
154_円 「近衛…」
155_近衛 「春日が確認をした白銀だけは、…どうしようもないが。
それでも、左京の事も我らが直に確認したわけではない―――
屋敷内では、そのまま、会えずじまいなのだろう」
156_真木 「…そうですわよね。ただ、会えなかったというだけで、
死んだと決め付けるのは早計ですわ」
157_浅葱 「真木。卓麻はどうしたんです」
158_真木 「左京と同じく、屋敷で見かけたのが最後ですわよ」
159_浅葱 「では少なくとも屋敷へ行けば会えるという事ですよね」
160_春日 「浅葱。…うん、そうだよね…」
161_近衛 「円。采配を頼む」
162_円 「…わかりました。とにかく、左京、卓麻に合流する事を優先しよう」
163_茶々 「そうね」
164_円 「…これが俺の最後の作戦になるかもしれない」
165_茶々 「円!?」
166_円 「悪い意味に取るんじゃない、茶々。
この作戦がうまくいけば、…この戦に勝つことが出来れば、
我らが表に出ることが出来るからだ」
167_近衛 「そうだ。表に出ることさえ出来れば、もうこうして邪魔な一族を排除するための作戦も、
仲間を切るような真似も、必要は無くなる」
168_真木 「表に、出さえすれば」
169_近衛 「そうだ。良いか。ここが正念場だ。みな、勝利を確実に掴み取るんだ」
170_春日 「近衛」
171_近衛 「我ら東風が、勝つんだ。それ以外の結末は考えるな」
172_浅葱 「私たちが、勝つ」
173_近衛 「勝ち残るのは、我々東風一族だ。それ以外には決してありえない!」
174_円
174_浅葱
174_八重
174_茶々
174_真木
174_春日
※「(返事)」
175_円 「では、作戦を伝えるぞ。上手くいくかどうかは……、
そうだ。良く分かってるだろう、いつもの事だからな。お前たちにかかってる」
176_浅葱
176_八重
176_茶々
176_真木
176_春日
※「(返事)」
(円、おおよその計画を伝える。それに対して準備を始める面々)
177_春日 「そういえば、鬼火の頭領を捕まえたって、ほんとなわけ? 近衛」
178_近衛 「ああ、奥の牢に入れてある。…図らずとも、主が我らに命じた通りになったというわけだ」
179_真木 「東風の里に鬼火頭領を捕虜として捕らえてある事に…というヤツですわね。
八重が連れて来たと聞きましたけれど…それにしても、どうやって鬼火の頭領を。
相当の手練のはずですわよね」
180_八重 「八重は特別なことは何もしてないんだ」
181_真木 「え?」
182_八重 「良くわかんないんだけど…この狐の面を取ったら、自分から着いてきてくれたんだよ」
183_近衛 「おまけに、何者かに案内され、既にこの里の付近に一人で居たと言うんだ」
184_円 「…どういう事だ?」
185_浅葱 「八重のいう事は本当のようですよ、円。牢に入れる際も大人しいもので」
186_近衛 「その、案内をしてきた者の正体は気になるが…
鬼火頭領というからには、相当に猛々しい猛者かと思っていたが…
道理も通じ、我らに逆らう様子は見せないのでな」
187_円 「…しかし…それはまたそれで、不気味ですね」
188_真木 「ともかく、動かなければ何も始まりませんわ」
189_浅葱 「そうですね。ひとまず、円の作戦通りに」
190_真木 「近衛はこのまま里で、わたくしは屋敷へ向かいますわ」
191_浅葱 「真木、気をつけて」
192_春日 「ちょ、ちょっと待って!」
193_円 「春日?」
194_春日 「…俺も、屋敷に行くよ!」
195_茶々 「春日…」
196_春日 「……待つのってホントは好きじゃないんだ。
なんか…自分だけ残されちゃったみたいで、…ちょっと怖い」
197_八重 「じゃあ、今回は八重が近衛を守ってここで待つよ!」
198_円 「では、八重と春日の配置を換える」
199_浅葱 「ええ。では私は、茶々と一緒に左京、卓麻、芳、そして碧を探します」
200_茶々 「茶々と浅葱は屋敷の西へ、春日と円は、東へ。…春日、大丈夫?」
201_春日 「わかってる、おれがやるしかない。
…大丈夫、今度は絶対に逃げたりなんかしないよ。…絶対に」
(その、東風の里の牢屋にて)
202_朱音 「―――静かだな。あの少年について来て…
まさか東風の里に連れてこられるとは思っても居なかったが…
あの少年が言っていた事が気になる―――

そして、この東風一族。
私たち鬼火一族に成り代わろうとしている、影の一族…。…だが」
(主の屋敷にて)
203_寿々加 「―――とにかく、ここでうだうだしててもしょうがねえ」
204_佐久弥 「そうだね。…危険だけれど二手に分かれよう」
205_寿々加 「ああ。…ここまで来たら、この屋敷で何を見つけるか怖い気もするけどな(苦笑)」
(寿々加と分かれてからしばらくして…、佐久弥、既に息の無い夜紫乃を見つけた)
206_夜紫乃 「(E)佐久弥〜、見て見て! これ! 僕が初めて捕まえたんだよ!」
207_夜紫乃 「(E)うー、初陣がこんなに緊張するもんだなんて思わなかったなぁ…
佐久弥、僕、失敗しないかなあ?」
208_夜紫乃 「(E)朱音さまが、これからは寿々加と組めって!
寿々加と一番息が合うって褒めてくれたんだ!」
209_夜紫乃 「(E)いつかきっと、佐久弥くらい強くなるんだからね!」
210_佐久弥 「……夜紫乃……」
(そこに近づく一つの気配)
211_春日 「―――鬼面か。ってことは、お前、鬼火?」
212_佐久弥 「(…ゆっくり…と振り向く)……だったら?」
213_春日 「預かってるよ。二人ほどね。
その前に一人、あんまり煩く反抗するから、殺しちゃったらしいけど?」
214_佐久弥 「…」
215_春日 「ああ、そうそう! そこに、転がってるヤツじゃない?」
216_佐久弥 「…」
217_春日 「…さてと、預かってる方のを無事に返して欲しいなら、大人しくしろよ」
218_佐久弥 「(チャキ、と武器を構える)」
219_春日 「(ちょっとだけ焦って)おっと。俺が一刻までに戻らなかったら、
里に預かってる連中を殺す手はずになってるんだ。
残ってる仲間を守りたかったら、物騒な事考えるのは止めた方が良いぜ!」
220_円 「春日! どうした!?」
221_春日 「捕まえた…捕まえたよ円!」
222_円 「何だと!? 鬼火か…!」
(円が走ってくる)
223_円 「…鬼火だな」
224_佐久弥 「…。東風の里に二人、預かっていると言うのは本当?」
225_円 「本当だ」
226_佐久弥 「名は」
227_円 「一人は名はまだ確認出来ていない。歳若い…そうだな、この春日くらいの少女が一人。
それからもう一人は、鬼火頭領、朱音だ」
228_佐久弥 「…朱音を」
229_円 「そうだ。おまえたちの一族の頭領は、我らが東風の手元にある。
頭領に会いたくば、我らの指示に従ってもらおう」
230_佐久弥 「(M)…この二人程度なら抜ける事は簡単だけれど。
朱音のことが本当なら、確かめる必要がある―――」
231_佐久弥 「…分かった」
(東風の里に、佐久弥をつれて戻る、春日・円)
232_春日 「鬼火の一人を持ち帰ったぜ! 近衛!」
233_円 「…いないな、牢の方へ行っているのか」
234_春日 「とにかく、コイツどうする? 円」
235_円 「ひとまず、牢に入れておくか…」
236_春日 「おい、逆らったら殺すぜ、分かってるだろうな!」
237_佐久弥 「…私たちが捕虜を扱う時は、きちんと顔合わせをした上で名を名乗り、
その上で必要ならば命をもらっていた。あなたたちは…そういう事もしないのか」
238_円 「…いいだろう。春日、面を外させろ。ただし、面だけだぞ。慎重にな」
239_春日 「ああ、分かってるよ。おっとお前、手は頭の上にな」
240_円 「刀はこちらへもらう(佐久弥からもらう)」
241_春日 「外すぜ。(面を外す)…!?」
242_円 「な、んだと!?」
243_佐久弥 「(静かな怒り)―――私は鬼火の佐久弥。あなたたちが殺した夜紫乃の兄に当たる」
244_春日 「うそだ…!! し、白銀…!?」
245_近衛 「(少し遠くから)どうした! 春日、円か!」
246_円 「近衛…! き、来て下さい!」
247_春日 「近衛…! なんだかおかしいんだ!」
248_近衛 「どうした」
249_円 「近衛…、鬼火の誰か一人でも良い、直接顔を見たことは?」
250_近衛 「―――いや、ないな」
251_円 「もしそっちにも捕虜がいるなら…顔を確認してください」
252_近衛 「どういう事だ」
253_春日 「俺たちにも良く分からない…!」
254_円 「俺も驚いた…これじゃまるで、…白銀そのものだ!」
255_近衛 「円、春日、落ち着け、何を言ってる?」
256_春日 「これが落ち着けるか!! とにかく、顔だ! 顔を確認してくれ! 捕虜は!」
257_近衛 「こっちだ」
258_春日 「おいおまえ! おまえはこの牢屋で暫く静かにしてろよ!?」
259_佐久弥 「…」
(近衛、円、春日、別の牢屋へ)
260_近衛 「そこもとは本当に鬼火の頭領か」
261_朱音 「そうだ」
262_近衛 「面を外していただきたい」
263_朱音 「(苦笑)私にやらせるのは危険ではないのか? そちらで外すと良い。
私はそちらの捕虜だ、抵抗はしないさ」
264_近衛 「円、外させろ」
265_円 「はい」
(円、慎重に朱音の鬼の面を外す)
266_円 「!?」
267_春日 「や、っぱり…!」
268_近衛 「かお、る―――ばかな!! やっぱりとはどういう意味だ、春日」
269_春日 「さっき…さっきこっちで捕まえたやつ…白銀だったんだ!」
270_円 「いや、もうそっくりとかそんな程度じゃない…そのものだった!」
271_近衛 「…一体、どういう事なんだ」
(朱音の顔が、あまりにも芳そのものだった事に驚いている三人の後ろにいつの間にか佐久弥が)
272_佐久弥 「今重要な事はそんな事ではないよ」
273_近衛
273_円
273_春日
※「!?」
274_佐久弥 「私から監視を外すなんて、するべきじゃなかったね」
275_円 「お前…あの牢からどうやって…抜け出たんだ!?」
276_近衛 「…これは…驚いたな。こちらの青年は…まるで白銀そのものだ」
277_春日 「だろ…! …でもコイツは、間違いなく鬼火なんだよ!」
278_佐久弥 「? あなたたちが何を言っているのかはわからないが―――
ただ一つ確かな事は、あなたたちが私の弟を殺したと言う事だ。私は…絶対に許さない」
279_円 「近衛! ここは俺たちに!」
280_春日 「八重が居るんだろ、合流して身を守っててよ!」
281_佐久弥 「…誰でも良いよ。貴方たちが東風一族なら、誰でも同じ事だ」
282_円 「この殺気…相当の腕だな」
283_佐久弥 「あなたたちを殺した所で夜紫乃が戻ってくるわけではないけれど…
あの子を奪われた痛みは、味わってもらうよ―――」
284_春日 「え? よしのって…」
285_円 「春日、ソイツから離れろ―――!」
286_春日 「え?」
287_佐久弥 「遅い、よ」
(春日を斬る佐久弥)
288_円 「!! かすが―――」
(返す刃で、円を斬る)
289_円 「…ぁ(倒れる)」
290_佐久弥 「―――」
(目の前に倒れた東風の二人を見下ろしながら、佐久弥、夜紫乃の笑顔を思い出す)
291_夜紫乃 「(E)あ、佐久弥のこと疑ってるわけじゃないからね?
信じてるから! これは、ホントだからね―――」
292_佐久弥 「(刀をしまう)……」
293_夜紫乃 「(E)佐久弥! 何処行ってたんだよ、遅かったじゃんか!」
294_佐久弥 「………夜紫乃」
(黙って事の成り行きを見守っていた朱音。今までの会話から、夜紫乃の死を知る)
295_朱音 「…佐久弥、お前もここに来ていたんだな」
296_佐久弥 「……朱音」
297_近衛 「…驚いたな。これが鬼火の実力か。我ら東風が、こうも容易く討たれるとはな…」
298_朱音 「貴方は、東風一族の頭領か」
299_近衛 「ああ。東風の…近衛という(刀を抜く)」
300_佐久弥 「朱音!(刀を投げる)」
301_朱音 「ああ、(それを受け取りざま抜いて)ハ!」
302_近衛 「ぐぅっ!(それを受ける)」
303_朱音 「(鍔(つば)で競り合いながら)東風は…私たち鬼火に成り代わって
何とするつもりだったんだ!」
304_近衛 「(持ちこたえながら)…先の事は分からん。ただ(弾く)」
305_朱音 「…ただ?」
306_近衛 「ただ、我ら一族が光の下(もと)で生きる事を望んだだけだ」
307_朱音 「…光の下(もと)」
308_近衛 「我らが主が表に立てば、それは現実となるはずだった!(刀を振るう)」
309_朱音 「(刀を受ける)東風をそうやって操る事が総て主による策略だとしてもか!」
310_近衛 「…何だと」
311_朱音 「目を覚ませ、東風の頭領!(討つ!)」
312_近衛 「(堪える)何を言っている…!」
313_朱音 「主の本当の狙いは、鬼火と東風の挿げ替えなどではない…
我ら鬼火、そして東風をも総て滅ぼすのが真の目的なんだ!!(弾く)」
314_近衛 「(弾かれる)!! (息を切らし)はぁ、はぁ……なん、だと?」
315_朱音 「…私をここへ案内してきたあの子ども…あれが何者かは分からないが、
あの言葉を聞いて私は得心した」
316_近衛 「何を分かったと言うんだ」
317_朱音 「主の望みは、私たちの殺し合いだ。鬼火であろうと東風であろうと関係は無い。
主は…いや、主であったものは、
我らが殺しあうさまを、上から面白おかしく見物しているんだ」
318_佐久弥 「…朱音、それは」
319_朱音 「(頷く)…かつておまえにも伝えたように、以前から、
主の在り様には疑問を持っていたが…まさかその疑惑が、こんな形で現れるとはな」
320_近衛 「…まさか、そんな…」
321_朱音 「そして、最終的に主が何を望んでいるか、までは分からないが…
少なくとも、主は、どちらか片方を生き残らせるつもりなど更々無い。
それだけは確かだろうな」
322_佐久弥 「(小さく頷いて)東風の頭領…貴方はどう出る?」
323_近衛 「どのみち、私の勝ち残る可能性は少ないな」
324_朱音 「…私は、これ以上の無用な命の奪い合いは避けたい」
325_近衛 「これが本当に主による我らへの裏切りだというならば…
私とて、無駄に一族を失うような事はしたくはない。それに」
326_朱音 「それに?」
327_近衛 「貴女の言うように、そう言われれば納得する事が多い―――
私自身も、主を信頼しきっていたわけではないのでな」
328_朱音 「では」
329_近衛 「(頷く)まずは仲間を探し、…主への確認はそれからだ」
330_朱音 「(頷く)我らも、仲間と合流したい。
こちらに預かっていただいている一族の者は返していただくが…いかがか」
331_近衛 「異論は無い―――恥ずかしい限りだ。私などは頭領をやるべき器ではないな」
332_朱音 「何を仰るか、東風の頭領殿。貴方が居てこその東風一族なのだろう」
333_近衛 「…なるほど。貴女が鬼火の頭領である事に、それこそ得心がいった―――
貴女とは別の形でお会い出来れば良かったかもしれんな」
334_朱音 「これからどうなさる」
335_近衛 「許されるなら、主の屋敷に仲間を迎えに行きたいと思っている。
…と言っても、もう何人残っているかは分からないが」
336_朱音 「…そうだな。それは私たちも同じ―――」
(近衛、里を去る(実はこの時点で、朱音からの攻撃にて多少の傷を負っている))
337_朱音 「…どうやらこの里には伊織も来ているらしいんだ。
佐久弥、伊織を探して合流してくれ」
338_佐久弥 「うん」
(夜紫乃のことを思うと、朱音も酷く胸が痛い。佐久弥に何か言おうかと思うが、何も思いつかず)
339_朱音 「佐久弥」
340_佐久弥 「なに?」
341_朱音 「…いや、私は他の小屋を念のために回っておく」
(佐久弥が入れられていた牢に近い位置の牢へ向かう。そこには、蹲る伊織の姿が。
憔悴しているが、怪我はなさそうだ。ガチャリと牢が開く)
342_伊織 「―――佐久弥!」
343_佐久弥 「伊織」
344_伊織 「…っ」
345_佐久弥 「遅くなってごめんね」
346_伊織 「…馬鹿ぁあああっ!!」
347_佐久弥 「…」
348_伊織 「遅いよ…遅いよ佐久弥ァ…!! 夜紫乃死んじゃった…死んじゃったよおおおっ!!!」
349_佐久弥 「―――うん」
350_伊織 「どうして、どうしてもっと早く来てくれなかったの…っ!?
佐久弥が居たら夜紫乃は死ななかったよおっ!!」
351_佐久弥 「………ごめんね」
352_伊織 「―――っ!(わあっと泣き崩れる)夜紫乃…っ!!」
353_佐久弥 「……ごめん―――」
(朱音、他の小屋を回っていると、血の臭いを感じた)
354_朱音 「…血のにおいだ」
(小屋をあける)
355_朱音 「―――…睦月…?」
(戸をあけると、目の前には)
356_朱音 「睦月、ここに居たのか…。たった一人で、お前は…」
357_睦月 「(E)朱音さま(笑顔で呼びかける)」
358_朱音 「………来るのが遅くなって、すまなかった―――」
(そして、ようやく合流する朱音・伊織・佐久弥)
359_伊織 「―――朱音さま!?」
360_朱音 「伊織」
361_伊織 「―――っ! 夜紫乃、夜紫乃が…っ」
362_朱音 「…ああ。…つらかったな」
363_伊織 「朱音さま…っ!!」
364_朱音 「―――みんなが待ってる。主の屋敷へ戻ろう」
【続く】