●鬼神楽●
【〜楽業の章・第7話〜】
この色…東風
この色…鬼火
この色…武士・女中・ガヤ(注:ガヤ・全員部分は、ファイル名 セリフ番号_お名前 )
この色…その他
ガヤ:一本のファイルに、三パターンほど入れて下さい。
    その際には、それぞれの間を2秒ほど空けてくださると助かります】
※万一使用セリフに不安がある場合には、よろしければ、こちらから指定させていただきます。
セリフ番号
「セリフ」
(モノローグ)
01_比奈伎 「(M)―――それは、たった一つの存在。
触れずとも良かった。空気を感じていられるだけで、充分だった。

―――もし、万が一、と。『その事』を考えただけで、息が出来なくなる。
手足が震え、血の気が引き、頭が割れるように痛む。
『その事』だけが自分の総てを支配していく感覚に捕らわれていく。

やがて…日は燃え尽きぬまま山々に飲み込まれて、空は闇に食われる。
決して眠りが訪れる事は無く、ただ、時が過ぎ行くのをじっと待つよりほかない。
同室の青年が手ずから調合し、任務に発つ前に手渡された薬も効く事は少ない。

外では、仄かな月明かりが朧に辺りを照らしているのだろう。
だが、この目に映るものはただ、暗い闇だ。
その闇夜の昏く深く、そしてなんと―――永い事か」
(モノローグ終わり/今より少し昔。事件が起こる前。朱音たちの任務先の戦場にて)
02_武士:7 「鬼火の大将だ!」
03_武士:1 「鬼火の頭領がいたぞ!!」
04_武士:2 「逃がすな…回り込め! 確実に仕留めろ!」
05_武士:5 「―――もらった!!」
06_朱音 「(M)鉄砲! …しまった!」
(辺りに響き渡る鉄砲の音/風の音/タイトルコール)
07_比奈伎 「『鬼神楽』最終章   〜楽業の章〜 第7話」
(鬼火の里にて/書物整理中の比奈。傍で武器調整の亜夏刃/ガタン!と戸が揺れ、本がめくれる)
08_亜夏刃 「ん……ずいぶん風が出てきたようだな(立って戸口を閉めに行く)」
09_比奈伎 「ああ」
10_亜夏刃 「(戻ってきて、座る)今頃お頭たちはどの辺りだろうか。
今回の戦は、規模はそれほど大きなものではないが…」
11_比奈伎 「―――ああ…(格子の向こうの空を見上げる)」
12_亜夏刃 「それでも、油断は禁物だな。裏では、忍が加担しているという噂もあるようだ」
(再び、その戦場にて)
13_武士:6 「鬼火頭領討ち取ったぞ!!」
14_佐久弥 「朱音!」
15_武士:ガヤ ※(突如現れた佐久弥に、次々と斬って捨てられていく悲鳴一言)
「ぎゃあっ!」「うわああ」「っ!」「ぎゃあ!」など
16_佐久弥 「(刀をふるって、ざっと現れる)―――朱音」
17_朱音 「(左腕を押さえて)佐久弥。―――大事無い、…左腕を掠った程度だ」
18_佐久弥 「血止めをするよ(手際よく布を裂きつつ)」
19_朱音 「…すまない」
20_佐久弥 「…うん」
(そこに、各務・千波流が合流)
21_各務 「―――お頭!」
22_千波流 「お頭っ!」
23_朱音 「各務、千波流」
24_千波流 「お頭…! 腕を負傷されたのか…!」
25_各務 「何ということ……。
(きっと別の方向を睨みつけ)おのれ…彼奴等(きゃつら)め、許さぬ…!」
26_朱音 「千波流、そちらはどうだ」
27_千波流 「はい。川向こう側の陣は既に士気を失い、逃走を始めています。
こうなればあとは、時間の問題かと言う所です」
28_各務 「(千波流にかぶせて)佐久弥、お前がついていながらこの事態とは」
29_佐久弥 「…ごめん」
30_朱音 「各務、佐久弥を責めるな。
佐久弥には私が命を下し、別に動いてもらっていた。これは私自身の責だ」
31_各務 「お頭…! だから、あれ程、決して一人にならぬように言ったであろ。
それを信じたが故に、我は傍らを離れたのだよ?」
32_朱音 「分かっている、だが」
33_各務 「黙りゃ! 我は言い訳なぞ聞かぬえ!」
34_千波流 「各務、相手はお頭だぞ! 言いすぎだ」
35_朱音 「良い、千波流。(くすくす)全く、各務は怖いな」
36_各務 「そうえ。知っていたであろ。
けれど、お頭がもうわずか 思慮に満ちた行動をしてさえくれれば、
我も目くじらを立てずに済むというもの」
37_朱音 「ははは、すまなかった。…私はもう大丈夫だ。佐久弥にここに居てもらうしな」
38_佐久弥 「(頷く)」
39_朱音 「―――千波流、各務。あとを頼めるか」
40_千波流 「(立ち上がって)はい!」
41_各務 「もちろんだとも。我らに任せておおき」
42_千波流 「目に物見せてやりますよ!」
43_各務 「―――武士共め。後悔させてくれる」
(それから、こちらの勢力が有利になってきた)
44_朱音 「あともうひとふん張りだな。佐久弥、向こうの伊織と夜紫乃にも伝えてくれ」
45_佐久弥 「はい」
46_千波流 「里に伝令を飛ばしますか? 伊織の俊足ならば二日もあれば足りるでしょう」
47_朱音 「いや…ここから里はそう遠くは無い。戦が終わったと同時に里に戻れば、大丈夫だろう」
48_各務 「早く知らせてやった方が良いのではないかえ?」
49_朱音 「ははは、…いや、今回は良いさ。佐久弥、二人を頼むぞ」
50_佐久弥 「直ぐ戻ります」
51_朱音 「ああ」
(佐久弥、音もなく姿を消す←実際にはSE入れちゃうと思いますが)
52_各務 「そうそう。そういえば…比奈伎を副頭領に、と、先日、主に進言したそうだねえ、お頭」
53_朱音 「ああ…、まだきちんと話していなかったか」
54_各務 「水臭いえ。我らに一言も無しに」
55_千波流 「だが、問題はないでしょう。年少時代はともかく、アレは良く成長しました」
56_朱音 「そう言ってくれるか千波流」
57_千波流 「もちろんです」
58_各務 「そうだねぇ。(くすくす)幼き頃がまるで嘘のように、な」
59_千波流 「(頷く)全くだ。年少の頃は薄弱と言うか何と言うか…影の薄い子どもだった。
覇気もほとんど感じられなかったし…。本当に、良くぞここまで成長したものだ」
60_各務 「お頭を守るために懸命に修練を重ね、強くなったのであろ」
61_朱音 「…そうだな」
62_各務 「比奈伎は、何よりもお頭を大切にしているのえ?
そのお頭を任務先で負傷させたなどと知ったら…何かを言われるのは、我らの方え」
63_千波流 「その通りだな。俺たちのためにも、お頭にはもっと慎んでもらわなければ」
64_朱音 「(笑いながら)すまなかった、ちゃんと気をつけるさ」
65_各務 「本当に、そうしてもらいたいものだ」
66_千波流 「お頭が絡むと、常よりも輪をかけて頑固になるからな…」
67_各務 「そういう時の比奈伎は、何を言っても聞く耳は持たず、だからねえ」
68_千波流 「あの頑固さは、まさしく鋼の如く、と言うやつだな」
69_各務 「(頷いて)今では、頑固さにかけてはアレの右に出るものは居ないえ」
70_千波流 「違いない。はははは!」
71_朱音 「(微笑んで話を聞いている)」
72_朱音 「(M)―――だがアレは、…鋼に見せかけているだけだ。本当は―――」
(後日、任務を終えて朱音たちが里へ戻ってきてから)
73_亜夏刃 「―――お頭が怪我を?」
74_伊織 「そうなの亜夏刃っ! アタシたち、今、任務から帰ってきたばっかりなんだけどさ」
75_比奈伎 「…珍しい事もあるものだな」
76_伊織 「何、呑気な事言ってんの!? 心配じゃないの、比奈伎!?」
77_比奈伎 「各務たちがついてるんだろう?」
78_伊織 「そりゃそうだけど!」
79_比奈伎 「俺が行っても出来る事は無いからな」
80_伊織 「(聞いてない)あっ! 珠菜ー! 羽霧ー! 朱音さまの食事の準備出来た?」
81_珠菜 「出来ましたけれど…伊織ったら、騒ぎ過ぎですわよ」
82_羽霧 「あんまり言うから慌てて見に行ったら、全く大した事ねーじゃねーか!」
83_珠菜 「ちょっと鉄砲の弾が掠っただけだ、と、お頭もとっても元気そうで…、
気が抜けてしまいましたわ」
84_睦月 「(珠菜にかぶせて、少し遠くから)伊織! 薬草、これで足りると思いますか!?」
85_伊織 「あ、ちょっと待ってて睦月、アタシも見に行くから!」
86_睦月 「はい、お願いします」
87_夜紫乃 「(少し遠くから)ねえねえ、お湯って、もっといっぱい沸かした方が良いのかなあ!?」
88_羽霧 「あ! 沸かしついでに、飯用のも沸かしておいてくれ、夜紫乃!」
89_夜紫乃 「ほーい」
90_亜夏刃 「…やれやれ。里中大騒ぎだな」
(朱音の部屋では)
91_彩登 「朱音さまぁ、大丈夫? 痛くない?」
92_朱音 「ああ、大丈夫だ。それに、各務の作ってくれた薬も良く効いてるんだろう」
93_瀬比呂 「何か、僕らに出来ることない!?」
94_各務 「(くすくす)では、彩登、瀬比呂。お頭のために、我を手伝っておくれ」
95_瀬比呂
95_彩登
※「うん!」
96_彩登 「何やるの? 各務」
97_各務 「彩登はこの薬草をこれですり潰しておくれね。瀬比呂は、この布を巻いておくれ」
98_瀬比呂
98_彩登
※「はーい!」
(ふすまが開いて)
99_珠菜 「お頭、よろしければ何か召し上がりません?」
100_羽霧 「何でも作るぜ、材料があればな」
101_朱音 「(笑って)いつも通りの夕餉で構わないぞ、別に食欲が無いわけではないからな」
102_珠菜 「分かりましたわ。お任せくださいませね」
103_羽霧 「腕を振るうぜ、楽しみにしててくれよな」
104_朱音 「ああ、珠菜、羽霧。頼んだぞ」
(夕餉が終わってから/夜/ふすまが開く)
105_比奈伎 「…随分賑やかだったな」
106_朱音 「比奈伎」
107_比奈伎 「具合はどうだ」
108_朱音 「(左腕を見せて)この通り。左腕を掠っただけだ、みな大げさだな」
109_比奈伎 「動かせるか?」
110_朱音 「支障はない、少し違和感を感じるだけだ。数日もすれば何でもなくなるさ」
111_比奈伎 「そうか。…お頭」
112_朱音 「うん? どうした、改まって」
113_比奈伎 「…―――いや、…何でもない。今日は早く休んだ方が良い」
114_朱音 「…ああ。ありがとう、そうするよ。(立ち上がる比奈伎に声をかける)比奈」
115_比奈伎 「?」
116_朱音 「お前は寝ないのか?」
117_比奈伎 「…まだ、仕事が残ってるんだ」
118_朱音 「そうか。たまには一緒に寝ないか?(にこ)」
119_比奈伎 「―――は?」
120_朱音 「良いだろう、たまには。布団を運ぶのが面倒なら、これ一組あれば充分だ。少し狭いが」
121_比奈伎 「そういう問題じゃないっ」
122_朱音 「じゃあどういう問題なんだ?」
123_比奈伎 「ぅっ、…あ、朱音っ」
124_朱音 「…ふふ。比奈。…悪かった。それはまた次の機会にな」
125_比奈伎 「…怪我、早く治せ」
126_朱音 「―――。(微笑む)ああ」
(朱音の部屋を出る/廊下を歩いている)
127_朱音 「(E)左腕を掠っただけだ」
128_比奈伎 「―――」
129_寿々加 「比奈伎!」
130_比奈伎 「寿々加…今、戻りか」
131_寿々加 「おうよ。思ったより日数がかかっちまった」
132_比奈伎 「ご苦労だったな」
133_寿々加 「おう。そういやさっき、お頭がドジったとかって聞いたんだけどよ…
ん? どーした? 寝るのか?」
134_比奈伎 「いや。まだ仕事が残ってる」
135_寿々加 「そうか。あんまり無理すんなよ?」
136_比奈伎 「別に無理なんてしていない」
137_寿々加 「けど」
138_比奈伎 「俺が無理をしていると何故決め付けるんだ!」
139_寿々加 「……どうしたんだ? お前」
140_比奈伎 「…っ……何でもない。―――悪かった」
141_寿々加 「比奈伎? おい、…お前、真っ青だぞ? …まさか、お頭の怪我、酷いのか!?」
142_比奈伎 「そうじゃない。怪我は掠り傷程度だ、大声を出すな。何事かと思われるだろう」
143_寿々加 「(ほぅ…)なら良いけどよ」
144_比奈伎 「心配なら自分で確かめに行く事だな」
145_寿々加 「お頭まだ起きてたか?」
146_比奈伎 「それも、自分で確かめれば良い」
(自室に戻る比奈伎)
147_佐久弥 「比奈伎」
148_比奈伎 「―――佐久弥。…戻ってたのか」
149_佐久弥 「うん」
150_比奈伎 「……(座卓に向かって歩き、座る)」
151_佐久弥 「(その背中に)―――比奈伎。ごめんね」
152_比奈伎 「…どうして、…お前が謝るんだ」
153_佐久弥 「一緒に居たから」
154_比奈伎 「……」
155_佐久弥 「私が一緒に居たのに、朱音に怪我を負わせてしまった」
156_比奈伎 「……朱音の怪我は、朱音自身の責任だろ…お前が、…責任を負う必要なんて、ない」
157_佐久弥 「…うん。それでも、…ごめん」
158_比奈伎 「…」
159_佐久弥 「―――怖かったよね」
160_比奈伎 「…っ」
161_佐久弥 「怖かったよね、比奈伎」
162_比奈伎 「―――ッ」
163_佐久弥 「…比奈伎」
164_比奈伎 「…ぅ、う(気持ち悪くなっている)」
165_佐久弥 「少し、横になった方が良いよ」
166_比奈伎 「―――っう」
167_佐久弥 「お水、飲む?」
168_比奈伎 「…いら、な…っ」
169_佐久弥 「…うん」
170_比奈伎 「……ぅ…」
171_佐久弥 「…」
172_比奈伎 「……が…、…俺が、…代わりに撃たれれば良かった…っ」
173_佐久弥 「比奈伎」
174_比奈伎 「そのために、俺は…、…そうじゃなきゃ、…俺は、何のために…ッ」
175_佐久弥 「比奈」
176_比奈伎 「朱音を守る事が出来なかったら、…意味が無いのに」
177_佐久弥 「そんな事、無いよ…」
178_比奈伎 「俺の、…居る意味が、無いのに―――」
179_佐久弥 「比奈伎―――」
180_比奈伎 「…ぅ……い…た…っ……」
181_佐久弥 「比奈…もう大丈夫だよ。大丈夫…」
(しばらくして、廊下に出る佐久弥)
182_亜夏刃 「―――寝たのか?」
183_佐久弥 「亜夏刃。(静かにふすまを閉めて、部屋から離れる)
…眠れてはいないよ。薬で何とか落ち着いただけ」
184_寿々加 「…ピリピリしてたのはそういう事か」
185_亜夏刃 「寿々加」
186_寿々加 「薬なんかロクに効かねえから、余計に難儀だよな」
187_亜夏刃 「仕方がない。慣らしてあるからな。特に、自分と比奈伎は」
188_佐久弥 「うん…」
189_寿々加 「あんなに心配するならついてきゃ良いと思うのにな。朱音だって、連れてきゃ良いのに」
190_亜夏刃 「それが出来れば、苦労は無い。…と、お頭は言いそうな気がするが」
191_寿々加 「…だな。変なとこで、律儀だからな、あの二人も」
192_亜夏刃 「頭領が戦に立った場合、副頭領は里に残っているべきだ、
…というのがお頭の言い分だが」
193_寿々加 「そりゃ言いたい事は分かるけどよ」
194_亜夏刃 「しかし…戦の、そしてお頭の怪我のたびにこれではな」
195_寿々加 「ああ…。比奈伎の、朱音に対する固執…というか思いというか。
ありゃあ…病的だぜ、はっきり言って」
196_亜夏刃 「千波流や各務も、いつまで経っても…独り立ち出来ないのかと、心配している」
197_佐久弥 「…そう、だね―――」
(回想シーン)
198_佐久弥 「…比奈伎? どうしたの?」
199_比奈伎 「…え? 何がだ? 佐久弥」
200_佐久弥 「何か怒ってるの?」
201_比奈伎 「………そう見えるか」
202_佐久弥 「うん。ここに…眉間に、すごく皺が寄ってるから」
203_比奈伎 「…つまらない事だ」
204_佐久弥 「良いよ。それでも。…どうしたの? 何かあった?」
205_比奈伎 「……。……今度の、戦に……」
206_佐久弥 「うん」
207_比奈伎 「…今度の戦に…俺を連れて行かないと言われた。里に残れって」
208_佐久弥 「…そう」
209_比奈伎 「千波流や各務、…佐久弥、お前も行くのに…俺は…俺だけ……独りで……」
210_佐久弥 「比奈伎、それは違う。比奈伎は独りじゃないよ」
211_比奈伎 「(首を振って)俺だけ、朱音を守る事が出来ない…こんなに…離れてたら駄目なんだ。
俺だけが残っても…何の意味もない……俺は……必要…無いのに―――」
212_佐久弥 「比奈伎。そんな事無いよ。そんな事は無い。絶対に」
213_比奈伎 「副頭領なんて立場、俺はいらない…っ。朱音の代わりになんかなりたくない…
そんな事は望んでない……。朱音が居なきゃ…居る意味が……無い……っ」
214_佐久弥 「比奈…。朱音の代わりに誰もなれないように、比奈の代わりも誰も居ないんだよ。
比奈が居なくちゃ…駄目なんだよ―――」
(比奈伎のあまりに駄目な様子に、さすがに気になって、朱音に話をしに来た寿々加)
215_寿々加 「危険に巻き込みたくないから実戦には連れていかねえってのか?
それはいい加減、過保護が過ぎるぜ」
216_朱音 「ああ。お前の言う通りだ」
217_寿々加 「本当はそんな理由じゃねえんだろ?」
218_朱音 「(微笑む)」
219_寿々加 「おまえ…この先に何を見てるんだ?」
220_朱音 「前々から言っている通り、頭領に万一の事があれば副頭領がその後を継ぐ。
そのためにも、副頭領の身は守らなくてはならないだろう?」
221_寿々加 「そんなのは何も、副頭領だから、ってだけじゃねえだろが。
守るべき対象は、この一族全員のはずだ」
222_朱音 「私に何かあった場合、旗頭となるべき存在が里に残っていなければ、
今度は里そのものが危ない。そのためにも副頭領の存在は、必須なのさ」
223_寿々加 「里が危ないって…なんでだよ」
224_朱音 「…私たちの代わりは、他にもいるという事さ」
225_寿々加 「それを、比奈伎は知ってるのか? …正直に言やぁ良いのに」
226_朱音 「ふふ…それが出来れば苦労はしないさ。
それに、それを比奈に言った所で納得はしないだろう」
227_寿々加 「ま、そりゃそーだろうな」
(静かに虫の音が聞こえてくる)
228_寿々加 「朱音…おまえ、一人で何を抱えてるんだ?
時には、思い切り吐き出したって良いんだぜ?」
229_朱音 「寿々加」
230_寿々加 「つらかったり苦しかったら、そう泣き叫ぶのだって、解決の一つの糸口にはなるだろ」
231_朱音 「(苦笑)…私は、そういう風には出来ていないんだ」
232_寿々加 「(深い溜息)…泣けないってのも…難儀なもんだな」
233_朱音 「ふふ。…私はそれで良いんだ。…私は、頭領だからな」
234_寿々加 「…そうか」
235_朱音 「私がどんなにつらく苦しくとも、頭領として起てるよう、…アレがいてくれるんだからな」
236_寿々加 「…? どういう意味だ? そりゃ、比奈伎は真面目だし、
仕事面ではきっちりお前を支えてるとは思うけどよ」
237_朱音 「寿々加。おまえは、アレをどう思う?
どんな時も常に冷静で、動じる事のない、心から頼れる存在だと思うか?」
238_寿々加 「…あー…まぁ、表向きはな。…けど、そこを『うん』と言えるほど、俺は出来てねえや」
239_朱音 「(くすくす笑って…そしてちょっと遠くを見つめる)
…アレの心の弱さは、私を映し出しているせいでもあるのさ。
比奈伎自身の分。そして、この私の分。
比奈伎は…二人分の心の弱さを、つらさを、一人きりで支えてくれてるのさ」
240_寿々加 「…二人分?」
241_朱音 「ああ。だから、…アレは脆く見える。それは仕方のない事なんだ」
242_寿々加 「…アイツが泣き虫なのはそのせいだって…お前の分も泣いてるからだって言うのか…
…朱音…お前、何故 その比奈伎を副頭領なんかに推したんだ?」
243_朱音 「ふふ。なんか、とは…寿々、おまえは、比奈が副頭領では不満か?」
244_寿々加 「そうじゃねえよ。そうじゃねえけど…
お前は、いずれアイツに頭領を継がせるつもりなんだろう」
245_朱音 「…(微笑む)」
246_寿々加 「アイツに、頭領になれって事は、…おまえは」
247_朱音 「…」
248_寿々加 「それがどういう事か、分かってて、お前は」
249_朱音 「…心配要らないさ。その時には―――」
250_寿々加 「その時は」
251_朱音 「総て終わっている」
(朱音が怪我をして帰ってきたその日の夜、比奈が部屋で書物を読んでいると気配が)
252_比奈伎 「(気配に気づく)―――お頭?」
253_朱音 「(悪戯っぽく)…気づかれたか」
254_比奈伎 「何―――やってる! 部屋で休んでたんじゃなかったのか」
255_朱音 「もう充分に休んださ」
256_比奈伎 「千波流と各務が心配する。部屋に戻れ」
257_朱音 「(部屋を見回し)佐久弥は?」
258_比奈伎 「え、ああ…まだ、戻らない。書庫で調べものがあるとかで」
259_朱音 「…じゃあ、佐久弥が戻るまでの間だけで良い」
260_比奈伎 「…………朱音」
261_朱音 「ダメか?」
262_比奈伎 「………………ハァ……今夜だけだぞ」
263_朱音 「(嬉しそうに部屋に入ってくる)ああ。ありがとう比奈」
264_比奈伎 「…しょうのないお頭だな」
265_朱音 「ふふ、そうか?」
266_比奈伎 「ああ」
(それでも休んでおけと、朱音を寝かせて掛け布団をかけてやる)
267_朱音 「比奈、お前は寝ないのか?」
268_比奈伎 「お前が寝たら寝る」
269_朱音 「なんだ、つまらないぞ。お前の寝顔を見に来たのに」
270_比奈伎 「ぃ、良いから、早く寝ろっ」
271_朱音 「ふふ、ああ。―――おやすみ、比奈」
272_比奈伎 「…ああ、おやすみ…朱音」
(たゆとう蝋燭の灯り)
273_朱音 「(ぽつり)―――比奈伎」
274_比奈伎 「うん?」
275_朱音 「……ごめんな」
276_比奈伎 「…っ、―――何故」
277_朱音 「つまらない怪我など負ってしまった」
278_比奈伎 「…そういう事もあるだろう」
279_朱音 「そうか。…そうだな。たいした事じゃない。大した怪我じゃない。そうだな」
280_比奈伎 「……」
281_朱音 「だから、…―――比奈…泣くな」
282_比奈伎 「……っ」
283_朱音 「私は大丈夫だ。こんなものは大した怪我じゃない、…そうだろう?」
284_比奈伎 「…っ…あ、あか、ね…っ」
285_朱音 「うん…ごめんな…比奈…」
(比奈伎が寝たのを見計らって佐久弥がそっと部屋に戻ってくる気配に、気づいた朱音)
286_朱音 「―――佐久弥か(囁く)」
287_佐久弥 「(人差し指を立てて)そのまま。…寝かせてあげて」
288_朱音 「(そっと身を起こし)…、…もしかして、またか?」
289_佐久弥 「うん。…貴女が戻るまで一睡もしてないみたいだから。
(ちょっと覗き込んで)―――ああ、良く眠れているみたいだね…良かった」
290_朱音 「……外に出よう」
(外に出た朱音と佐久弥。月が静かにあたりを照らしている)
291_朱音 「…全く。怪我など負うものじゃないな。
怪我をした私本人よりも、比奈伎の方がよほど重傷だ」
292_佐久弥 「…うん」
293_朱音 「…たかが怪我ですらこうなるのを分かっていて、…私は」
294_佐久弥 「朱音」
295_朱音 「…(深く息をつく)だがそれ以上に、私は、アレを喪うことが怖い」
296_佐久弥 「うん」
297_朱音 「結果、どんなにアレが傷つこうとも、それでも…生きていてさえくれれば、それで良い」
298_佐久弥 「…」
299_朱音 「…お前も、勝手だと思うか(苦笑)」
300_佐久弥 「…貴女が、そう望んでるなら、私は」
301_朱音 「アレが知れば、恨まれるかな」
302_佐久弥 「どうかな」
303_朱音 「佐久弥。…巻き込んで、すまないと思っている」
304_佐久弥 「私は巻き込まれたとは思っていないよ」
305_朱音 「そうか」
306_佐久弥 「―――貴女は、それで、本当に良いの?」
307_朱音 「…ああ。自分で決めた事だ。後悔はしないさ」
308_佐久弥 「…」
309_朱音 「お前は後悔しているのか? 佐久弥」
310_佐久弥 「私が? 何故?」
311_朱音 「ふふ、聞いてみただけだ」
312_佐久弥 「それこそ…これは私の意思だから」
313_朱音 「…そうか」
314_朱音 「(M)『自分は必要のある存在だろうか』と…
比奈伎はいつも自分を責め立てているけれど。
その心の弱さを、仲間にすら不安に覚えられてしまっているけれど。
それらは全て私の責だ。
私の弱さを全て引き受けているからこその、比奈伎の弱さ。
私がいつも強くある事が出来るのは、全部、おまえのおかげなんだ」
315_朱音 「……ごめんな、比奈―――」
316_朱音 「(M)私がいなければ、おまえはそこまで苦しむことも無いだろうに」
317_佐久弥 「―――朱音」
318_朱音 「うん?」
319_佐久弥 「…私は。欲張りだから」
320_朱音 「佐久弥?」
321_佐久弥 「どちらも失いたくないよ」
322_朱音 「…そうか。(月を見上げて)……そうか―――」
(所戻って、主の屋敷にて武士から取引を持ちかけられた比奈伎。
案内されてついて行くと、薄いガラス板を隔てた向こう側に、朱音の姿が)
323_大将 「鬼火頭領・朱音に会わせてやろう」
324_武士:4 「一族と引き換えに、朱音を生かしてやろう」
325_武士:5 「副頭領比奈伎。おまえが一度頷くだけで、朱音は救われるのだぞ―――」
、武士からいわれて朱音を演じます)
326_朱音(芳) 「―――比奈伎!? お前…何故ここに!(朱音を演じてください)」
327_比奈伎 「…あかね(どくん)」
328_武士:6 「分かっているだろうが―――少しでもお前が変な真似をすれば、
向こうに構えている鉄砲隊が一斉に頭領を目掛けて引き金を引くぞ」
329_武士:7 「いかな鬼火一族といえど―――この、硝子の壁を破る事は不可能だ」
330_武士:1 「さあ。副頭領比奈伎。ここに約束するのだ」
331_武士:2 「朱音を救うために、一族を捨てると、言うのだ」
332_朱音(芳) 「まさか…っ、…駄目だ比奈伎! この連中の言いなりになどなるな!
そんな手段で私を救おうなどと考えるんじゃない!」
333_比奈伎 「…俺は」
334_朱音(芳) 「私の事は良いから…っ、一族を、守ってくれ、比奈伎!!」
335_比奈伎 「…一族を捨ててでも、お前を救う事が出来るのなら…俺は、本気で一族を―――」
336_武士:4 「…良し。そこまで言うのなら、直に会わせてやろう」
337_武士:2 「こちらへ来い」
338_武士:1 「その扉の向こうに、朱音がいるぞ」
(武士についていくと、ガラス板の向こう側へ通される。目の前に、朱音の姿。くらりと立ちすくむ比奈伎)
339_大将 「さあ、今一度朱音の目の前で、朱音を救うために、一族を捨てると言うのだ」
340_朱音(芳) 「―――駄目だ比奈伎!!(一歩踏み出す)」
341_比奈伎 「…(ふらりと身体が揺れたかと思うと、一瞬で間をつめ)」
342_朱音(芳) 「…っ!!(わき腹を刺される(急所は外してある))」
343_比奈伎 「本気で、一族全てを敵に回しても良いと考えたのにな」
344_朱音(芳) 「…な、に?」
345_比奈伎 「―――これで、俺を、謀ったつもりなのか?」
346_朱音(芳) 「…な、…何を言ってるんだ、比奈伎…」
347_比奈伎 「その名を呼ぶな」
348_朱音(芳) 「…っ」
349_比奈伎 「…お前は朱音じゃない」
350_朱音(芳) 「…!」
351_比奈伎 「…朱音を騙ることは絶対に許さない」
352_芳 「―――! 気づいて、いたのかい…!?(ここからは完全に芳に戻って下さい)」
353_比奈伎 「どうやったのかは分からないが…怖ろしいほどに似ている、いや…そのものだ」
354_芳 「…それなら、どうして…っ」
355_比奈伎 「硝子越しに見た時は、本人だと思っていた」
356_芳 「じゃあ、何故だい!」
357_比奈伎 「…俺以外の者ならば、騙し通せたかもしれないな」
358_芳 「…っ…、…鬼火を、甘く見ていた…。そういう、事だね…。
(がくり、と膝をつき)この、傷じゃ…あんたと戦っても勝ち目は無いねぇ…。
せめてもの情けに、とどめをお願いしても良いかい?」
359_比奈伎 「…(チャキ、と握る)」
360_静 「―――やめてえぇええええぇっ!!」
361_芳
361_比奈伎
※「っ!」
※「!?」
362_静 「お願いやめてぇっ!!」
363_芳 「―――静っ!? どうしてここに!?」
364_比奈伎 「…子ども?」
365_静 「お願い…っ、お願いです…っ、芳お姉ちゃんを殺さないで…っ!!」
366_比奈伎 「(はっとして)伏せろ!」
(比奈伎、芳、静に向かって攻撃音が響く)
367_大将 「三人とも始末しろ」
368_芳 「何だって!?」
369_武士:5 「撃て!!」
370_芳
370_静
※「!!」
371_静 「きゃあっ!(撃たれる)」
372_芳 「静っ!!」
373_比奈伎 「奥へ走れ!!」
(走って奥へ逃げる三人、静、倒れる)
374_静 「(荒い呼吸)いた…いたいよぉ…おねえちゃん…」
375_芳 「…静、静…っ、しっかりするんだよ!」
376_静 「おねえ、ちゃ…」
377_比奈伎 「…これを使え。血止めにはなるだろう」
378_芳 「…っ、すまない!」
379_比奈伎 「―――死ぬ覚悟のないヤツが戦場に出てくるものじゃない」
380_静 「…だって…っ、お姉ちゃんを殺されたくなかったの…!」
381_芳 「静…」
382_静 「里で…一人で残ってたら…誰も居なくなっちゃうの、アタシにはわかったんだもん…」
383_比奈伎 「例え、女子どもだろうと、武器を向けた時点で敵と見做されても仕方ない事だぞ」
384_静 「それでも…独りになるなんていや…」
385_芳 「…鬼火の…、アンタの言う通りだね」
386_静 「お姉ちゃん…っ」
387_比奈伎 「…お前たちは何者だ」
388_芳 「アタシは、芳。こっちは、静。二人とも、東風一族だよ」
389_比奈伎 「東風一族…」
390_芳 「…アタシたちを…いや、静を守ろうとしてくれて…ありがとう」
391_比奈伎 「…」
392_芳 「変だね、…敵なんかに…感謝したいなんて思うなんて…」
393_静 「ごめんなさい…芳おねえちゃん…アタシ…アタシ……」
394_芳 「…良いよ。…自分でも驚いてるよ。仲間が傷つく事が、こんなに怖ろしい事だなんて…
アタシは、…いや、きっとアタシたち一族は全員、知らなかった―――」
(逃げた三人を追ってくる武士の足音がすぐそこまで迫ってきた)
395_武士:1 「何処に逃げた!?」
396_武士:4 「奥を探せ! そう遠くへは行っていないはずだ」
397_大将 「一人も逃がすな!」
398_武士:7 「女子供も共に殺せ!」
399_芳 「ここに居れば何れ見つかる…さっさと行って、本物の頭領を助けるんだね」
400_比奈伎 「…言われなくても(ざ、っと去る)」
401_芳 「(それを見送って)アタシたちは…もう、動けないねえ…」
402_静 「お姉ちゃん、アタシの事は良いよ…お姉ちゃんだけでも、安全な所に逃げて…」
403_芳 「そうはいかないさ」
404_静 「だって、お姉ちゃん、このままじゃ…!」
405_芳 「お前がここまできてしまったのは、アタシのせいだからね…」
406_静 「芳お姉ちゃん…!」
407_芳 「静、おいで。一緒にいよう」
408_静 「お姉ちゃん…っ!!(しっかりとしがみつく)」
409_武士:6 「―――見つけたぞ!!」
(銃撃音が響く/がきん!と武器を払う音がして、武士をなぎ払う珠菜と左京)
410_武士:5 「(悲鳴)」
411_珠菜 「やれやれですわ…ようやく、粗方片付けられましたわね…」
412_左京 「ああ…思ったよりも手間取ったな…(わずかに苦しげ)」
413_珠菜 「ところで…東風の、左京さんと仰いましたわよね。
貴方、病の方は大丈夫なんですの? 随分と苦しそうでしたけれど(手を伸ばす)」
414_左京 「触るな…敵に気遣われるなんて虫唾が走る」
415_珠菜 「あら。冷たい方ですわね」
416_左京 「フ…。…良いから行け。大量の火薬の臭いがする」
417_珠菜 「(はっとする)まさか」
418_左京 「都合が悪くなれば総てを消す…というわけだろう。早く行け。ここは燃え始めるぞ」
419_珠菜 「あなたは?」
420_左京 「俺は―――、うっ!!ごほごほごほっ…(吐血)」
421_珠菜 「―――ちょっと!」
422_左京 「…ご覧の通りだ、どうせ俺は元々長くは無い」
423_珠菜 「そう…。(気を取り直したように、少し明るめに)行きたいのは山々ですけれど…残念。
実はわたくしも、先ほどので足をやられてしまいましたわ」
424_左京 「…どじったな」
425_珠菜 「はい。…お互いに」
426_左京 「全くだ。―――お前…似ているな」
427_珠菜 「え?」
428_左京 「アイツの声に似ている…いつもキンキンうるさく人に付きまとってきた…あの女に。
だからきっと…殺せなかった」
429_珠菜 「………。…正直言いますとね。あなたも似てるんですわ。
人の気も知らず、いつもぼーっとしていたあの方に。
だから…わたくしも躊躇ったんですわ、きっと。―――羽霧の仇なのに」
430_左京 「…羽霧」
431_珠菜 「ええ。羽霧は、わたくしの…相棒でした」
432_左京 「…そうか」
(SE:二人を包むように炎が広がっていく)
【続く】