●鬼神楽●
【〜楽業の章・第3話〜】
この色…東風
この色…鬼火
この色…その他
セリフ番号
「セリフ」
(朱音が狐面の少年(黒幕)についていくと、とある里につく)
01_朱音 「ここは…この里はいったい…鬼火の里とそっくりだが…違う里だな」
02_黒幕 「へえ…良く分かるね」
03_朱音 「私の里だぞ。間違うものか」
04_黒幕 「違う事に気づくなんてね…これだから面白い。
朱音、お前は―――実に優秀な指揮官だった」
05_朱音 「指揮官? …何の事だ」
06_黒幕 「(くすくす)もう終わるなんて、残念だな」
07_朱音 「終わる? お前はいった何を言おうとしている―――?」
(遠くで爆発音)
08_朱音 「!? なんだ…!?」
09_黒幕 「同じものは、二つもいらないだろう?」
10_朱音 「何?」
11_黒幕 「ここには、お前たちと全く同じ存在が、もう一つあるんだよ」
12_朱音 「…どういう、意味だ」
13_黒幕 「彼らは、『東風一族』という」
14_朱音 「東風一族…?」
15_黒幕 「お前たちが表ならば、彼ら東風一族は、いわば裏の存在。
お前たちに取って代わろうとしてるんだよ。彼らは」
16_朱音 「…」
17_黒幕 「…本気で抗わないと、…分かるよね?」
18_朱音 「『政権が交代する』という事は、こういう事なのか」
19_黒幕 「鬼火一族と東風一族。お前たちは表裏一体―――
いずれは、どちらも…くすくす。楽しみだな」
20_朱音 「彼らと、戦うというのか」
21_黒幕 「もちろん、そのきっかけを与えたのは、僕だけどね―――」
22_朱音 「お前は―――主の屋敷で感じた、あの視線の主(ぬし)だな」
(モノローグ)
23_茶々 「…闇には慣れているはずだった。
それなのに、足元からどんどん広がっていく何かに―――怯えてしまう。
それはやがて、総てを飲み込んでしまうのだろうかと。

それでも、いつもならば
それを振り払えるだけの強さを、茶々たちは持っていた。
一族にある、揺るぐ事のない強さと、その確かな存在で
茶々たちはここまで来たと言うのに。

それが何故、今になって―――
どうしてこんなにも、先を見通すことが出来ないのか、と―――」
(モノローグ終わり/そのころ、東風の里では)
24_静 「…空が…震えてる…」
25_芳 「―――静? こんな所でどうしたんだ」
26_静 「芳お姉ちゃん…。…これから、大きな戦が始まるの?」
27_芳 「…何故、そんな事聞くんだい?」
28_静 「だって、みんな何だか怖いし…イライラしてるみたいで」
29_芳 「殺気立っているのがわかるのか」
30_静 「うん。それから、…なんだか…声がするの」
31_芳 「声?」
32_静 「うん。頭の奥で、ずっと…『…もうすぐ―――』」
33_芳 「もうすぐ?」
34_静 「『もうすぐ』」
35_黒幕
35_謎の男
※「(いっそ優しく)もうすぐ、エンディングだ」
(タイトルコール)
36_茶々 「『鬼神楽』最終章   〜楽業の章〜 第3話」
(屋敷内に入り込んだ羽霧・睦月組。モニターに映し出された景色を見て驚愕する。
写っている里から火の手が上がり、所々で爆発も起きているようだ)
37_睦月 「は、羽霧、見てくださいこれ!」
38_羽霧 「鬼火の里が…襲われてるのか!」
39_睦月 「ひどい…っ、こんなの…!! 小屋が、めちゃくちゃ…!」
40_羽霧 「くそ…っ、俺たちが里を空けるって…なんでヤツラにばれたんだ!?」
(爆発音/里の各所で爆発が起き、里を攻めていた武士たちまでも巻き込まれている)
41_羽霧 「な、何だ!?」
42_睦月 「きゃああっ! さ、里が…!」
43_羽霧 「爆発!? 武士は…全員巻き込まれてるのか!?」
44_睦月 「分かりません…っ!!」
45_羽霧 「何が…どうなってるんだ!? ヤツラが…仕掛けた火薬じゃないってのか!?」
46_睦月 「…ひどい…っ、全滅、してるみたい…!」
47_羽霧 「睦月、とにかく里に戻ろう! 誰かと合流できるかもしれない」
48_睦月 「で、でも羽霧、…里は、…もうないのに!」
(東風の里。会合の間にて)
49_円 「ええ!? 主が、わざと今回の戦を引き起こしたというんですか? 近衛」
50_近衛 「ああ、そうだ円。裏と表―――
どちらが強いのだろうかと、いつか私にこぼした事がある」
51_浅葱 「近衛。私は…このまま、主・隆利にただ無条件で従うのは、…危険だと思いますね」
52_円 「浅葱…。それは…主に何か含みがあるという事か?」
53_近衛 「確かに―――主は、何かと…底の見えぬ方だ。
時折、ぞっとするような事でも平気で口になさる。
しかし、だからと言って、主に反するような理由にはなるまい」
54_浅葱 「なりませんか?」
55_近衛 「我ら東風一族は、主の手足とはなっても、駒にはならん。
そこが、鬼火とやらとは違う所だ」
56_円 「もちろんです近衛」
57_近衛 「本当に主が我々を切り捨てるつもりならば―――
その前に我らが主を切り捨てるだけの事だ」
58_浅葱 「しかし、それとは別に、鬼火は全滅させるべきです」
59_近衛 「無論、そのつもりだ」
60_浅葱 「そのために、贄(にえ)が必要です。
…飼い犬とはいえあちらも名立たる戦闘集団、迂闊な事は出来ない」
61_近衛 「―――誰ぞ、捨石にすると言う事か」
62_浅葱 「それも視野に入れています」
63_円 「浅葱…! 仲間を捨てるのか!?」
64_浅葱 「そこまでは言っていない。けれど、切り捨てられるものはあるはずです」
65_近衛 「ふむ」
66_円 「しかし…」
67_浅葱 「私は、白銀、左京、卓麻の三人を選びます」
68_円 「浅葱!」
69_浅葱 「たとえ彼らが居なくとも、東風は成り立ちますよ、円」
70_芳 「(突然入ってくる)浅葱」
71_円 「芳!」
72_芳 「(笑みを浮かべながら目は笑っていない)何の冗談だい、それは」
73_浅葱 「芳…」
74_芳 「アタシは納得出来ないね。
いくらなんでも、あの三人を切り捨てるってのは、ちょっと強引なんじゃないのかい」
75_浅葱 「(苦笑)良くそんなことが言えますね…あなたに。強引はどっちですか」
76_芳 「(ガラッと雰囲気が戻って)アハハ! 強引さはアタシの十八番さ」
77_近衛 「(苦笑)お株を取られちゃかなわんな、芳」
78_円 「冗談はさておき…どうしますか、近衛」
79_芳 「主には、鬼火を殲滅、と言われてるんだろう? なら、殺すまでだ」
80_浅葱 「鬼火は侮れませんよ。だから、生贄を、と言っているんです」
81_円 「まだ言うのか浅葱! 近衛、一族の者を捨てるんですか?」
82_近衛 「円。要は、先発に使ったとしても、彼ら三人が勝てば良いだけの事だ。違うか?」
83_円 「っ…それは…そうですが」
84_芳 「近衛の言う通りさ、簡単な事だろ。最終的には、アタシらが勝てば良いのさ」
85_近衛 「(頷き)本格的に戦か。今までは…戦が起きてからの参戦が多かったが…
自らが戦を起こすと言うのは、はじめてかもしれんな」
86_芳 「(からかうように)あんたらしくないね、近衛。怖気づいてるのかい?」
87_近衛 「(不敵に笑って)私を誰だと思っている?
東風の近衛はこれまで怖気づいた事など一度も無い。―――行くぞ」
(主の屋敷の、謁見の間の前の廊下にて、佐久弥、比奈伎に追いつく寿々加)
88_寿々加 「(少し遠くから)おいこら、佐久弥、比奈伎!」
89_佐久弥 「(足を止めて)寿々加…」
90_寿々加 「(近寄ってきて)お前たち二人でこの先どうしようってんだよ」
91_比奈伎 「(寿々加を見て)…ハア…」
92_寿々加 「比奈伎っ溜息をつくな溜息を!」
93_佐久弥 「どうして」
94_寿々加 「お前たちしか知らない事情があって、勝手な事するだろうってな」
95_佐久弥 「(苦笑)鋭いね、寿々加」
96_寿々加 「佐久弥。お前、どうせ、最初から途中で
俺たちとしんがりを交代する気だったんだろ?」
97_佐久弥 「そうだよ」
98_寿々加 「やっぱりな。表にいたほとんどの武士たちが、お前たちに食いついてきてる。
とりあえず、それを撒いてきたとこだ。…佐久弥。お前の計算通りだろ、それも」
99_佐久弥 「(微笑む)」
100_寿々加 「はぁ、どうせそんなこったろうと思ったぜ」
(里に戻ってきた睦月と羽霧)
101_睦月 「(息を切らせて走ってくる)ハアッ、ハアッ…羽霧…っ、
里から火の手も…煙も…っ、見えないですよね!?」
102_羽霧 「(息を切らせて走ってくる)ああ!」
103_睦月 「(息を切らせて立ち止まる)よ、良かった…っ!!」
104_羽霧 「なんだよ…、里は無事じゃねえか…!」
105_睦月 「やっぱり羽霧の言った通り、あんなのは本当じゃなかったんですね…!
良かった…!」
106_羽霧 「ああ。とにかく誰か戻って来てないか、探してみよう睦月」
107_睦月 「は、はい!」
108_羽霧 「けど、油断はするなよ」
(睦月、羽霧、里の入り口から走ってきて、小屋の前で)
109_睦月 「―――ねえ…っ、誰か…誰か帰ってきてませんか!?」
110_羽霧 「(少し遠くから)―――どうだ睦月!?」
111_睦月 「(振り返って)……ダメ…、こっちは、全く…気配一つ感じません…!
里でみんなと合流のはずなのに…っ、
あそこで見た事が事実じゃないなら、もう誰かが帰ってきても良いのに…っ」
112_羽霧 「…とにかく、閂(かんぬき)をおろしとけ! 気を抜くなよ、警戒しろ!」
113_睦月 「は、はい…!!」
114_羽霧 「俺は奥を見てくる。油断するなよ、睦月」
115_睦月 「は、はいっ、羽霧も気をつけてくださいね…!」
(羽霧は用心深く小屋を物色、その間に戸に閂を下ろす睦月)
116_睦月 「…。閂…これだけじゃ不安だな…どうしよう…」
(何か良いつっかえ棒は無いかときょろきょろ/SE:コツコツ、と戸を外から叩く音)
117_睦月 「―――えっ!?」
118_左京 「―――誰かいるのか?」
119_睦月 「!! あ、はい、ちょっと待って下さい!」
120_羽霧 「(奥から戻ってきて)…おい睦月、なんか、この小屋おかしい―――」
(睦月、亜夏刃が戻ってきたと思って引き戸の閂をあげて、戸を開ける)
121_羽霧 「―――睦月伏せろォ!!」
122_睦月 「え?」
(とっさに身をかがめた睦月の真上で、左京と羽霧の刃と刃がぶつかり合う!!)
123_羽霧 「クッ…!」
124_睦月 「は、羽霧!? (相手の姿にはっとする)…っ
白い…狐のお面!? え…っ、だ、だって…!!(亜夏刃だと思っていたので混乱)」
(剣を交えた相手は亜夏刃ほどの上背を持ち、その顔には白い狐の面をつけている)
125_羽霧 「お前…っ、何者だ!?」
126_左京 「…武器を引け、女」
127_羽霧 「何者だと聞いてる!!」
128_左京 「…一度は、警告したぞ」
129_羽霧 「!?」
(ざしゅ!! 羽霧は辛うじて身を捩るが、左京の刃は深々と羽霧の左わき腹に突き刺さった)
130_睦月 「…ッ!!(息を呑む)」
131_羽霧 「……っ(刺された箇所を、震える手で押さえる)」
132_睦月 「…は、羽霧ぃーっ!!!」
133_羽霧 「あ…」
134_睦月 「やだ…やだ、羽霧ぃ!!」
135_羽霧 「む、つき…にげろ…っ」
136_睦月 「まだ…教わってない…!! 料理、教えてくれるって…!!」
137_羽霧 「に、げろ…(倒れる)」
(もう一人がするりと小屋に入ってくる)
138_白銀 「…あーあ、女の子なのに…殺す必要なかったんじゃないの?」
139_左京 「武器を向ければ、それは敵だ。女子どもが関係あるか」
140_白銀 「正論。じゃ、この子は武器を持ってないから、女子ども扱いで良いんだよね?」
141_左京 「どうする」
142_白銀 「連れて行くよ」
143_左京 「わかった」
(白銀、睦月に当身)
144_睦月 「(首筋に手とうを食らって倒れる)!!」
145_羽霧 「む、つき…っ!!」
146_左京 「―――出来るな。あの距離で急所を外したのか。苦しむだけだろうに」
147_羽霧 「お前らは…っ」
148_左京 「その技量に免じて名乗ろう。俺は、東風の左京」
149_白銀 「僕は、東風の白銀。悪いね、はぎりさんとやら」
150_羽霧 「睦月を、どうするつもりだ…っ」
151_白銀 「(軽く手を振って)ああ。この子はちょっと借りていくよ。
今、鬼火の頭領をうちに預かってるんだけど、
誰も面合わせした事ないから、この子たちに確認してもらうんだ」
152_羽霧 「お頭を!?」
153_白銀 「そ。だからそれが終わればすぐに」
154_羽霧 「…返してくれるのか…!?」
155_白銀 「(楽しそうに)はーずれ」
156_羽霧 「!?」
157_白銀 「(小さく笑って)すぐに…そばに送ってあげる」
158_羽霧 「…!!!」
159_白銀 「じゃあね。行こ、左京」
(左京、白銀、睦月を抱えて小屋から出ていく/そのころ、里に戻ってきた千波流と彩登)
160_彩登 「千波流ぅ…誰か、もう、戻って来てるかなあ…?」
161_千波流 「まだ分からんが…計画通りにいっているのだとしたら、
そろそろ戻ってきていてもおかしくはないんだがな」
162_千波流
162_彩登
※「!!」
163_彩登 「ち、千波流…っこれ!」
164_千波流 「―――血の匂いだ!!」
(走り出す二人/血まみれで小屋から出てくる羽霧)
165_羽霧 「(よろけながら)くそ…くそ!!(M)……待て、よ…」
166_左京 「(E)誰かいるのか?」
167_羽霧 「(M)何故…あんな一言で、睦月は開けた? こんな時に、…他人の声なんかで……」
168_左京 「(E)…武器を引け、女」
169_白銀 「(E)すぐに…そばに送ってあげる」
170_羽霧 「……『他人』の…声……?」
171_羽霧 「(M)!! ―――違う! あれは…他人の声じゃなかった!!」
172_左京 「(E)俺は、東風の左京」
173_亜夏刃 「(E)羽霧」
174_白銀 「(E)僕は、東風の白銀」
175_佐久弥 「(E)羽霧」
176_羽霧 「(M)気配すら…いつも近くにいるのと同じだった!
だから気づかなかったんだ…!!!!
それに…この小屋も―――ここは…違う、違うんだ!!
177_羽霧 「どういう…ことなんだよ…!! …何なんだか全然わかんねえよ…ッ。
これからどうしたら良いんだよ! 誰も教えてくれないのかよ…!」
178_彩登 「(やや遠くから)―――羽霧ィ!!!」
179_羽霧 「(ふと、目を開ける)………あや、と…無事だったのか…」
180_彩登 「(羽霧が血だらけで倒れている事に気づき、悲鳴を上げる。駆け寄って)
は、羽霧…羽霧、ひどい血だよお!!」
181_千波流 「(その後ろから)―――彩登!! どうした!?」
182_彩登 「千波流ぅ…羽霧が…羽霧がぁ!」
183_千波流 「羽霧…っ!! (羽霧を抱き起こし)…お前ほどの腕のヤツが…
いったい誰にやられたんだ!!」
184_羽霧 「……しろ…い…狐の…面………東風…」
185_千波流
185_彩登
※「東風!?」
186_羽霧 「(苦しそうに咳き込みながら)けど、あれは…他人じゃなかったんだ…知ってた…気配を」
187_千波流 「どういうことだ?」
188_羽霧 「わから、な、い…睦月が…連れて…行かれ、た…ッ」
189_彩登 「睦月が!?」
190_羽霧 「千波流…! ここは…違う!! ここは、俺たちの里じゃないんだ…!!」
191_千波流 「な、なんだと!? どういうことだ!?」
192_羽霧 「わからない…! 多分、ヤツらなら知ってると…(咳き込む)
ヤツは…ッ、この子『達』、と言ってた…まさ…か…」
193_千波流 「―――そのまさかだ。山腹に向かった、瀬比呂と伊織と夜紫乃が消えた。
はぐれた彩登を見つけてから、追ったんだが…」
194_羽霧 「―――千波流…! …面を…取って…っ、…きを、つけろ―――(手から力が消える)」
195_千波流
195_彩登
※「…!!」
(ちょうどそこに戻ってくる亜夏刃と珠菜)
196_亜夏刃 「(やや遠くから)―――千波流か!?」
197_珠菜 「! 千波流、彩登!?」
198_千波流 「亜夏刃、珠菜!?」
(千波流たちのところに駆け寄る亜夏刃と珠菜)
199_珠菜 「良かった…お二人ともご無事でしたのね」
200_千波流 「あ、ああ…」
201_珠菜 「里に入ったら、酷く血の臭いがしたものですから…
……え?(千波流の腕の中の人物に気づく)」
202_亜夏刃 「(気遣うように)…珠菜」
203_珠菜 「(やや呆然と)羽霧―――?」
204_千波流 「―――珠菜………羽霧は、…今、逝ったばかりだよ」
205_彩登 「(堪えきれず、泣き出す)羽霧…っ、死んじゃった…っ、死んじゃったあ…!」
206_珠菜 「……彩、登…(彩登をそっと抱きしめる)」
207_彩登 「(泣きじゃくる)珠菜…羽霧が…はぎりぃ…」
208_珠菜 「(静かに、羽霧に触れて)―――羽霧…まだ、暖かいですわ」
209_千波流 「珠菜…」
210_珠菜 「さ、泣かないで、彩登。一緒に、羽霧を休ませてあげましょう」
211_彩登 「(泣きながら)うん…うん…」
(回想シーン)
212_羽霧 「―――お前なぁっ! 俺の味付けに文句あるのかよ!」
213_珠菜 「本当に口うるさい事…味に自信がおありなら、黙って出せば良いじゃありませんか」
214_羽霧 「そうしてんのに、お前が横から口を出すんだろ」
215_珠菜 「あら、出したのは口ではなく、これはちょっとしたお手伝いですわよ」
216_羽霧 「なぁにが手伝いだ!
お前のは手伝いじゃなくて邪魔だろっ、あれ以上塩を入れたら素材の味が台無しだ!」
217_珠菜 「邪魔だなんて、それはあまりに失礼ですわねぇ(くすくす笑う)」
218_羽霧 「ったくぅ! (少し笑って)いざ食ってみて、あとで謝っても知らねーからな!」
219_珠菜 「(合わせる様に楽しそうに)あら、謝りませんわよ、わたくし。
分かってらっしゃるくせに―――さ、これでこちらも完成、ですわ!」
220_羽霧 「よし! じゃ、持っていくか」
221_珠菜 「はいはい。全く、せっかちですこと」
222_羽霧 「早くしろって。みんなが腹すかせて待ってるぜ、珠菜!」
(回想シーン終わり/やがて降り出す雨音)
223_珠菜 「―――羽霧………もう、あなたのお料理、食べることが出来ませんのね…」
224_亜夏刃 「…珠菜」
225_珠菜 「亜夏刃。わたくし…薄情かしら」
226_亜夏刃 「…」
227_珠菜 「…わたくし……ひどいですわよね。涙が出ないんですの。何故かしら…
涙が出てこないんですのよ。ふふ、薄情ですわよね―――こんなに…」
228_亜夏刃 「珠菜」
229_珠菜 「こんなに…―――こんなに―――胸が痛いのに」
230_亜夏刃 「珠菜…(珠菜を胸に抱きしめる)」
231_珠菜 「―――胸だけは―――こんなに…痛い…のに―――」
【続く】