●鬼神楽●
【〜楽業の章・第2話〜】
この色…鬼火
この色…武士・女中・ガヤ(注:ガヤ・全員部分は、ファイル名 セリフ番号_お名前 )
この色…その他
セリフ番号
「セリフ」
(千波流は亜夏刃・珠菜と合流後、分かれて単身山中を目指して夜紫乃たちの援護へ向かう途中)
01_千波流 「…妙だな」
02_千波流 「(M)何なんだ―――? いくら高見の時点で数が少なかったとは言っても、
これは…ある程度いるはずの気配も感じられないとは…
何故、こんなにも気配が無いんだ…静か過ぎる」
03_彩登 「(やや遠くから、すすり泣く声)」
04_千波流 「!! (M)あの声…まさか!(走り寄って)
(T)―――彩登!? こんな所で何をしてる!?
夜紫乃と伊織…瀬比呂はどうした!」
05_彩登 「! 千波流!! 千波流…どうしよう、どうしよう…!!!」
06_千波流 「落ち着け彩登。落ち着いて、何があったかちゃんと話すんだ」
07_彩登 「(泣きながら)…あ、…彩登…みんなとはぐれちゃって…!」
08_千波流 「はぐれた!? そんな馬鹿な!!」
09_彩登 「いっぱいいっぱい探したんだよ!! でも全然…どこにもいないの…!」
10_千波流 「馬鹿な…夜紫乃が…、伊織が、お前を一人にするなんて…!」
11_彩登 「ねえ千波流…っ、みんなは何処に行っちゃったの!? 何か…ヘンだよお…!!」
(モノローグ)
12_寿々加 「―――この鬼火一族の中でも、勘は良い方だと思ってた。
何かあればきっと気づく事が出来る。
逆に言えば、気づかないなら、何事も起こってはいないんだと。
だから、大丈夫なんだと。そんな感覚に、勝手に甘えてた。

勘が鈍るなんて、今までにそんな事なかったのに。
―――それこそ、まるで何かで覆い隠されてしまったかのように…

これまでの戦でも、命の危険を味わった事は何度かある。
それでも、不思議と恐怖は感じなかった。

だが…これはいったい何だ?
じわりと、知らないうちに身体から流れ出すかのように、
音も無く背を這うような、底知れぬもの―――これが、恐怖なのか」
(モノローグ終わり/謁見の間にて主と謁見する朱音:回想)
13_朱音 「―――私が鬼火の頭領となって、主・斉彬さまにお仕えするようになってから、
もうじき十年になります。……まだ十年です、殿。
一人の主が起てば、その時代は短くても三十年以上は続くもの。
まだ、これからではありませんか」
14_主 「…そうだな。だが―――もう、長くはない」
15_朱音 「殿。そのような弱音を仰せになられませぬよう」
16_主 「(ゆるりと首を振って)既に、種はまかれた―――時は、動き出したのだ…」
17_朱音 「斉彬さま…」
18_主 「だが、思ったよりも長かった。…余にとっては、な」
19_朱音 「殿、それは、いったいどういう?」
20_主 「この胸に巣食う病が、いつ、余を殺めるのかと思っていたが」
21_朱音 「………まさか、そのような…、…よもやそんな、…病だなどと―――」
22_朱音 「(M)―――目の前で、悠然と微笑むこの男は。
その目は。その、底の見えない鈍い光を持つ目は
…決して、死に近い人間の目ではない―――」
23_主 「もはや駄目だと思っていたものが、思わぬ時を永らえる―――
本当に、計り知れぬものだ」
24_朱音 「(M)…穏やかな表情で。
だが、底知れぬ目をしたこの男は…私の仕える主(あるじ)は。
傅く(かしずく)べきこの相手は―――いったい、何者なのだ」
(タイトルコール)
25_寿々加 「『鬼神楽』最終章   〜楽業の章〜 第2話」
(回想シーン
 ※現在より3年以上前ですが、声を変えていただく必要はございません。
 この時点では年少組の存在は無く、睦月が一番下の子になります)
26_千波流 「(遠くから)―――お頭! お頭、大変です!」
27_朱音 「どうしたんだ千波流、血相を変えて」
28_千波流 「(少し息を切らして)それが、睦月の具合が悪いようなんです」
29_朱音 「珍しいな、どうした」
30_千波流 「風邪ではなく…何か、違う病のようで」
31_亜夏刃 「病? そういえば……」
32_朱音 「何だ? 亜夏刃」
33_亜夏刃 「確か、昨日、任務での作業の際に寄ったふもとの里で、
流行り病で何人も死人が出ていると言う話を聞いた、と珠菜が言っていたな…」
34_寿々加 「オイオイ…病って…まさか、それかよ!?」
35_各務 「死人が出るほどの病とは…捨て置けぬな」
36_朱音 「ああ」
37_伊織 「(遠くから)朱音さまーっ!」
38_朱音 「伊織」
39_伊織 「(息を切らして)大変、です…!」
40_朱音 「まさか…、睦月以外にも誰か倒れたのか」
41_伊織 「そのまさかで…っ、夜紫乃が、急に、すごい熱で…!」
42_各務 「(頷いて)ひとまず我が診てこよう」
43_伊織 「各務、お願い…!」
44_朱音 「千波流。羽霧と珠菜に言って、何か滋養のつくものを作ってもらってくれ」
45_千波流 「分かりました!」
46_朱音 「寿々加は、佐久弥を探してきてくれ。薬と、薬草が必要だろう」
47_寿々加 「了解」
48_朱音 「各務、二人を頼むぞ」
49_各務 「ああ。では伊織、手伝っておくれね」
50_伊織 「うん!」
51_千波流 「亜夏刃。その作業で、睦月、夜紫乃のほかに里に同伴した者は?」
52_亜夏刃 「ああ、確か、珠菜と―――」
53_朱音 「(ぼそりと)…確か、その仕事…主が直接人選をしたものだったな…」
54_各務 「お頭? 何か言うたかえ?」
55_朱音 「ああ、…いや…何でもない」
56_羽霧 「(やや遠くから)―――お頭!」
57_朱音 「羽霧、どうした? (小さくハッとして)…まさか」
58_羽霧 「珠菜が…ぶっ倒れて使いものにならねえんだよ」
59_亜夏刃 「やはり…珠菜もか」
60_羽霧 「もって事は…ほかにも同じ状態のヤツがいるのかよ」
61_寿々加 「まだ見てないから何とも言えねえけどな、睦月、夜紫乃もだ」
62_羽霧 「そうか…。ひとまず寝かせてきたけどな。けど、風邪とかじゃなさそうなんだ」
63_寿々加 「ああ。どーも昨日、ふもとで流行り病を拾ってきたらしいな」
64_羽霧 「流行り病!? やばいのか!?」
65_朱音 「まだ分からないが、油断しないに越した事はないさ」
66_羽霧 「俺はどうすれば良い?」
67_各務 「まずは、我が診にいこう。それから必要な薬をそろえるから、羽霧は協力しておくれ」
68_羽霧 「わかった」
69_千波流 「もし同じ状態だとすれば、一室に集めた方が看病する方の手間も省けるな、各務」
70_各務 「そうだねえ」
71_寿々加 「にしたって、まさか一族からそんな病人が出るとはなぁ。
普段は風邪だって滅多にひかねーのに」
72_亜夏刃 「文字通り、鬼の霍乱か…」
73_寿々加 「ははははっ、それ上手いぞ亜夏刃!」
74_羽霧 「この馬鹿っ、笑い事じゃねえよ!」
75_伊織 「そうだよっ、寿々加の馬鹿っ!!(ぼかっ)」
76_寿々加 「痛ぇっ!! 伊織っ! 夜紫乃がいないからって俺を殴るなよ!」
77_伊織 「寿々加が馬鹿な事言うからでしょーが!」
78_寿々加 「俺は、この暗い雰囲気を払拭しようとだなあ!」
79_羽霧 「冗談を言える雰囲気かどうか判断しろよな!」
80_千波流 「(少し遠くから)何してるんだお前たちは! 早く病人の看病に行かんか!」
81_寿々加
81_羽霧
81_伊織
※「(返事)」
(ひとまず、珠菜・夜紫乃・睦月が寝ている部屋に様子を見に来た)
82_寿々加 「こりゃ…ほんとに笑い事じゃねえや」
83_羽霧 「だから言っただろうが!」
84_寿々加 「こんなに酷いとは思わなかったんだからしょうがねぇだろ!」
85_各務 「病人の傍で煩くするなら出ておいき、寿々加」
86_寿々加 「…何で俺だけ…」
87_伊織 「熱もひどいし、食事も全然受け付けないし…もうどうしたら良いのか。各務、どう?」
88_各務 「ふむ…手足に軽く痺れもあるようだねえ…我も、このような病状は初めて見るな」
89_珠菜 「わたくしたち…何の、病を…拾ってしまったのかしら…(身を起こそうとする)」
90_羽霧 「珠菜、無理すんなよ、そのまま寝てろって」
91_珠菜 「えぇ…ありがとう、羽霧…(起こしかけた身体を、再び布団に横たわらせ、
つらそうに)でも、わたくしは、まだ、軽い方ですわよ……」
92_亜夏刃 「身体を起こせるだけ、マシということか」
(横を見ると、睦月と夜紫乃が意識朦朧で魘されている)
93_睦月 「…あたま、いたいですぅ…、…からだも、あちこち、いたいぃ……」
94_夜紫乃 「………気持ち、…わるぃ……うぅ…だるい……」
95_寿々加 「(二人の様子を見て)………。睦月も、夜紫乃も、これでもかって感じだな…」
96_各務 「薬が必要だねえ」
97_珠菜 「わたくしは、…作業を、ちょっと、手伝っただけ、ですのに…これ、ですものね…」
98_寿々加 「で、最後のもう一人は?」
99_羽霧 「自室でぶっ倒れてる。こっちに運ぼうにも、触るなの一点張りで」
100_亜夏刃 「みなが一緒では かえって休めないだろう。
アレは自室に そのまま置いておいた方が良い」
101_珠菜 「…その、比奈伎の、様子は、どうなんですの…羽霧…」
102_羽霧 「『触るな』以外の言葉は忘れたのかって状態だったぞ。
真っ青な顔して…そういえば、手足の痺れは特に酷いみたいだったな」
103_寿々加 「中心で作業してた比奈伎が、一番重症って事か…」
104_亜夏刃 「里に居た時間の違いもあるだろうが…もしくは、里人に接触したか、だな」
105_珠菜 「亜夏刃…それは、ありえません、わよ…」
106_各務 「(頷いて)比奈伎はもちろん、みな、不用意に里人と接触する事はありえないねえ」
107_佐久弥 「―――ということは、…空気感染型の病だ」
108_寿々加 「佐久弥! 探す手間が省けたぜ」
109_佐久弥 「書庫に居たんだけどね、様子がおかしかったから。
…触れなくてもうつる可能性が高い。看病する人を決めて、隔離した方が良い」
110_寿々加 「そりゃ名案だ」
111_佐久弥 「私は病には耐性がある方だから、私が主となって看病するよ」
112_各務 「では我は、薬草の準備などを補佐しよう」
113_伊織 「あ、アタシは…っ」
114_寿々加 「伊織は、寄らない方が良いぜ。羽霧もな」
115_羽霧 「何で俺もなんだよ、寿々加! 珠菜は俺の相棒だぞ! 俺が看病する!」
116_寿々加 「そんで、一族の賄い役が両方とも倒れちまったら、それこそ一大事だろ」
117_羽霧 「…っそれはっ…そうだけどよ…」
118_寿々加 「この中じゃ俺が一番体力がある。万一、病にかかっても、お前たちより快復は早い。
つーわけで、室内での看病の力仕事は引き受ける。
亜夏刃は外の力仕事担当って事で、よろしくな」
119_亜夏刃 「ああ、分かった」
120_寿々加 「千波流にゃそのまま、お頭の警護についててもらおう」
121_亜夏刃 「そうだな」
122_各務 「(パン!と手を打って、てきぱきと指示する)さぁ、急いで部屋から出て、
羽霧たちは手足を良く洗い、薬湯で口をすすぎ、消毒を必ずする事。
その薬湯の作り方は今から我が説明するから、羽霧が作っておくれね」
123_羽霧 「…(まだ少し不満そう)」
124_各務 「それから、みなに飲ませる薬湯作りを、羽霧と伊織に任せるえ」
125_羽霧
125_伊織
※「!」
126_各務 「それも立派な看病だよ」
127_羽霧 「…分かった!」
128_伊織 「うん、しっかり作るね!」
129_各務 「(それを見て頷き、微笑む)
今着ている物と、ふもとの里に行った時に着ていた着物は、
総て焼いてしまった方が良いね。そのあと、水浴びもした方が良いえ」
130_亜夏刃 「では自分は、そのついでに湯を沸かしてこよう」
131_各務 「亜夏刃、頼むえ。そうそう皆、それが済むまで、お頭には会ってはいけないよ」
132_伊織 「うん。万一でも、うつしたら大変だもんね」
133_佐久弥 「各務」
134_各務 「何え?」
135_佐久弥 「それが済んだら、各務もお頭についていて。
いくらなんでも こちらばかりに手をかけているわけにはいかないから」
136_各務 「そうだな。では、こちらはお前に頼むえ、佐久弥」
137_佐久弥 「うん」
138_伊織 「で、その朱音さまは?」
139_各務 「この事を主に報告するために、先ほど千波流と出かけたばかりだよ」
140_伊織 「そっかぁ」
141_佐久弥 「…」
(数日後/朱音が自室にこもっていると佐久弥がやってくる)
142_佐久弥 「お頭。主の屋敷から戻っていたんだね」
143_朱音 「佐久弥」
144_佐久弥 「ずいぶん長いこと行っていたけど」
145_朱音 「ああ、今回の流行り病の報告と、次の戦の件で、ちょっとな。
あれから数日経ったが…珠菜と、夜紫乃と、睦月の様子はどうだ?」
146_佐久弥 「だいぶ落ち着いた所かな。やっと熱も下がって来たところ。
…でもまだ油断は出来ないよ」
147_朱音 「まだ薬を使うか」
148_佐久弥 「うん。…どうしても、薬草よりは効くから」
150_朱音 「―――アレはどうしてる?」
151_佐久弥 「…まだ、会わせる事は出来ないと思う」
152_朱音 「…酷いのか」
153_佐久弥 「貴女にうつすわけにはいかないからね」
154_朱音 「―――それで、どうなんだ?」
155_佐久弥 「良くは無いよ」
156_朱音 「薬が必要か」
157_佐久弥 「出来るだけ薬草で処置もしているけれど…
薬草はともかく、薬は三人の分で手一杯で」
158_朱音 「…」
159_佐久弥 「それに…薬草も。自分は後で良いと言い張るものだから」
160_朱音 「まさか、薬湯を受け付けないのか?」
161_佐久弥 「うん。三人が治るまでは、と」
162_朱音 「(ふぅ…)比奈伎…」
163_佐久弥 「もう何日も、熱が下がらないままだよ」
164_朱音 「…また、主に会ってくる。本当は、あまり気が進まないが―――」
165_佐久弥 「…朱音?」
166_朱音 「…いや、…すぐ、戻る」
(次の日、謁見の間にてまみえる朱音と主)
167_朱音 「此度の戦では、短期にて勝ち取る事は難しいやもしれません。
先日の報告の通り、ふもとの里では流行り病が猛威を振るい、
我が一族も例外ではなく―――」
168_主 「病の者が居るのか」
169_朱音 「恥ずかしながら。気をつけてはいたのですが」
170_主 「そうか。(ほんの少しだけ楽しげに。
扇子で口元を隠す感じ)…まあ、病とはそういうものだ」
171_朱音 「は。数名は既に快復して参りましたので、
しばしの時をいただければ、また変わらずお役に立てます」
172_主 「もしや…誰ぞ、危ないのか」
173_朱音 「…そこまでは。ただ、まだ一人、快復の兆しが無く」
174_主 「(ぼそり)ああ…やっと時期が来たかもしれぬ」
175_朱音 「は?」
176_主 「いや。あい分かった、薬だな。手に入れておこう―――10日ほど待て」
177_朱音 「分かりました」
178_主 「まあ…それまでに必要なくなるかもしれぬがな」
179_朱音 「は?」
180_主 「いや…(くるりと振り向いて)薬を待つ間に、治るかもしれぬであろう?」
181_朱音 「…は、…仰せの通りでございます。それを、願います」
(10日後、再び主の屋敷を訪れた朱音)
182_朱音 「主に、10日ほどしたら来るように、と言われていたのだが―――」
183_女中:3 「はい。承っております。薬の件でございますね」
184_朱音 「ああ、そうだ」
185_女中:1(2) 「お待ち申し上げておりました」
186_女中:2 「どうぞ。こちらにて、お待ちくださりませ」
187_朱音 「分かった。(M)…いつ来ても―――
不気味なほどに表情の無い女たち…みな同じ顔に見えてくる…」
188_女中頭 「(すっとふすまが開いて)―――失礼いたしまする。…鬼火頭領、朱音殿」
189_朱音 「何だ」
190_女中頭 「殿・斉彬候より、仰せつかっておりまする。―――これへ」
191_女中:2 「は、…こちらにございます(小さな袋を差し出す)」
192_朱音 「これは…薬か」
193_女中頭 「はい。南蛮渡来の、疫病に良く効く薬にて―――これをお持ちになるように、と」
194_朱音 「…有難く頂戴した、と、主にお伝え願いたい」
195_女中頭 「はい。確かに承りましてございます」
196_朱音 「…いや、…やはり、主に直接お伝えしたい。今は、お目どおりはかなわぬだろうか」
197_女中頭 「殿は、お出にはなられませぬ。
その薬をお受け取り遊ばしましたならば、早々に、お引取り下さいませ」
198_朱音 「では、いつお戻りになられるのか知りたい。それまでお待ち申し上げる」
199_女中頭 「いくらお待ちになられても、今日は殿はお出にはなられませぬ」
200_朱音 「しかし、このような高価なものを、黙っていただいて行くわけにはいかない」
201_女中頭 「いえ。殿に、わたくしからお渡しするよう言われておりましたので、
お気になさいませぬよう」
202_朱音 「しかし…」
203_女中頭 「お引取り下さいませ」
204_朱音 「では、せめてどちらに向かわれたのか。いつごろお戻りになるかだけでも」
205_女中頭 「それらにつきましては、お答えするようには命ぜられておりませぬ」
206_朱音 「それは…我らに知られては差し支えるという事なのか?」
207_女中頭 「朱音殿。早々に、お引取り下さいませ。―――門を開けさせよ」
208_女中:1(2) 「畏まりました」
209_女中:2 「(立ち上がって)鬼火の頭領、朱音殿、お帰りでございます」
210_女中:全員 ※「鬼火の頭領、朱音殿、お帰りでございます」
211_女中頭 「ご苦労様でございました」
212_女中:全員 ※「ご苦労様でございました」
213_女中頭 「お引取り下さいませ」
214_朱音 「…。分かった。では、薬の効果が出たらまた報告に伺う、とも伝えていただきたい」
215_女中頭 「はい。お伝え申し上げます」
216_朱音 「…では」
(その数日後)
217_朱音 「―――待っていたぞ。(見上げる)―――佐久弥」
218_佐久弥 「(気配)…ここに私を呼び出すなんて珍しいね、朱音」
219_朱音 「そうかな」
220_佐久弥 「うん(トン、と降りてくる)」
221_朱音 「アレは…比奈はどうしている?」
222_佐久弥 「この前、貴女がもらってきた薬が効いたみたいで。ようやく眠ってくれたよ」
223_朱音 「そうか」
224_佐久弥 「まだ全快まではかかるだろうけど…少しは、目を離せるようになったかな。
今は、寿々加に頼んであるから」
225_朱音 「(ほぅ…)…ありがとう。お前も看病で疲れているだろうに、急で悪かった」
226_佐久弥 「ふふ、良いよ。…それで?」
227_朱音 「ああ。…悪いが、お前に頼みたい事がある」
228_佐久弥 「主の屋敷に来るのは、これで三度目だけれど…相変わらず、大きいね」
229_朱音 「そうだな。広い荒野を走り回るのは慣れていても、
この屋敷の大きさには、未だに慣れない」
230_佐久弥 「ここからでも、端が見えないもの」
231_朱音 「私も、一回りしてみようと思ったんだが、何しろこの広さだしな(苦笑)。…佐久弥」
232_佐久弥 「?」
233_朱音 「お前、謁見の間に行ってみたくないか?」
234_佐久弥 「え?」
235_朱音 「本来、謁見の間には頭領以外の立ち入りは厳禁だが…
ちょっと試したい事があってな。ついて来い」
236_佐久弥 「(黙ってついていく)」
(屋敷の門が開く)
237_佐久弥 「見張りは?」
238_朱音 「この時刻は手薄になる。…こっちだ」
(謁見の間へ向かう廊下にて)
239_朱音 「あの突き当りが、謁見の間だ」
240_佐久弥 「うん」
241_朱音 「行ってみてくれ」
242_佐久弥 「分かった」
(一人で歩いて行く佐久弥)
243_朱音 「(M)もし、私の考えが当たっていれば―――」
(戻ってきた佐久弥)
244_佐久弥 「…え?」
245_朱音 「ご苦労だったな、佐久弥」
246_佐久弥 「…私は…謁見の間に向かっていたはずだけど」
247_朱音 「そうだな」
248_佐久弥 「途中で曲がった?」
249_朱音 「いや。お前は真っ直ぐ向かっていたぞ」
250_佐久弥 「狐にでも化かされたのかな」
251_朱音 「その通りだ」
252_佐久弥 「…?」
253_朱音 「おそらく…掟でも許されているからなんだろう、私は、謁見の間までは 入って行ける。
だが、その先は―――今のお前と同じ。
何故か、最初に居た場所に戻ってきてしまっているんだ」
254_佐久弥 「…朱音」
255_朱音 「試したかったのは、この事なんだ。お前は―――何か、感じなかったか」
256_佐久弥 「(少し考え込んで)―――特に、何かを感じたわけではないけれど…
人の気配はまるで感じないのに、…」
257_朱音 「視線を感じる?」
258_佐久弥 「うん」
259_朱音 「―――」
260_佐久弥 「朱音」
261_朱音 「…まだ、みんなには言うなよ」
262_佐久弥 「いつから?」
263_朱音 「政権の交代があって…謁見を許されるようになってからすぐだな。
先代の鬼火一族の事について尋ねて…、
何となくその時の主の態度が気になって、調べているうちに気づいたんだ」
264_佐久弥 「先代鬼火一族…」
265_朱音 「一度も、会った事は無いがな」
266_佐久弥 「そうだね」
(二人で歩きながら)
267_朱音 「佐久弥。お前は―――「壊れたら取り替えれば良い」とは、どういう意味だと思う?」
268_佐久弥 「…言葉通りではなく?」
269_朱音 「(立ち止まる)……。言葉通りだと思いたい、それが、物を指しているのであれば、な」
(回想シーン:謁見の間にて)
270_主 「(立ち上がって、外を見る)…まぁ、損じたのであれば取り替えれば済む事だ」
271_朱音 「…」
272_主 「(朱音を見下ろして)案ずるな。
そちのような有能な将がいる限り、何度でもやり直せる」
273_朱音 「…もったいなきお言葉」
274_主 「朱音」
275_朱音 「は」
276_主 「期待しているぞ」
277_朱音 「―――御意のままに」
(回想シーン終わり/再び、歩きながら)
278_佐久弥 「…壊れたら、取り替える―――私たちを、だね」
279_朱音 「(頷く)それが、いくら主のお考えとはいえ―――気に入らない。
―――少なくとも、私はな」
280_佐久弥 「…」
281_朱音 「確かに、我が一族は主にとっては、いくらでも替えのきく駒に過ぎない。
しかし、あの言い方は―――引っかかるんだ。
…何故、と聞かれれば説明出来ないが」
282_佐久弥 「うん」
283_朱音 「お前は、どう考える?」
284_佐久弥 「今は…まだ、分からない」
285_朱音 「(溜息)…そうだな」
286_佐久弥 「…何故、私に?」
287_朱音 「いけないか?」
288_佐久弥 「…ううん」
289_朱音 「お前には、私の影として―――どう感じるか聞きたかったんだ」
290_佐久弥 「(頷く)これから、どうするの?」
291_朱音 「…結局、里に使いをもらうという話も出たが、断った。
病の者が居るこんな時に、他者を里へ入れる事は避けた方が良いからな」
292_佐久弥 「うん」
(静かな、だがどこか不安を混ぜたような風が行過ぎる)
293_朱音 「…何かあるかもしれない。数日後か、数年後かは分からないが―――
私のこの疑念が、形になった…なってしまった、その時に、な」
294_佐久弥 「…うん」
295_朱音 「しばらく、何度か屋敷に顔を出して様子を見る事にする。
斉彬候は病に臥せっていてその見舞いのためと、みなには伝える事にするさ」
296_佐久弥 「それで良いの?」
297_朱音 「主が『余は病なのだ』といえば、私はそれを信じるほかは無い」
298_佐久弥 「…」
299_朱音 「…長年仕えてきた主君だからな。…どこかで、信じたいと思っている。
はっきりさせるまでは、私にも猶予が必要だ」
300_佐久弥 「…そうだね」
301_朱音 「―――佐久弥」
302_佐久弥 「なに?」
303_朱音 「すまない」
304_佐久弥 「…良いよ。話してくれてありがとう、朱音―――」
(回想シーン終わり/時は現在へ戻る。
主の屋敷にて、武士を片つけた朱音。佐久弥との会話を思い出していた)
305_朱音 「(M・息をつく)…その、疑念が、…とうとう形になるのか。
―――決して望んでいたわけではないというのに」
(そこに小さな人影が)
306_黒幕 「―――出来るね。鬼火の朱音」
307_朱音 「!!(ばっと見上げる)」
308_黒幕 「すごい腕だ。期待通りの、ね。
ここには、武士の中でも使えるのを集めてあったはずなのに」
309_朱音 「(M)狐の面…?
(T・窺うように)…聞けばまだ童の声音のようだが―――何故このような場所にいる?」
310_黒幕 「(クスクス…)お前のその腕に免じて、良い物見せてあげるよ。
ついておいで―――ついて来られればね」
311_朱音 「…」
312_黒幕 「でないと―――大切な仲間がみんな死んじゃうよ?」
313_朱音 「なんだと…(姿を消した?を追う)待て…ッ!!」
(山中を移動する千波流と彩登)
314_彩登 「ねぇ、千波流…っ、夜紫乃たちは何処に行っちゃったの?」
315_千波流 「分からん…とにかく、これ以上奥へ踏み込むのは危険だ。
まずは、里に向かった方のみんなと、合流するぞ」
316_彩登 「う、うん…」
317_千波流 「屋敷へは比奈伎と佐久弥、追って寿々加と各務が向かってる。
もし、夜紫乃たちが計画通り屋敷へ向かっていたとすれば、あちらは大丈夫だろう」
318_彩登 「珠菜と、亜夏刃は?」
319_千波流 「切り込みを終えて、おそらく、しばらくしたら、里に向かうだろう」
320_彩登 「睦月は、大丈夫かなぁ…」
321_千波流 「羽霧がついているからな。心配はいらないはずだ」
322_彩登 「うん…」
323_千波流 「とにかく、急いで戻ろう。一刻も早く、里に戻った方が良い。…そんな気がする」
【続く】