●鬼神楽● 【〜楽業の章・第2話〜】 | |
この色…鬼火 この色…武士・女中・ガヤ(注:ガヤ・全員部分は、ファイル名 セリフ番号_お名前 ) この色…その他 | |
セリフ番号 | |
(千波流は亜夏刃・珠菜と合流後、分かれて単身山中を目指して夜紫乃たちの援護へ向かう途中) | |
01_千波流 | 「…妙だな」 |
02_千波流 | 「(M)何なんだ―――? いくら高見の時点で数が少なかったとは言っても、 これは…ある程度いるはずの気配も感じられないとは… 何故、こんなにも気配が無いんだ…静か過ぎる」 |
03_彩登 | 「(やや遠くから、すすり泣く声)」 |
04_千波流 | 「!! (M)あの声…まさか!(走り寄って) (T)―――彩登!? こんな所で何をしてる!? 夜紫乃と伊織…瀬比呂はどうした!」 |
05_彩登 | 「! 千波流!! 千波流…どうしよう、どうしよう…!!!」 |
06_千波流 | 「落ち着け彩登。落ち着いて、何があったかちゃんと話すんだ」 |
07_彩登 | 「(泣きながら)…あ、…彩登…みんなとはぐれちゃって…!」 |
08_千波流 | 「はぐれた!? そんな馬鹿な!!」 |
09_彩登 | 「いっぱいいっぱい探したんだよ!! でも全然…どこにもいないの…!」 |
10_千波流 | 「馬鹿な…夜紫乃が…、伊織が、お前を一人にするなんて…!」 |
11_彩登 | 「ねえ千波流…っ、みんなは何処に行っちゃったの!? 何か…ヘンだよお…!!」 |
(モノローグ) | |
12_寿々加 | 「―――この鬼火一族の中でも、勘は良い方だと思ってた。 何かあればきっと気づく事が出来る。 逆に言えば、気づかないなら、何事も起こってはいないんだと。 だから、大丈夫なんだと。そんな感覚に、勝手に甘えてた。 勘が鈍るなんて、今までにそんな事なかったのに。 ―――それこそ、まるで何かで覆い隠されてしまったかのように… これまでの戦でも、命の危険を味わった事は何度かある。 それでも、不思議と恐怖は感じなかった。 だが…これはいったい何だ? じわりと、知らないうちに身体から流れ出すかのように、 音も無く背を這うような、底知れぬもの―――これが、恐怖なのか」 |
(モノローグ終わり/謁見の間にて主と謁見する朱音:回想) | |
13_朱音 | 「―――私が鬼火の頭領となって、主・斉彬さまにお仕えするようになってから、 もうじき十年になります。……まだ十年です、殿。 一人の主が起てば、その時代は短くても三十年以上は続くもの。 まだ、これからではありませんか」 |
14_主 | 「…そうだな。だが―――もう、長くはない」 |
15_朱音 | 「殿。そのような弱音を仰せになられませぬよう」 |
16_主 | 「(ゆるりと首を振って)既に、種はまかれた―――時は、動き出したのだ…」 |
17_朱音 | 「斉彬さま…」 |
18_主 | 「だが、思ったよりも長かった。…余にとっては、な」 |
19_朱音 | 「殿、それは、いったいどういう?」 |
20_主 | 「この胸に巣食う病が、いつ、余を殺めるのかと思っていたが」 |
21_朱音 | 「………まさか、そのような…、…よもやそんな、…病だなどと―――」 |
22_朱音 | 「(M)―――目の前で、悠然と微笑むこの男は。 その目は。その、底の見えない鈍い光を持つ目は …決して、死に近い人間の目ではない―――」 |
23_主 | 「もはや駄目だと思っていたものが、思わぬ時を永らえる――― 本当に、計り知れぬものだ」 |
24_朱音 | 「(M)…穏やかな表情で。 だが、底知れぬ目をしたこの男は…私の仕える主(あるじ)は。 傅く(かしずく)べきこの相手は―――いったい、何者なのだ」 |
(タイトルコール) | |
25_寿々加 | 「『鬼神楽』最終章 〜楽業の章〜 第2話」 |
(回想シーン ※現在より3年以上前ですが、声を変えていただく必要はございません。 この時点では年少組の存在は無く、睦月が一番下の子になります) | |
26_千波流 | 「(遠くから)―――お頭! お頭、大変です!」 |
27_朱音 | 「どうしたんだ千波流、血相を変えて」 |
28_千波流 | 「(少し息を切らして)それが、睦月の具合が悪いようなんです」 |
29_朱音 | 「珍しいな、どうした」 |
30_千波流 | 「風邪ではなく…何か、違う病のようで」 |
31_亜夏刃 | 「病? そういえば……」 |
32_朱音 | 「何だ? 亜夏刃」 |
33_亜夏刃 | 「確か、昨日、任務での作業の際に寄ったふもとの里で、 流行り病で何人も死人が出ていると言う話を聞いた、と珠菜が言っていたな…」 |
34_寿々加 | 「オイオイ…病って…まさか、それかよ!?」 |
35_各務 | 「死人が出るほどの病とは…捨て置けぬな」 |
36_朱音 | 「ああ」 |
37_伊織 | 「(遠くから)朱音さまーっ!」 |
38_朱音 | 「伊織」 |
39_伊織 | 「(息を切らして)大変、です…!」 |
40_朱音 | 「まさか…、睦月以外にも誰か倒れたのか」 |
41_伊織 | 「そのまさかで…っ、夜紫乃が、急に、すごい熱で…!」 |
42_各務 | 「(頷いて)ひとまず我が診てこよう」 |
43_伊織 | 「各務、お願い…!」 |
44_朱音 | 「千波流。羽霧と珠菜に言って、何か滋養のつくものを作ってもらってくれ」 |
45_千波流 | 「分かりました!」 |
46_朱音 | 「寿々加は、佐久弥を探してきてくれ。薬と、薬草が必要だろう」 |
47_寿々加 | 「了解」 |
48_朱音 | 「各務、二人を頼むぞ」 |
49_各務 | 「ああ。では伊織、手伝っておくれね」 |
50_伊織 | 「うん!」 |
51_千波流 | 「亜夏刃。その作業で、睦月、夜紫乃のほかに里に同伴した者は?」 |
52_亜夏刃 | 「ああ、確か、珠菜と―――」 |
53_朱音 | 「(ぼそりと)…確か、その仕事…主が直接人選をしたものだったな…」 |
54_各務 | 「お頭? 何か言うたかえ?」 |
55_朱音 | 「ああ、…いや…何でもない」 |
56_羽霧 | 「(やや遠くから)―――お頭!」 |
57_朱音 | 「羽霧、どうした? (小さくハッとして)…まさか」 |
58_羽霧 | 「珠菜が…ぶっ倒れて使いものにならねえんだよ」 |
59_亜夏刃 | 「やはり…珠菜もか」 |
60_羽霧 | 「もって事は…ほかにも同じ状態のヤツがいるのかよ」 |
61_寿々加 | 「まだ見てないから何とも言えねえけどな、睦月、夜紫乃もだ」 |
62_羽霧 | 「そうか…。ひとまず寝かせてきたけどな。けど、風邪とかじゃなさそうなんだ」 |
63_寿々加 | 「ああ。どーも昨日、ふもとで流行り病を拾ってきたらしいな」 |
64_羽霧 | 「流行り病!? やばいのか!?」 |
65_朱音 | 「まだ分からないが、油断しないに越した事はないさ」 |
66_羽霧 | 「俺はどうすれば良い?」 |
67_各務 | 「まずは、我が診にいこう。それから必要な薬をそろえるから、羽霧は協力しておくれ」 |
68_羽霧 | 「わかった」 |
69_千波流 | 「もし同じ状態だとすれば、一室に集めた方が看病する方の手間も省けるな、各務」 |
70_各務 | 「そうだねえ」 |
71_寿々加 | 「にしたって、まさか一族からそんな病人が出るとはなぁ。 普段は風邪だって滅多にひかねーのに」 |
72_亜夏刃 | 「文字通り、鬼の霍乱か…」 |
73_寿々加 | 「ははははっ、それ上手いぞ亜夏刃!」 |
74_羽霧 | 「この馬鹿っ、笑い事じゃねえよ!」 |
75_伊織 | 「そうだよっ、寿々加の馬鹿っ!!(ぼかっ)」 |
76_寿々加 | 「痛ぇっ!! 伊織っ! 夜紫乃がいないからって俺を殴るなよ!」 |
77_伊織 | 「寿々加が馬鹿な事言うからでしょーが!」 |
78_寿々加 | 「俺は、この暗い雰囲気を払拭しようとだなあ!」 |
79_羽霧 | 「冗談を言える雰囲気かどうか判断しろよな!」 |
80_千波流 | 「(少し遠くから)何してるんだお前たちは! 早く病人の看病に行かんか!」 |
81_寿々加 81_羽霧 81_伊織 |
※「(返事)」 |
(ひとまず、珠菜・夜紫乃・睦月が寝ている部屋に様子を見に来た) | |
82_寿々加 | 「こりゃ…ほんとに笑い事じゃねえや」 |
83_羽霧 | 「だから言っただろうが!」 |
84_寿々加 | 「こんなに酷いとは思わなかったんだからしょうがねぇだろ!」 |
85_各務 | 「病人の傍で煩くするなら出ておいき、寿々加」 |
86_寿々加 | 「…何で俺だけ…」 |
87_伊織 | 「熱もひどいし、食事も全然受け付けないし…もうどうしたら良いのか。各務、どう?」 |
88_各務 | 「ふむ…手足に軽く痺れもあるようだねえ…我も、このような病状は初めて見るな」 |
89_珠菜 | 「わたくしたち…何の、病を…拾ってしまったのかしら…(身を起こそうとする)」 |
90_羽霧 | 「珠菜、無理すんなよ、そのまま寝てろって」 |
91_珠菜 | 「えぇ…ありがとう、羽霧…(起こしかけた身体を、再び布団に横たわらせ、 つらそうに)でも、わたくしは、まだ、軽い方ですわよ……」 |
92_亜夏刃 | 「身体を起こせるだけ、マシということか」 |
(横を見ると、睦月と夜紫乃が意識朦朧で魘されている) | |
93_睦月 | 「…あたま、いたいですぅ…、…からだも、あちこち、いたいぃ……」 |
94_夜紫乃 | 「………気持ち、…わるぃ……うぅ…だるい……」 |
95_寿々加 | 「(二人の様子を見て)………。睦月も、夜紫乃も、これでもかって感じだな…」 |
96_各務 | 「薬が必要だねえ」 |
97_珠菜 | 「わたくしは、…作業を、ちょっと、手伝っただけ、ですのに…これ、ですものね…」 |
98_寿々加 | 「で、最後のもう一人は?」 |
99_羽霧 | 「自室でぶっ倒れてる。こっちに運ぼうにも、触るなの一点張りで」 |
100_亜夏刃 | 「みなが一緒では かえって休めないだろう。 アレは自室に そのまま置いておいた方が良い」 |
101_珠菜 | 「…その、比奈伎の、様子は、どうなんですの…羽霧…」 |
102_羽霧 | 「『触るな』以外の言葉は忘れたのかって状態だったぞ。 真っ青な顔して…そういえば、手足の痺れは特に酷いみたいだったな」 |
103_寿々加 | 「中心で作業してた比奈伎が、一番重症って事か…」 |
104_亜夏刃 | 「里に居た時間の違いもあるだろうが…もしくは、里人に接触したか、だな」 |
105_珠菜 | 「亜夏刃…それは、ありえません、わよ…」 |
106_各務 | 「(頷いて)比奈伎はもちろん、みな、不用意に里人と接触する事はありえないねえ」 |
107_佐久弥 | 「―――ということは、…空気感染型の病だ」 |
108_寿々加 | 「佐久弥! 探す手間が省けたぜ」 |
109_佐久弥 | 「書庫に居たんだけどね、様子がおかしかったから。 …触れなくてもうつる可能性が高い。看病する人を決めて、隔離した方が良い」 |
110_寿々加 | 「そりゃ名案だ」 |
111_佐久弥 | 「私は病には耐性がある方だから、私が主となって看病するよ」 |
112_各務 | 「では我は、薬草の準備などを補佐しよう」 |
113_伊織 | 「あ、アタシは…っ」 |
114_寿々加 | 「伊織は、寄らない方が良いぜ。羽霧もな」 |
115_羽霧 | 「何で俺もなんだよ、寿々加! 珠菜は俺の相棒だぞ! 俺が看病する!」 |
116_寿々加 | 「そんで、一族の賄い役が両方とも倒れちまったら、それこそ一大事だろ」 |
117_羽霧 | 「…っそれはっ…そうだけどよ…」 |
118_寿々加 | 「この中じゃ俺が一番体力がある。万一、病にかかっても、お前たちより快復は早い。 つーわけで、室内での看病の力仕事は引き受ける。 亜夏刃は外の力仕事担当って事で、よろしくな」 |
119_亜夏刃 | 「ああ、分かった」 |
120_寿々加 | 「千波流にゃそのまま、お頭の警護についててもらおう」 |
121_亜夏刃 | 「そうだな」 |
122_各務 | 「(パン!と手を打って、てきぱきと指示する)さぁ、急いで部屋から出て、 羽霧たちは手足を良く洗い、薬湯で口をすすぎ、消毒を必ずする事。 その薬湯の作り方は今から我が説明するから、羽霧が作っておくれね」 |
123_羽霧 | 「…(まだ少し不満そう)」 |
124_各務 | 「それから、みなに飲ませる薬湯作りを、羽霧と伊織に任せるえ」 |
125_羽霧 125_伊織 |
※「!」 |
126_各務 | 「それも立派な看病だよ」 |
127_羽霧 | 「…分かった!」 |
128_伊織 | 「うん、しっかり作るね!」 |
129_各務 | 「(それを見て頷き、微笑む) 今着ている物と、ふもとの里に行った時に着ていた着物は、 総て焼いてしまった方が良いね。そのあと、水浴びもした方が良いえ」 |
130_亜夏刃 | 「では自分は、そのついでに湯を沸かしてこよう」 |
131_各務 | 「亜夏刃、頼むえ。そうそう皆、それが済むまで、お頭には会ってはいけないよ」 |
132_伊織 | 「うん。万一でも、うつしたら大変だもんね」 |
133_佐久弥 | 「各務」 |
134_各務 | 「何え?」 |
135_佐久弥 | 「それが済んだら、各務もお頭についていて。 いくらなんでも こちらばかりに手をかけているわけにはいかないから」 |
136_各務 | 「そうだな。では、こちらはお前に頼むえ、佐久弥」 |
137_佐久弥 | 「うん」 |
138_伊織 | 「で、その朱音さまは?」 |
139_各務 | 「この事を主に報告するために、先ほど千波流と出かけたばかりだよ」 |
140_伊織 | 「そっかぁ」 |
141_佐久弥 | 「…」 |
(数日後/朱音が自室にこもっていると佐久弥がやってくる) | |
142_佐久弥 | 「お頭。主の屋敷から戻っていたんだね」 |
143_朱音 | 「佐久弥」 |
144_佐久弥 | 「ずいぶん長いこと行っていたけど」 |
145_朱音 | 「ああ、今回の流行り病の報告と、次の戦の件で、ちょっとな。 あれから数日経ったが…珠菜と、夜紫乃と、睦月の様子はどうだ?」 |
146_佐久弥 | 「だいぶ落ち着いた所かな。やっと熱も下がって来たところ。 …でもまだ油断は出来ないよ」 |
147_朱音 | 「まだ薬を使うか」 |
148_佐久弥 | 「うん。…どうしても、薬草よりは効くから」 |
150_朱音 | 「―――アレはどうしてる?」 |
151_佐久弥 | 「…まだ、会わせる事は出来ないと思う」 |
152_朱音 | 「…酷いのか」 |
153_佐久弥 | 「貴女にうつすわけにはいかないからね」 |
154_朱音 | 「―――それで、どうなんだ?」 |
155_佐久弥 | 「良くは無いよ」 |
156_朱音 | 「薬が必要か」 |
157_佐久弥 | 「出来るだけ薬草で処置もしているけれど… 薬草はともかく、薬は三人の分で手一杯で」 |
158_朱音 | 「…」 |
159_佐久弥 | 「それに…薬草も。自分は後で良いと言い張るものだから」 |
160_朱音 | 「まさか、薬湯を受け付けないのか?」 |
161_佐久弥 | 「うん。三人が治るまでは、と」 |
162_朱音 | 「(ふぅ…)比奈伎…」 |
163_佐久弥 | 「もう何日も、熱が下がらないままだよ」 |
164_朱音 | 「…また、主に会ってくる。本当は、あまり気が進まないが―――」 |
165_佐久弥 | 「…朱音?」 |
166_朱音 | 「…いや、…すぐ、戻る」 |
(次の日、謁見の間にてまみえる朱音と主) | |
167_朱音 | 「此度の戦では、短期にて勝ち取る事は難しいやもしれません。 先日の報告の通り、ふもとの里では流行り病が猛威を振るい、 我が一族も例外ではなく―――」 |
168_主 | 「病の者が居るのか」 |
169_朱音 | 「恥ずかしながら。気をつけてはいたのですが」 |
170_主 | 「そうか。(ほんの少しだけ楽しげに。 扇子で口元を隠す感じ)…まあ、病とはそういうものだ」 |
171_朱音 | 「は。数名は既に快復して参りましたので、 しばしの時をいただければ、また変わらずお役に立てます」 |
172_主 | 「もしや…誰ぞ、危ないのか」 |
173_朱音 | 「…そこまでは。ただ、まだ一人、快復の兆しが無く」 |
174_主 | 「(ぼそり)ああ…やっと時期が来たかもしれぬ」 |
175_朱音 | 「は?」 |
176_主 | 「いや。あい分かった、薬だな。手に入れておこう―――10日ほど待て」 |
177_朱音 | 「分かりました」 |
178_主 | 「まあ…それまでに必要なくなるかもしれぬがな」 |
179_朱音 | 「は?」 |
180_主 | 「いや…(くるりと振り向いて)薬を待つ間に、治るかもしれぬであろう?」 |
181_朱音 | 「…は、…仰せの通りでございます。それを、願います」 |
(10日後、再び主の屋敷を訪れた朱音) | |
182_朱音 | 「主に、10日ほどしたら来るように、と言われていたのだが―――」 |
183_女中:3 | 「はい。承っております。薬の件でございますね」 |
184_朱音 | 「ああ、そうだ」 |
185_女中:1(2) | 「お待ち申し上げておりました」 |
186_女中:2 | 「どうぞ。こちらにて、お待ちくださりませ」 |
187_朱音 | 「分かった。(M)…いつ来ても――― 不気味なほどに表情の無い女たち…みな同じ顔に見えてくる…」 |
188_女中頭 | 「(すっとふすまが開いて)―――失礼いたしまする。…鬼火頭領、朱音殿」 |
189_朱音 | 「何だ」 |
190_女中頭 | 「殿・斉彬候より、仰せつかっておりまする。―――これへ」 |
191_女中:2 | 「は、…こちらにございます(小さな袋を差し出す)」 |
192_朱音 | 「これは…薬か」 |
193_女中頭 | 「はい。南蛮渡来の、疫病に良く効く薬にて―――これをお持ちになるように、と」 |
194_朱音 | 「…有難く頂戴した、と、主にお伝え願いたい」 |
195_女中頭 | 「はい。確かに承りましてございます」 |
196_朱音 | 「…いや、…やはり、主に直接お伝えしたい。今は、お目どおりはかなわぬだろうか」 |
197_女中頭 | 「殿は、お出にはなられませぬ。 その薬をお受け取り遊ばしましたならば、早々に、お引取り下さいませ」 |
198_朱音 | 「では、いつお戻りになられるのか知りたい。それまでお待ち申し上げる」 |
199_女中頭 | 「いくらお待ちになられても、今日は殿はお出にはなられませぬ」 |
200_朱音 | 「しかし、このような高価なものを、黙っていただいて行くわけにはいかない」 |
201_女中頭 | 「いえ。殿に、わたくしからお渡しするよう言われておりましたので、 お気になさいませぬよう」 |
202_朱音 | 「しかし…」 |
203_女中頭 | 「お引取り下さいませ」 |
204_朱音 | 「では、せめてどちらに向かわれたのか。いつごろお戻りになるかだけでも」 |
205_女中頭 | 「それらにつきましては、お答えするようには命ぜられておりませぬ」 |
206_朱音 | 「それは…我らに知られては差し支えるという事なのか?」 |
207_女中頭 | 「朱音殿。早々に、お引取り下さいませ。―――門を開けさせよ」 |
208_女中:1(2) | 「畏まりました」 |
209_女中:2 | 「(立ち上がって)鬼火の頭領、朱音殿、お帰りでございます」 |
210_女中:全員 | ※「鬼火の頭領、朱音殿、お帰りでございます」 |
211_女中頭 | 「ご苦労様でございました」 |
212_女中:全員 | ※「ご苦労様でございました」 |
213_女中頭 | 「お引取り下さいませ」 |
214_朱音 | 「…。分かった。では、薬の効果が出たらまた報告に伺う、とも伝えていただきたい」 |
215_女中頭 | 「はい。お伝え申し上げます」 |
216_朱音 | 「…では」 |
(その数日後) | |
217_朱音 | 「―――待っていたぞ。(見上げる)―――佐久弥」 |
218_佐久弥 | 「(気配)…ここに私を呼び出すなんて珍しいね、朱音」 |
219_朱音 | 「そうかな」 |
220_佐久弥 | 「うん(トン、と降りてくる)」 |
221_朱音 | 「アレは…比奈はどうしている?」 |
222_佐久弥 | 「この前、貴女がもらってきた薬が効いたみたいで。ようやく眠ってくれたよ」 |
223_朱音 | 「そうか」 |
224_佐久弥 | 「まだ全快まではかかるだろうけど…少しは、目を離せるようになったかな。 今は、寿々加に頼んであるから」 |
225_朱音 | 「(ほぅ…)…ありがとう。お前も看病で疲れているだろうに、急で悪かった」 |
226_佐久弥 | 「ふふ、良いよ。…それで?」 |
227_朱音 | 「ああ。…悪いが、お前に頼みたい事がある」 |
228_佐久弥 | 「主の屋敷に来るのは、これで三度目だけれど…相変わらず、大きいね」 |
229_朱音 | 「そうだな。広い荒野を走り回るのは慣れていても、 この屋敷の大きさには、未だに慣れない」 |
230_佐久弥 | 「ここからでも、端が見えないもの」 |
231_朱音 | 「私も、一回りしてみようと思ったんだが、何しろこの広さだしな(苦笑)。…佐久弥」 |
232_佐久弥 | 「?」 |
233_朱音 | 「お前、謁見の間に行ってみたくないか?」 |
234_佐久弥 | 「え?」 |
235_朱音 | 「本来、謁見の間には頭領以外の立ち入りは厳禁だが… ちょっと試したい事があってな。ついて来い」 |
236_佐久弥 | 「(黙ってついていく)」 |
(屋敷の門が開く) | |
237_佐久弥 | 「見張りは?」 |
238_朱音 | 「この時刻は手薄になる。…こっちだ」 |
(謁見の間へ向かう廊下にて) | |
239_朱音 | 「あの突き当りが、謁見の間だ」 |
240_佐久弥 | 「うん」 |
241_朱音 | 「行ってみてくれ」 |
242_佐久弥 | 「分かった」 |
(一人で歩いて行く佐久弥) | |
243_朱音 | 「(M)もし、私の考えが当たっていれば―――」 |
(戻ってきた佐久弥) | |
244_佐久弥 | 「…え?」 |
245_朱音 | 「ご苦労だったな、佐久弥」 |
246_佐久弥 | 「…私は…謁見の間に向かっていたはずだけど」 |
247_朱音 | 「そうだな」 |
248_佐久弥 | 「途中で曲がった?」 |
249_朱音 | 「いや。お前は真っ直ぐ向かっていたぞ」 |
250_佐久弥 | 「狐にでも化かされたのかな」 |
251_朱音 | 「その通りだ」 |
252_佐久弥 | 「…?」 |
253_朱音 | 「おそらく…掟でも許されているからなんだろう、私は、謁見の間までは 入って行ける。 だが、その先は―――今のお前と同じ。 何故か、最初に居た場所に戻ってきてしまっているんだ」 |
254_佐久弥 | 「…朱音」 |
255_朱音 | 「試したかったのは、この事なんだ。お前は―――何か、感じなかったか」 |
256_佐久弥 | 「(少し考え込んで)―――特に、何かを感じたわけではないけれど… 人の気配はまるで感じないのに、…」 |
257_朱音 | 「視線を感じる?」 |
258_佐久弥 | 「うん」 |
259_朱音 | 「―――」 |
260_佐久弥 | 「朱音」 |
261_朱音 | 「…まだ、みんなには言うなよ」 |
262_佐久弥 | 「いつから?」 |
263_朱音 | 「政権の交代があって…謁見を許されるようになってからすぐだな。 先代の鬼火一族の事について尋ねて…、 何となくその時の主の態度が気になって、調べているうちに気づいたんだ」 |
264_佐久弥 | 「先代鬼火一族…」 |
265_朱音 | 「一度も、会った事は無いがな」 |
266_佐久弥 | 「そうだね」 |
(二人で歩きながら) | |
267_朱音 | 「佐久弥。お前は―――「壊れたら取り替えれば良い」とは、どういう意味だと思う?」 |
268_佐久弥 | 「…言葉通りではなく?」 |
269_朱音 | 「(立ち止まる)……。言葉通りだと思いたい、それが、物を指しているのであれば、な」 |
(回想シーン:謁見の間にて) | |
270_主 | 「(立ち上がって、外を見る)…まぁ、損じたのであれば取り替えれば済む事だ」 |
271_朱音 | 「…」 |
272_主 | 「(朱音を見下ろして)案ずるな。 そちのような有能な将がいる限り、何度でもやり直せる」 |
273_朱音 | 「…もったいなきお言葉」 |
274_主 | 「朱音」 |
275_朱音 | 「は」 |
276_主 | 「期待しているぞ」 |
277_朱音 | 「―――御意のままに」 |
(回想シーン終わり/再び、歩きながら) | |
278_佐久弥 | 「…壊れたら、取り替える―――私たちを、だね」 |
279_朱音 | 「(頷く)それが、いくら主のお考えとはいえ―――気に入らない。 ―――少なくとも、私はな」 |
280_佐久弥 | 「…」 |
281_朱音 | 「確かに、我が一族は主にとっては、いくらでも替えのきく駒に過ぎない。 しかし、あの言い方は―――引っかかるんだ。 …何故、と聞かれれば説明出来ないが」 |
282_佐久弥 | 「うん」 |
283_朱音 | 「お前は、どう考える?」 |
284_佐久弥 | 「今は…まだ、分からない」 |
285_朱音 | 「(溜息)…そうだな」 |
286_佐久弥 | 「…何故、私に?」 |
287_朱音 | 「いけないか?」 |
288_佐久弥 | 「…ううん」 |
289_朱音 | 「お前には、私の影として―――どう感じるか聞きたかったんだ」 |
290_佐久弥 | 「(頷く)これから、どうするの?」 |
291_朱音 | 「…結局、里に使いをもらうという話も出たが、断った。 病の者が居るこんな時に、他者を里へ入れる事は避けた方が良いからな」 |
292_佐久弥 | 「うん」 |
(静かな、だがどこか不安を混ぜたような風が行過ぎる) | |
293_朱音 | 「…何かあるかもしれない。数日後か、数年後かは分からないが――― 私のこの疑念が、形になった…なってしまった、その時に、な」 |
294_佐久弥 | 「…うん」 |
295_朱音 | 「しばらく、何度か屋敷に顔を出して様子を見る事にする。 斉彬候は病に臥せっていてその見舞いのためと、みなには伝える事にするさ」 |
296_佐久弥 | 「それで良いの?」 |
297_朱音 | 「主が『余は病なのだ』といえば、私はそれを信じるほかは無い」 |
298_佐久弥 | 「…」 |
299_朱音 | 「…長年仕えてきた主君だからな。…どこかで、信じたいと思っている。 はっきりさせるまでは、私にも猶予が必要だ」 |
300_佐久弥 | 「…そうだね」 |
301_朱音 | 「―――佐久弥」 |
302_佐久弥 | 「なに?」 |
303_朱音 | 「すまない」 |
304_佐久弥 | 「…良いよ。話してくれてありがとう、朱音―――」 |
(回想シーン終わり/時は現在へ戻る。 主の屋敷にて、武士を片つけた朱音。佐久弥との会話を思い出していた) | |
305_朱音 | 「(M・息をつく)…その、疑念が、…とうとう形になるのか。 ―――決して望んでいたわけではないというのに」 |
(そこに小さな人影が) | |
306_黒幕 | 「―――出来るね。鬼火の朱音」 |
307_朱音 | 「!!(ばっと見上げる)」 |
308_黒幕 | 「すごい腕だ。期待通りの、ね。 ここには、武士の中でも使えるのを集めてあったはずなのに」 |
309_朱音 | 「(M)狐の面…? (T・窺うように)…聞けばまだ童の声音のようだが―――何故このような場所にいる?」 |
310_黒幕 | 「(クスクス…)お前のその腕に免じて、良い物見せてあげるよ。 ついておいで―――ついて来られればね」 |
311_朱音 | 「…」 |
312_黒幕 | 「でないと―――大切な仲間がみんな死んじゃうよ?」 |
313_朱音 | 「なんだと…(姿を消した?を追う)待て…ッ!!」 |
(山中を移動する千波流と彩登) | |
314_彩登 | 「ねぇ、千波流…っ、夜紫乃たちは何処に行っちゃったの?」 |
315_千波流 | 「分からん…とにかく、これ以上奥へ踏み込むのは危険だ。 まずは、里に向かった方のみんなと、合流するぞ」 |
316_彩登 | 「う、うん…」 |
317_千波流 | 「屋敷へは比奈伎と佐久弥、追って寿々加と各務が向かってる。 もし、夜紫乃たちが計画通り屋敷へ向かっていたとすれば、あちらは大丈夫だろう」 |
318_彩登 | 「珠菜と、亜夏刃は?」 |
319_千波流 | 「切り込みを終えて、おそらく、しばらくしたら、里に向かうだろう」 |
320_彩登 | 「睦月は、大丈夫かなぁ…」 |
321_千波流 | 「羽霧がついているからな。心配はいらないはずだ」 |
322_彩登 | 「うん…」 |
323_千波流 | 「とにかく、急いで戻ろう。一刻も早く、里に戻った方が良い。…そんな気がする」 |
【続く】 |