●鬼神楽●
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【〜神立風の章・第ニ話{1}〜】 フォルダ名【kami02-1_役名】
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キャラ :番号
「セリフ」
(SE:夕方・やや強い風/頭領の館にいる近衛と芳)
近衛 :01 「―――これは一雨来るな」
:02 「そうだね」
近衛 :03 「…芳、どうした?」
:04 「何がだい?」
近衛 :05 「いつもより、覇気が無いんじゃないのか」
:06 「そう見えるのかい? そんな事は無いよ。
…大丈夫。近衛、あんたがいれば、大丈夫さ」
近衛 :07 「(小さく微笑んで)そうか。そうだな。…ああ。大丈夫だ」
(やがて、雨が降り出す)
:08 「(M)―――そこには。
『光』があることを知っていた。けれど、本当は『光』の意味を知らなかった。
今まで、この『光』は遠いものだと思っていた。
正直に言えば、きっと憧れてもいたのだろうと思う。

けれど、心地よい闇を抜け出してこんなにも近くで『光』を感じると、
肌を通して身体の中まで 燃やされてしまいそうな熱さと
目を開けていられないほどの 眩しすぎる強い輝きに立っていられなくなる。
闇の誘惑に飲み込まれて、もう二度と、そこから抜け出す事を考えなくなる。
自分たちは闇と共にある「もの」だから、これで良い。

…そう、信じていた。否、今までそうだった。

立ちはだかる者がどんなに強大な敵だったとしても、
アタシたちの一族は、絶対に負けたりしない。アタシたちは、負けたりしない」
:09 「―――強さを求めるために、戦い続けるのが正義だと
それこそが自分たちの生き続ける意味なのだと信じ続けていた。

それが…本当は、違っていたら? それを、全部否定されてしまったら?
今までの自分たちは、何だったんだろうか。

答えを出す日がいつか、来るのだろうか。
自分たちは、こんな中でも存在し続けていられるのだろうかと―――」
:10 「『鬼神楽』 〜神立風の章・第ニ話〜
何かが動き出す―――今、はっきりとそう感じていた―――」
(のどかな風景の中、何やら険悪そうな左京と卓麻、互いに武器に手をやっている)
左京 :11 「―――ほう…俺が、お前に、引けを取ると?」
卓麻 :12 「ハ、強く出るじゃないか。左京…お前―――本気で俺に勝てると思ってンのか?」
左京 :13 「やってみなければ分からん」
卓麻 :14 「言うじゃねえか…。完全に俺の口を塞ぎたかったら、今殺しておけよ。後悔するぞ」
左京 :15 「―――(武器を構える)」
:16 「―――左京! 卓麻! ―――またやってるのか、お前たちは」
左京 :17 「別に―――」
白銀 :18 「(軽く笑って)何、またどっちが強いかって話? 良く飽きないよね」
卓麻 :19 「別に俺は本気じゃねえよ。
それに、はっきり宣言するのは哀れだからな、想像に任せる」
白銀 :20 「―――この際だから、はっきりさせるのも良いんじゃないの?」
:21 「白銀! 余計な事を言うな!」
白銀 :22 「なぁんで。面白そうじゃない。僕は、見てみたいけど?」
春日 :23 「俺も見たい。強い者同士の戦いは、良く見て盗めって、近衛の持論じゃん。
やらせようよ」
八重 :24 「八重も見たい! なんかワクワクしてきた!」
真木 :25 「一族同士の仕合は、久方ぶりですわね。これは是非立ち合わせていただかなくては」
:26 「今更退かないでしょ、お互い」
浅葱 :27 「これは―――ちょうど良い時に通りかかれましたね」
白銀 :28 「だってさ! これでやめちゃったら、僕ら全員が相手になるけど?」
左京 :29 「……全く」
卓麻 :30 「……やれやれ…思ったとおりの反応すぎるというか…暇人が多いな…」
(SE:風/しばしの対峙)
左京
卓麻
:31 ※「―――ハ!(一気に踏み込む)」
春日 :32 「行った!!」
左京
卓麻
:33 ※「(ギリギリでかわす)」
:34 「早い!」
八重 :35 「ええ!? 何で今のが決まらないの!?」
浅葱 :36 「またかわした―――!」
左京
卓麻
:37 ※「(振り向きざま、剣を突き出す)」
※「(振り向きざま、剣を振るう)」
左京
卓麻
:38 ※「ッ(避ける)」
:39 「どれも急所狙いだね」
真木 :40 「左京がやや押しているようですけど―――いえ、卓麻の方に余裕を感じますわね」
白銀 :41 「次で決まる―――!」
左京
卓麻
:42 ※「(大きく横に薙ぐ)」
近衛 :43 「―――そこまで!!」
左京
卓麻
:44 ※「ッ(びたりと止める)」
:45 「―――双方、武器を退け! 退かぬならこのアタシが相手だよ」
八重 :46 「近衛。芳…」
:47 「(苦笑して)個人的には面白そうな仕合だと思うけどね。今時期は控えろ」
左京
卓麻
:48 ※「……(剣を下ろす)」
白銀 :49 「(舌打ち)あーあ、興醒めだ」
春日 :50 「なんだよ、止めるなよ! 仕合って死んでも、どうせそこまでだろ」
近衛 :51 「そう言うな。今は少し、情勢も不安定でな。
それに―――使える者をわざわざ減らす事もあるまい。違うか?」
左京 :52 「(小さく苦笑して・誰にも聞こえないように)―――違いない」
近衛 :53 「―――まだはっきりとは言えんが、大きな動きがあるようだ。
これからは我らも、個人ではなく一族として動く時が多々あるだろう。
みな、そのつもりでいてくれ」
:54 「近衛。それは―――国同士の戦以上の戦が起こるという事ですか?」
近衛 :55 「今はまだわからん。円、戦略をいくつか考えておいてくれ。
ありとあらゆる場合においても通用するものをな」
:56 「御意」
近衛 :57 「白銀、左京、卓麻も、これからはなるべく会合の方にも顔を出してくれ。
いつ動きがあるかわからんからな。白銀! あまり個人で動くなよ」
白銀 :58 「まあ、記憶しておくだけはしておくよ」
(所変わって。円が書簡を整理しているところに、茶々が入ってくる)
茶々 :59 「円、茶々も手伝うわ。何をすれば良い?」
:60 「それは助かるな。そっちの図面を取ってくれるか」
茶々 :61 「これね…。…これは、向かいの山の地図? 里を離れて山を越えるの?」
:62 「まだわからないが…その可能性も考えている」
茶々 :63 「里を離れる事は…茶々には納得いかない…それは、絶対に絶対に必要な事なのか…
帰る場所を失うようで、足元が覚束なくなる気がしてしまう」
:64 「それは、俺も同感だ。
いくら俺たちでも、塒(ねぐら)を失う事だけは避けたいと思ってる」
茶々 :65 「では、里に残る方法も考えているのね」
:66 「ああ。里を捨てる気は無い。だが、しばらく離れる事も考えには入れている」
茶々 :67 「どのみち…今までに無い大きな戦になりそうだと、近衛は考えているのでしょ?」
:68 「そのようだな―――今回は、個人行動はなるべく抑えて、上手く配置するつもりだよ」
茶々 :69 「では、個人能力の配分を考えて…上手く組み分け出来るかしら。
念のため、茶々の覚えている限りを紙に記しておく?」
:70 「頼めるか? (ふと微笑んで)助かるな、茶々がいると」
茶々 :71 「…お上手ね」
:72 「世辞では無いぞ、本心からそう思っている…ん?」
春日 :73 「(こっそり外で)熱い…」
八重 :74 「(同じく聞き耳)熱いね…」
:75 「(遠くから)こらー!! 春日! 八重! 仕事サボるなー!!」
春日 :76 「やばい!」
八重 :77 「見つかった!」
(春日と八重、走って逃げる! 追いかける碧)
:78 「(苦笑)―――やれやれ、懲りないな、あいつらも。…ん?(ふと外を見る)」
茶々 :79 「…円、どうかしたの?」
:80 「風が変わった。戸を下ろした方が良さそうだ」
(所変わって頭領の館にて。)
:81 「―――近衛、どうした?」
近衛 :82 「ん、何がだ?」
:83 「(微笑んで)何でもないなら良い。
アンタは、本当に自分がキツイ時には何も言ってくれないからな…
たまには、こうして探りを入れておかないと、アタシの気が済まないだけさ」
近衛 :84 「(少し笑って)それは、お前もだろう?
今はまだ―――何とも言えん。ただ、予感がするだけだ」
:85 「予感、か」
近衛 :86 「そうだ。ひどく、暗い予感がな―――」
:87 「お姉ちゃん…」
:88 「静! どうした、お前がここまで一人で来るなんて珍しいじゃないか」
:89 「なんだか…胸がざわざわするの」
:90 「―――怖いか」
:91 「…うん…。すごく、怖い」
:92 「そうか」
:93 「みんなは偉いよね…アタシ、本当にそう思うの。
みんな、きっと少しくらいは怖いのに、それを我慢出来るんだもん。すごいよね」
:94 「そうだな。でも、怖いって思ってる自分自身を認められる静も、充分偉いよ」
:95 「そうかなあ…!」
:96 「そうだとも。なあ、近衛」
近衛 :97 「ああ、そうだな。…静。今夜は芳ももう休む。一緒に降りれば良い」
:98 「じゃあ、行こうか」
:99 「うん! 近衛、おやすみなさい」
(二人の後姿を、静かに見送る近衛)
近衛 :100 「『怖いと認められる自分』…か」
(雷鳴と共に雨が降り出す:静かに降り続く雨)
:101 「ねえ、お姉ちゃん…」
:102 「ん? どうした、静」
:103 「大きな戦が、またあるの?」
:104 「…ああ。(少し笑って)―――お前は本当に…東風の者にしては気が弱いな」
:105 「ごめんなさい…」
:106 「謝る事はないさ。それはそれで別に良い。
その分、アタシたちが強ければ良いだけの話だよ」
:107 「どうしても…戦わなきゃ駄目なの? アタシは…芳お姉ちゃんたちにも…
戦って欲しくない。みんなが怪我したりするの…怖いよ」
:108 「静は優しい子だな。大丈夫。近いうちに―――総て終わるさ」
:109 「ほんと!?」
:110 「ああ。本当だ」
:111 「良かったあ…。………あのね、お姉ちゃん」
:112 「うん?」
:113 「…ちょっと前にね、みんなでお魚釣りに行った夢を見たんだけどね、
それがすごくすっごく、嬉しかったの。
アタシね、本当はいつも、あんな風になれたら良いのになって、思ってるんだ…
だからきっと、あんな楽しい夢を見たんだと思うの!」
:114 「(優しく笑って)そうか。大丈夫、すぐに現実になるさ。
何もかも、もうすぐ終わるんだから」
(SE:雷、そして雨がF・O/次の日・巴が駆け寄って来る)
:115 「―――卓麻! 聞きたいことがあるの」
卓麻 :116 「…手短にしてくれ」
:117 「その―――彼、の事なんだけど…変だと思ったのよ、急に仕合ったりして―――
いったい、何を隠したの?」
卓麻 :118 「何の事だよ」
:119 「左京の事よ! 彼―――血の臭いがする」
卓麻 :120 「何を今更。俺たちから血の臭いがするのは当たり前だろ」
:121 「誤魔化さないで! そうじゃないのよ。
そういうんじゃなくて―――それに、戦の最中に隙を見せた事だって―――」
卓麻 :122 「そんなに気になるなら、直接左京に聞けば良いだろ」
:123 「! 聞けないから…あなたに聞いてるんじゃないの」
卓麻 :124 「本人が言わない事を、どうして俺が言わなきゃいけない?
だいたい―――そんなつまらないことを詮索している暇が、お前にあるのか」
左京 :125 「(E)…俺にとって重要なのは お前の顔ではなく、お前の技量と強さだ。
それ以外に必要な物があるのか?
つまらん事で騒ぐ暇があるなら、少しでも腕を磨け」
:126 「―――あなたも、あの人と同じ事を言うのね(腕を振り上げて)」
卓麻 :127 「!(平手打ちされた)」
:128 「つまらない事を聞いたりして、悪かったわ(走り去る)」
(巴の後姿を見送る。傍にいる気配に気づいていて、声をかける。そこにいたのは)
卓麻 :129 「……。―――おい。出て来ないなら殺すぞ」
浅葱 :130 「すみません…隠れるつもりは無かったんですが。…損な性格ですよね」
卓麻 :131 「うるさい。聞き耳なんか立てやがって…悪趣味だぞ浅葱」
浅葱 :132 「人聞きが悪いですよ。たまたま―――聞こえてしまっただけです」
卓麻 :133 「今度は―――余計な真似するな」
浅葱 :134 「はい。肝に銘じます」
(卓麻がいなくなってから、こそこそと次々現れる気配たちの正体は)
春日 :135 「……あのさ、浅葱。つかぬ事を聞くけど…今のって、どうして卓麻が損な性格なの?」
八重 :136 「巴に殴られたから?」
:137 「でもそれだけの事言ったでしょ、卓麻も。『つまらない』とか言ってたし」
浅葱 :138 「まあ…そうなんですけどね」
真木 :139 「損な性格って―――卓麻ではなく、浅葱…あなたの事なのでしょ」
浅葱 :140 「どうしてそう思います?」
真木 :141 「あら―――あの時あなたがわざと気配を出さなければ、
巴は殺されてましたわよ。卓麻に。それとなく、止めに入ったのでしょ」
浅葱 :142 「…お見通しですか」
真木 :143 「おっほほほほ! 当然ですわ!」
:144 「(険悪に)真木は…浅葱の事なら何でもわかっちゃうわけ?」
八重 :145 「み、碧ぃー…」
春日 :146 「よしなよ、碧、そういう風に言うの」
:147 「アタシは…っ! ……もう良い。何でもない! 行こ!」
春日 :148 「え、ちょ、ちょっと待ってよっ」
八重 :149 「待ってよ碧ー!」
(走って行く三人。その姿が見えなくなってから)
浅葱 :150 「(ちょっと笑って)本当に…あなたは全部、わかっちゃうんだなあ」
真木 :151 「―――浅葱」
浅葱 :152 「はい、何ですか?」
真木 :153 「今度また同じ事があっても―――あんな真似はしないと誓って」
浅葱 :154 「真木…。巴の事は止めないのに、ですか?」
真木 :155 「そうよ。例え殺される事になっても、巴の場合は自業自得だからよ。
自分の事しか見えていない、目先だけしか見えていないような状態の人間から
あんな侮辱を受ければ、死を持って贖わせるのは当然の事ですわ。
今の情勢を考えれば、一族の一人を喪う事は痛いけれど、それでも仕方のない事。
…けれど、卓麻が、あなたを殺すよりもずっと良い」
浅葱 :156 「(苦笑)私が、卓麻に負ける事が、前提なんですね」
真木 :157 「そうですわよ。でもそれが現実だわ。あなたでは卓麻には勝てない。
…そして、わたくしでは卓麻を止められない。
だから、もう二度と、あんな真似はしないで下さる?」
浅葱 :158 「―――わかりました。誓いますよ。
もう二度と―――牙をむいた獣の前に飛び出すようなことはしません」
真木 :159 「本当ね?」
浅葱 :160 「はい」
真木 :161 「(溜息)本当に―――肝が冷えるとはこの事ですわ。
あんな―――殺気立った卓麻の前に出て行くなんて、文字通り自殺行為ですわよ」
浅葱 :162 「あなたがいたので、大丈夫かな、と思ったんですが」
真木 :163 「おっほほ。それは甘いですわよ、浅葱。彼は、わたくしの事なんて
歯牙にもかけていないわよ。それも、わかりきった現実なの」
浅葱 :164 「真木…」
真木 :165 「(凛然と微笑んで)良いのよ。わたくしはそれで良いの。
わたくし自身がそれで良いのだから、
浅葱がそんな顔をするものではありませんわ! おっほほほ!」
浅葱 :166 「真木は、強いですね」
真木 :167 「そうでもありませんわよ! さあ浅葱、早くお行きなさいな」
浅葱 :168 「何の事ですか?」
真木 :169 「おっほほほ! しらばっくれるんじゃありませんことよ!
わたくしよりは確実に弱い、あの生意気な子が、今頃泣いているかもしれませんわよ」
浅葱 :170 「(踵を返しかけて、ふと立ち止まり振り返る)真木。
さっきの言葉取り消しますよ―――あなたは、とても優しい人だ。とても」
(去っていく浅葱を、静かに見送る真木)
真木 :171 「(自嘲気味に笑って)例え優しくとも、決して賢くはありませんわね。
―――わたくしもきっと、巴と同じ―――」
(真木の囁きは、風に消える)
 
【第ニ話{1}終わり・{2}に続く】