●鬼神楽●
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【〜鬼灯の章・第四話{1}〜】 フォルダ名【ho-zuki04-1_役名】
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キャラ :番号
「セリフ」
(里を見下ろせる位置に比奈伎が座っていると、近づいてくる気配が)
比奈伎 :01 「…佐久弥か」
佐久弥 :02 「またむくれてる」
比奈伎 :03 「…大きなお世話だ」
佐久弥 :04 「お頭と何かあった?」
比奈伎 :05 「どうしてそう思う」
佐久弥 :06 「別に? なんとなくそう思っただけ」
比奈伎 :07 「…お前は嫌なヤツだな」
佐久弥 :08 「(くすりと笑って)良く言われるよ」
比奈伎 :09 「……それだけじゃない」
佐久弥 :10 「え?」
比奈伎 :11 「お頭とだけじゃない。さっき…寿々加ともやり合ったんだ」
佐久弥 :12 「そう…」
(静かな風が行過ぎたり、鳥の鳴き声が聞こえる穏やかな午後)
比奈伎 :13 「―――喪いたくないと思うことは…いけないと分かっている。
それは…最終的には掟に背くことだとも」
佐久弥 :14 「でも…その優しさは、今この時代に絶対に必要な事なんだと…私は思うよ」
比奈伎 :15 「……寿々加には、優しすぎると…注意したばかりなんだがな」
佐久弥 :16 「二人は似ているから…余計に気になってしまうんだよ」
比奈伎 :17 「……」
佐久弥 :18 「…あれ、不満そうだ」
比奈伎 :19 「うるさい。……でも、真実だ。俺はあいつの気持ちがわかる…
だから、何をしたいのかもすぐに分かってしまう」
佐久弥 :20 「それはきっと…逆の事も言えるんじゃないかな」
比奈伎 :21 「え?」
佐久弥 :22 「比奈伎は比奈伎なりの思いで、あの二人を心配して育てようとしているんだって事、
寿々加は本当は分かってるよ。
ただ、それを素直に言えないから…ぶつかってしまうだけだ」
比奈伎 :23 「………」
佐久弥 :24 「なに?」
比奈伎 :25 「お前、実は俺や寿々加より年上なんじゃないのか?」
佐久弥 :26 「(楽しそうに笑って)そうかもね? (冗談も言える性格です)」
各務 :27-01 「(M)ふと気づいた時から、一族はあった。ふと気づいた時から、一族の中にあった。
これほどまでにごく自然に存在するべき物を―――疑ったことがあったろうか。

『疑う』。そう考えるだけでひどく頭が痛む。
そんな時にはある人を見つめた。
いつも、自分のすぐ前を歩く人。すぐ隣で、戦う人。すぐそばで、生きる人。
目の前に、確かにある背中。
静かに振り向けば、少しばかり目線の高い、優しい眼差しを見せる。
包み込むように温かく、時には突き刺すように鋭く、その気配を変える人。
唯一、我が上に立つ者として認めた人」
各務 :27-02 「このところ、ずっとずっと同じ夢ばかりを見ている。
それは、我の記憶。我の、頭の中に仕舞われている、古い古い記憶。

一番古い記憶は…我の目の前に立つ、すらりと背の高い一人の少女。
丈の短い着物に身を包み、まるで男(おのこ)のような仕草で、
馬を乗りこなし、剣(つるぎ)を振るい、血の雨を降らせる人。

だから、最初は、おのこなのだと思いこんでいた。
目の前に立つ、すらりと背の高い影―――我は、その手を取って…並んで驚いた。
見上げるほどに高い上背の上にあったのは、紛れもなく…
美しい少女の物であったからだ」
各務 :27-03 「涼やかな目元に、微かな笑いを浮かべて少女は言う。
剣(つるぎ)を振るうとはとても思えない、細く柔らかい掌で、我の手を包み込みながら。

『おかえり』―――おかえり、と。

…ああ、そうか。そうだ。思い出した。ここは、我の居るべき場所。
我は、還ってきたのだから―――」
各務 :28 「(タイトルコール)『鬼神楽』 〜鬼灯の章・第四話〜」
伊織 :29 「―――え? その夢、アタシも見たことあるよ」
各務 :30 「…え?」
伊織 :31 「『おかえり』、って朱音さまが迎えてくれるってヤツ。
アタシの場合は、里の中じゃなくて、どっか別の…良くは思い出せないけどさ」
各務 :32 「そうか…。偶然なのか、それとも…」
伊織 :33 「(楽しそうに)そういえば、羽霧と珠菜も、似たような事言ってたよ。
(笑いを堪えられず噴出しながら)
その時、どっちが朱音さまに先に手を取ってもらうかで、大喧嘩した夢だって!」
各務 :34 「(笑う)それはそれは…夢の中までも争うことは無いだろうに」
伊織 :35 「その辺が、いかにもあの二人だよね」
各務 :36 「そうかもしれぬな」
伊織 :37 「…そういえば…」
各務 :38 「どうした?」
伊織 :39 「あ、ううん! 何でもないよ。
(M)夢と言えば…あの、男の人の声が聞こえる夢―――最近、見ないなあ…」
各務 :40 「伊織? 何ぞ、気になる事でもあるのかえ?」
伊織 :41 「あ、ごめん! えっと、じゃあこの図面は睦月に預けてくるね」
各務 :42 「役に立てば良いがな」
伊織 :43 「各務、ありがと!」
各務 :44 「お安い御用だよ(伊織を見送り)……夢、か―――」
(ここから追加シーン)
朱音 :44-01 「(E)…彩登。彩登、最後まで良くやったな、偉いぞ」
彩登 :44-02 「朱音さま、彩登、上手くやれた?」
朱音 :44-03 「(笑って)ああ。これが初仕事なのにな、満点をやっても良いと思うぞ。
彩登はすごいな。よし、ご褒美をやろう―――(F.O)」
彩登 :44-04 「―――って言って、朱音さまがくれたんだ!」
瀬比呂 :44-05 「へええ…そうだったんだ、知らなかった。
それに彩登、僕より先にお仕事をこなしてたんだね、すごいなあ…!」
彩登 :44-06 「えへへ、すごいでしょお!」
瀬比呂 :44-07 「彩登だけ褒められてずるいよぉ、僕もこれ欲しい!
僕も、朱音さまからご褒美もらいたいよー!」
彩登 :44-08 「ええっ!? 駄目ぇ、これは彩登の宝物なんだから!」
伊織 :44-09 「まあまあ…! 瀬比呂ももうだいぶ仕事もこなせるようになったんだし、
朱音さまもちゃんと分かってくれてるよ」
瀬比呂 :44-10 「ええ〜? そうかなあ? ほんとに、そう思う?」
睦月 :44-11 「(くすくす)思います思います」
夜紫乃 :44-12 「…それにしても…この組紐を、朱音さまが自分で…?
うーん…何だかちょっと意外だなあ」
千波流 :44-13 「? 何故そう思うんだ? 夜紫乃」
夜紫乃 :44-14 「だって、さー。あの朱音さまが 蝋燭の火の元で、こんなちまちましたものを
一生懸命編みこんでる姿なんて、…ああだめだ、想像出来ないよ!」
千波流 :44-15 「(思わず笑って)それはそうかもな」
伊織 :44-16 「(笑いながら)うんうん、それは言えるよねえ!」
千波流 :44-17 「ああ見えて、というか…意外?と何でも大雑把だからなあ、お頭は…」
睦月 :44-18 「(楽しそうに)ですね。性格的にも、あまり
細かい物を作ったりとか、そういう事に向かないんですよね」
亜夏刃 :44-19 「(少し苦笑気味)ああ。だから、自らの武器の調整さえも、自分たちに任せきりだしな」
珠菜 :44-20 「そりゃあ修理となると、わたくしたちもさすがにお二人にお願いしますけれど…」
羽霧 :44-21 「俺らは、自分の武器の手入れくらいなら、自分たちでするよなあ」
瀬比呂 :44-22 「それくらいなら、僕も出来るよ?」
彩登 :44-23 「彩登もーっ! こないだ、修練に使った小刀全部、磨いたの彩登だもん」
睦月 :44-24 「ああ! そうでしたよね、あれはすっごく助かりました」
瀬比呂 :44-25 「僕が、手伝うよって言ったんだけど、結局全部一人でやったんだよね!」
彩登 :44-26 「うん。『武器を自分で扱えば、それだけ上達も早くなる』って、比奈伎も言ってたから」
千波流 :44-27 「そうか、それを実践してるとは、偉いじゃないか彩登」
彩登 :44-28 「えへへ〜」
瀬比呂 :44-29 「僕も、この前千波流からもらった弓、手入れ欠かさずにしてるよ!」
羽霧 :44-30 「へえ、瀬比呂はもう弓の手入れなんて出来るのか」
珠菜 :44-31 「あら羽霧、瀬比呂の弓の遠打ちの腕前は、なかなかのものですのよ?
これは将来有望ですわよね」
瀬比呂 :44-32 「えへへ、ありがとう珠菜!」
羽霧 :44-33 「なるほど? 自分の間合いが狭いお前には、羨ましい存在なわけだ」
珠菜 :44-34 「ああら。羽霧より背丈がある分、わたくしの方が間合いは広いのですわよ?
はぁ…そんな簡単な事さえお認めになれないなんて、可哀想ですわ、羽霧」
羽霧 :44-35 「いいや、指弾の弱いお前よりは、俺の方が広いはずだ」
珠菜 :44-36 「では、腕と武器を含めての寸法を、一度測ってみるのがよろしいですわよ。
そうすれば自ずと現実という物が見えてきますわ」
羽霧 :44-37 「そうだなあ。じゃあお前は自分の腕の胆力を自覚する事をおススメするぜ。
お前こそ現実が見れるだろうよ(以下延々)」
亜夏刃 :44-38 「(聞いてない)しかし、自らの武器の手入れくらいは日常茶飯事だ、
自分たちにとっては、だが。…という事は、お頭以外は、という事でもあるか」
夜紫乃 :44-39 「…………亜夏刃って…結構ツワモノだよね。
どうしてあの弾丸の中に、するりと入り込めるんだろう…」
伊織 :44-40 「……だよ、ね。アタシですら怖いのに」
千波流 :44-41 「(頷いて)…俺には永遠に真似出来そうもない…。…というよりも…亜夏刃の場合、
不可抗力で入り込んでしまってる、という感じでもあるがなあ…」
睦月 :44-42 「…かも、しれませんね…」
亜夏刃 :44-43 「(それも聞いてません)………そうだ。そういえば(ぽむ」
羽霧 :44-44 「うん?」
亜夏刃 :44-45 「…これは寿々加から聞いた話だから、本当かどうかは分からないが…」
珠菜 :44-46 「何ですの、亜夏刃?」
亜夏刃 :44-47 「何でも…お頭が以前、小刀を自分で手入れしようとして」
彩登 :44-48 「手入れをしようとして?」
亜夏刃 :44-49 「……手を切ったとか」
珠菜
羽霧
夜紫乃
伊織
:44-50
_役名
※「(思い切り噴出す)」
瀬比呂 :44-51 「ええっ!? あ、朱音さまが!? それホント!?」
千波流 :44-52 「(ちょっと遠い目)ああ…その話、俺も聞いたぞ」
各務 :44-53 「…ふふ、ずいぶん盛り上がっているようだね」
千波流 :44-54 「お、各務!」
瀬比呂 :44-55 「ねえ、ねえねえ各務っ、朱音さまが…」
彩登 :44-56 「小刀手入れしてて、手を切っちゃったって…」
瀬比呂
彩登
:44-57
_役名
※「ホント!?」
各務 :44-58 「(笑いながら)ずいぶん懐かしい話だが…
ああ…そう言えば確かに、そんな事もあったねぇ」
彩登 :44-59 「(びっくり)各務、それって、ホントにホントの事なの!?」
各務 :44-60 「(頷く)そうとも。我はこの目で、それを見たのだからね」
彩登 :44-61 「…朱音さまって…不器用だったんだね…。彩登、全然知らなかった…」
瀬比呂 :44-62 「…うん…。…僕も、全然気がつかなかったよ…」
伊織 :44-63 「(半笑いのまま)まさか…朱音さまったら、あんな事言って…
実はその組紐、比奈伎に作らせた、とか?」
千波流 :44-64 「比奈伎に!? 比奈伎が、組紐を、ちまちま…ちまちま…」
羽霧 :44-65 「はははっ、けど、その方が何となく想像出来るような気がするぜ?」
亜夏刃 :44-66 「うん? それはどうだろうな。比奈伎も、あまり器用な方ではないと思ったが」
睦月 :44-67 「え、そうなんですか?」
朱音 :44-68 「―――みんな、ずいぶん楽しそうだな」
千波流
伊織
夜紫乃
睦月
瀬比呂
彩登
:44-69
_役名
※「おおおお頭っ!?」
※「あああ朱音さま!?」
朱音 :44-70 「(悪戯っぽく)何だ? 何をそんなに焦ってるんだ、みんな」
千波流
伊織
夜紫乃
睦月
瀬比呂
彩登
:44-71
_役名
※「べべべ別に…!」
朱音 :44-72 「(くすくす)そうか? ―――ところで、瀬比呂、彩登」
瀬比呂
彩登
:44-73
_役名
※「は、はい!」
朱音 :44-74 「(急に真面目くさって)人間、誰しも得て不得手があるものだぞ。
それに、何でも一人で出来てしまっては、面白くないだろう?」
瀬比呂 :44-75 「…そうなの?」
朱音 :44-76 「そうとも。それに、誰かの出来ない事を補うために、一族があるのだからな」
彩登 :44-77 「ああ、そっか」
各務 :44-78 「(くすくす)確かに正論だが、物は言いよう、だねえ、お頭」
朱音 :44-79 「(楽しそうに)そうか?
これでも、もっともっとみなに頼りたくてたまらないのだがな」
珠菜 :44-80 「まあ、これ以上頼られては、わたくしたちの
微弱な体力が保ちませんわよ(笑う)」
朱音 :44-81 「(楽しそうに笑う)」
瀬比呂 :44-82 「ねえ彩登、今度その飾り紐 僕にも貸してよ」
彩登 :44-83 「駄目だよお、これは彩登の大事なお守りなんだもーん!」
瀬比呂 :44-84 「ちぇーっ!」
朱音 :44-85 「(笑って)そう不貞腐れるな、瀬比呂。
お前の働きも、私はちゃんと心得ているさ」
瀬比呂 :44-86 「本当?」
朱音 :44-87 「ああ。…ただ」
瀬比呂 :44-88 「ただ…な、なあに?」
朱音 :44-89 「(真面目な顔で)その組紐はな、一つ作るのに丸二日かかるという、
実に恐ろしい代物なんだ」
千波流
各務
珠菜
羽霧
夜紫乃
伊織
睦月
瀬比呂
彩登
:44-90
_役名
「(噴出す)」
亜夏刃 :44-91 「………それは難物だな」
(回想シーンにて、エコーから/後ろで、戦の効果音がF.IN)
彩登 :44-92 「(M)…どうしよう…どうしよう…あ、彩登…」
(エコー/後ろで、戦の効果音)
彩登 :44-93 「(M)彩登…っ、……怖いよう…っ!!!」
瀬比呂 :44-94 「―――彩登!!」
彩登 :44-95 「!!」
瀬比呂 :44-96 「―――彩登! 彩登!! 大丈夫!?」
彩登 :44-97 「せ、瀬比呂…!」
瀬比呂 :44-98 「彩登は僕の後ろにいれば良いよ! 絶対離れちゃ駄目だからね!」
彩登 :44-99 「……。…うんっ!」
(エコー/後ろで、戦の効果音F.O)
彩登 :44-100 「―――うん! よぉおし、決めた!」
(ここまで追加シーン)
(別の場所にて:彩登が息を切らせ、走ってくる)
彩登 :45 「瀬比呂〜」
瀬比呂 :46 「彩登、どうしたの? 今日は遅かったじゃない。
僕、一人で千波流と修練してたんだよ?」
彩登 :47 「ごめん。ずっと、考えてて」
瀬比呂 :48 「考え事?」
彩登 :49 「うん。あげちゃうか、どうするか…」
瀬比呂 :50 「???」
彩登 :51 「あのね、そのね…。…瀬比呂…これ、あげる!!」
瀬比呂 :52 「え? …この飾り紐、朱音さまからもらったものじゃないの? 彩登のお守りだよね」
彩登 :53 「うん。でも、あげるって決めたの!」
瀬比呂 :54 「あ…ありがとう…! けど、ホントにもらって良いの? これ…
すっごく大事な物だったんじゃないの?」
彩登 :55 「うん、すごく大事! 彩登の一番の宝物だもん。
でも、この前の初めての戦で、瀬比呂が彩登をいっぱい助けてくれたでしょ?
だから…そのお礼なの! どうしたら瀬比呂が喜んでくれるかなーって
ずっとずうっと考えて、これにしたの!」
瀬比呂 :56 「!(嬉しい!!) ありがとー! 絶対絶対大事にするよ!!」
千波流 :57 「彩登のその気持ちはたいしたモンだな!
瀬比呂も、ずいぶんたくましくなったもんだ!」
瀬比呂 :58 「もう一人前だよ!」
千波流 :59 「(楽しそうに笑って)そうだな! 頼りにしてるぞ!」
瀬比呂 :60 「うん!」
彩登 :61 「彩登だって、負けないんだから!」
(SE:鳥の声)
千波流 :62 「なんだと?」
彩登 :63 「千波流、どうしたの?」
千波流 :64 「また戦だ。昨日あったばかりなのに…」
瀬比呂 :65 「朱音さまも、まだ帰ってきてないよ?」
千波流 :66 「とにかく、みんな集合だな」
(頭領の屋敷にて、書状を受け取り、目を通す各務)
佐久弥 :67 「―――各務」
各務 :68 「…佐久弥、お前の予想が当たったようだえ。
嫌な知らせだ(今届いたばかりの書状を佐久弥に手渡す)」
佐久弥 :69 「(書状を読み終えて)…マズイね。
こっちの思惑が 完全に露見したわけじゃ無さそうだけど…
向こうは、完全にコチラを『敵』と判断してしまったみたいだ」
各務 :70 「この書状に書かれた『お頭の武器』…この作りからいって、
これは間違いなく、睦月が設計して作成したものだえ」
佐久弥 :71 「…予定通り、お頭は行方知れずという事にする?」
各務 :72 「主に拝謁に行った帰りにか? 無理があろう。…いきなり幸先が悪い…。どうする」
佐久弥 :73 「迷っている暇はそれほど無いよ。無理矢理にでも事を進めないと…
私たちに待っているものは、全滅でしかなくなってしまう」
各務 :74 「そうだな」
(SE:寿々加、刀を抜く)
寿々加 :75 「(押し殺したように)―――何の話だそれは」
各務 :76 「!」
佐久弥 :77 「寿々加…」
各務 :78 「(苦笑)お前は本当に…厭味なくらいに気配を消すな…」
寿々加 :79 「(厳しい声音で)話を逸らすな。お頭が行方知れずとか、全滅とか、
どういう事なんだ。…それから、こないだのもだ」
佐久弥 :80 「この前?」
寿々加 :81 「比奈伎の事は任せるだの、千波流の激昂だの…。
―――お前たち、何を企んでる?」
各務 :82 「企むとは…人聞きの悪い」
寿々加 :83 「良いから答えろ。答えによっては―――」
各務 :84 「よっては…どうする」
寿々加 :85 「……例えお前たちでも、―――討つ」
各務 :86 「……」
佐久弥 :87 「…各務」
各務 :88 「(ふう…)寿々加、おまえを敵には回したくないもの。仕方なかろうな」
佐久弥 :89 「そうだね…遅かれ早かれ、協力者は欲しかった所だ。
…寿々加。まずは、刀を引いてくれないかな。危なくて話も出来ないよ」
寿々加 :90 「油断出来ない」
佐久弥 :91 「これだけは信じて。私たちは決して仲間を裏切ることはしない。
仲間のためにならないことはしない。
今は…少し、比奈伎たちを傷つけてしまうことになるかもしれないけれど、
でもそれはお頭を、そして一族を救うためだ」
寿々加 :92 「…お頭を…俺たちを救うだと?」
佐久弥 :93 「そうだ。お頭は…そして私たち一族は今、非常に危険な状態にいる。
私たちはどうしても…助け出したいんだ」
寿々加 :94 「(やや疲れたように)………あのなあ」
佐久弥 :95 「? なに?」
寿々加 :96 「そういう事は、こそこそやらずにもっとはっきり言えっての!!!」
(朱音と各務と佐久弥が、何を考えていたか、寿々加に告白します)
寿々加 :97 「(思わず)―――直訴ォッ!?」
各務 :98 「シッ! …声が大きい」
寿々加 :99 「(慌てて口をふさぐ)!!! ……じ、直訴って…お頭が!?」
佐久弥 :100 「そうだ」
寿々加 :101 「けど…そんな事したら―――(書状を手渡され)なんだ、これ」
佐久弥 :102 「今朝、この里に届いた。『主』からの書状だよ」
寿々加 :103 「お頭しか読んじゃいけねえってやつだろ?」
佐久弥 :104 「通常ではね。けれどこれは…『一族宛』になっている」
寿々加 :105 「えーと…『―――オニビ ノ アタマ ウラギリ…。
シヨウ ブキ ノ ケイジョウ イカ ノ ゴトク…
―――イチゾク センメツセシ―――』………なんだ、これは―――」
各務 :106 「そのままだよ。お頭は主に対し、猜疑の念を抱いていた。だから、裏切ったのだよ」
寿々加 :107 「猜疑って…」
比奈伎 :108 「―――お頭が、主に対して…掟を抜けたんだな?」
寿々加 :109 「比奈伎!」
各務 :110 「いつから聞いていたのだえ?」
比奈伎 :111 「寿々加の大声からだ。…それで佐久弥、お前の考えは?」
佐久弥 :112 「―――掟を抜ける」
比奈伎 :113 「…わかった。それは、俺が引き受ける」
寿々加 :114 「おい」
比奈伎 :115 「憎まれ役は慣れているからな」
佐久弥 :116 「…比奈伎。お頭から伝言がある。『一族を、よろしく頼む』と」
比奈伎 :117 「(苦笑)…嫌な伝言だ」
寿々加 :118 「(比奈伎が去るのを見送る)オイ…」
佐久弥 :119 「(頷いて)大丈夫だよ」
各務 :120 「あれをただの憎まれ役にせぬように…我らが援護する」
寿々加 :121 「…期待してるぞ、ほんとに…」
(各務、佐久弥、寿々加。会合の間へ移動中の頭領の館の廊下にて)
寿々加 :122 「だいたい、掟、掟って言うけどよ…
俺が知ってるのは、そんな厳しいもんじゃないぞ? 数だって…」
佐久弥 :123 「うん。…例えば、主のいる屋敷に、武器を警乗した状態で入る事も掟破り。
主を疑う事、これも、掟破りだね。その上での直訴も、もちろん―――
これは、死罪に値する。それは知ってるだろう?
…本当は、ほかにもいろいろあるんだよ。『無断で里を離れるべからず』
『戦での馬は使用するべからず』『年齢が達すれば戦いに出るべし』
『主の屋敷に入るは、頭領のみ』それから―――」
珠菜 :124 「あらあら…一概に『掟』とは言っても…ほかにも、いろいろございましたのねえ」
寿々加 :125 「…珠菜!!」
羽霧 :126 「こりゃもっと、俺たちには聞かされてないモンもあるって事なんだろうな」
寿々加 :127 「羽霧まで…いつの間に」
珠菜 :128 「気配を消す事は、それこそ朝飯前でしてよ」
羽霧 :129 「でなきゃ、斥候役なんてつとまらねえよ」
各務 :130 「…珠菜。羽霧。これは、危険な事だよ―――知らぬフリが出来るかえ?」
佐久弥 :131 「出来れば、聞こえなかったフリでも良いんだけれど」
珠菜 :132 「あらあら、今更聞こえなかったフリなど、そんな器用なことは出来ませんわよ。
わたくしはともかく、羽霧は特に。ね」
羽霧 :133 「聞いちまったもんは仕方ねえだろ」
佐久弥 :134 「(息をつく)」
羽霧 :135 「どうせ、いずれは全員に、大体の事は喋るつもりなんだろ」
佐久弥 :136 「うん。…でも、私は、まだ早いと考えてるよ。もう少し、様子を見てからと」
羽霧 :137 「何、悠長な事言ってんだ。さっき、すげえ顔した比奈伎とすれ違ったんだぞ。
アイツは、もう全部言う気なんだろう?
何を言うかは知らねえが、その結果一人になってもやる気だぞ。
それに、佐久弥や各務が言わなくても、
遅かれ早かれ、どうせ巻き込まれるに決まってるぜ」
珠菜 :138 「ですわよねえ。それでしたら、こちら側でいますわ。
(指折り数える)佐久弥、各務、寿々加、比奈伎、羽霧、そしてわたくし…
ちょうど半分ずつ。これなら、例えどなたかが暴れだしても、抑えられますわよ」
寿々加 :139 「(少し笑って)協力者が増えたな」
佐久弥 :140 「(溜息)…仕方ないか…。確かに、のんびりとはしていられないし、
それに―――私たちだけじゃ、千波流を抑えられないかもしれないしね」
各務 :141 「(息をついて)確かに…」
佐久弥 :142 「…では、二人にも手伝ってもらう事にするよ。…けれど、時間が無いから
今は詳しくは話せない。でももしかしたら…、真実を聞いたら、
協力したくなくなるかもしれないよ? …それでも?」
羽霧 :143 「見縊るなよ」
珠菜 :144 「ですわね。それに、時間が無いのでしょう?
何よりも、お頭の命がかかっている。もたもたと悩んでいる暇はありませんわよ」
佐久弥 :145 「(少し考えて)…わかった。
じゃあ、私たちが今まで何をしていたのか、教えるよ―――」
(廊下を抜け、別の部屋にて落ち着いて話を続ける佐久弥)
佐久弥 :146 「―――実際に、私たちに聞かされている掟は数少ない。
みんながはっきりと知っているのは、『直訴をするべからず』『戦から逃れるべからず』
『頭領の命に従うべし』『掟に背くべからず』…重要なものはこれくらいだね。
これを破れば…つまり『抜ければ』、間違いなく、罰を与えられる。
けれど実際には、もっと数多くの掟が存在しているんだ。
…一族を、精神的に縛ってはいけないと、お頭が巧妙に隠してくれていたんだよ」
各務 :147 「だが、そのお頭は…その中で最も罪深いとされる事をしたのだよ」
羽霧 :148 「それが、直訴、か」
寿々加 :149 「…で、お頭は…比奈伎にわざと、抜けさせようとしてたっていうのか?」
各務 :150 「このまま主の下にいること自体が危険だと、お頭は判断したんだろうねえ」
珠菜 :151 「何がなんだか…どうして急にこんなことに」
佐久弥 :152 「急ではないよ。ずっと…それこそ、何年も前から調べてきたことだ」
寿々加 :153 「俺らが知らなかっただけか…」
佐久弥 :154 「そりゃあ。気づかれないように努力したもの」
寿々加 :155 「何もこそこそやらせなくても、
お頭の指示としてやりゃ、誰も反対したりしないはずだろ」
各務 :156 「お前…いきなり掟から抜けると言われて、あっさり承知出来るのかえ?」
寿々加 :157 「う」
各務 :158 「抜けるという事は、総てから命を狙われる事になる、ということだえ。
主の率いる者はもちろん、最悪…一族の者からも、な。
万一の場合意見が割れれば、一族の中で殺し合いになる可能性もあるのだよ。
幼き者らにそれが耐えられるかえ?」
珠菜 :159 「…一族全員で抜ければ」
佐久弥 :160 「…そうだね。それを考えている。そのための一番の理由は、『お頭の救出』なんだ。
それなら、きっとみんな納得してくれるだろうと思ってる。
だから、最初は、それを仕立て上げるつもりだったんだけれど…
それが本当になってしまって」
羽霧 :161 「どういうことだよ?」
佐久弥 :162 「つまり、お頭は本当に捕らえられてしまって、行方知れずの状態なんだ。
私たちとすら、連絡の取れない状況なんだよ。
…主は、本当に危険なんだ。これは、あとでみんなに一緒に説明するけれど。
だからこそお頭は、自分は裏切り者だと思われても、
自分を理由に、比奈伎に一族を率いて抜けてもらおうと思っていたんだ。
私と各務は、ずっとその準備を任されていた。
―――主が、お頭を『怪しんだ時』が、その時だと」
寿々加 :163 「怪しんだ時?」
各務 :164 「お頭は、心のどこかで、主を信じていたかったのだよ。
一度は、我があるじと決めた方だものな。
だから、こちらから行動はせずに、じっと…待っていた。主が、動くのを―――」
珠菜 :165 「…佐久弥…各務。本当に、ご苦労様ですわ。影で、つらい思いをなさっていたのね」
羽霧 :166 「水臭えなあ」
各務 :167 「(苦笑)すまぬな」
寿々加 :168 「まあ、もうしょうがねえけど―――」
(SE:遠くで、食器の割れる音)
寿々加 :169 「うわっ…比奈伎のヤツ、始めやがったな!!」
珠菜 :170 「急ぎましょう」
羽霧 :171 「おう!」
 
【第四話{1}終わり・{2}に続く】