鬼神楽・流の章05

 出演キャスト様
キャラ名 キャスト様 台詞数
 水輪一族
漁火 6
1
34
みぎわ 14
28
こさめ 1
1
瀧子 15
1
潤河 4
洋汰 1
 鬼火一族
比奈伎 43
佐久弥 16
 過去
AAA 6
BBB 4


役名 番号 台詞 注釈
(みぎわと汀が部屋に飛び込むと、そこは血の海になっていた。
捕虜を含め、杯組、そして水輪の者も何人も切られて死んでいる。
汀たちが思わず立ちすくんでいると、奥に転々と血の続く後がある。
辿っていくとそれは、瀧子の部屋へと続いていた)
001_001 「!!」
みぎわ 002_001 「!!」
みぎわ 003_002 「なっ……なによこれ……みんな殺されてるの!?なんで……!」
(何人か水輪本家の仲間も死んでいる。
年長の男性に駆け寄り体を揺さぶるが、すでに死んでいる)
004_002 「濠!濠ッ!!――ダメだ……ッ……死んでる――」
(倒れた大人たちの中に、小さな子どもを発見)
みぎわ 005_003 「――洋汰!!」
006_003 「そんな……っ、こんな子どもまで!」
みぎわ 007_004 「洋汰っ、洋汰――!」
008_004 「(ハッとして)みぎわ!」
みぎわ 009_005 「えっ」
潤河 010_001 「(ひゅう……)」
みぎわ 011_006 「(ハッと)潤河!!まだ息がある!」
(駆け寄る)
みぎわ 012_007 「潤河!いったいなにが――」
潤河 013_002 「――……すい……じ、んが……」
みぎわ 014_008 「水神……?瀧子様のこと!?」
潤河 015_003 「……神が――降りて――……み、んな……を………………(手から力が抜ける)」
(みぎわ、潤河を抱え)
みぎわ 016_009 「潤河…!…潤河!ヤダ…ちょっと……目を開けてよ!!」
017_005 「なん……なんだよ、これ……ッ」
みぎわ 018_010 「……(ハッとして)……滴は!?漣やこさめは!?みんな無事だよね!?」
019_006 「……血が……こっちに続いてる」
みぎわ 020_011 「!(その方向を確認して)……ね、ねえ……この先って、瀧子様の部屋だ」
021_007 「――みぎわ。水輪の誰かを探してきてくれ」
みぎわ 022_012 「で、でも、本家のみんなのほとんどが……っ」
023_008 「まだ親父様がいる。滴がいる、泪が、漣が、こさめがいる。とにかく、誰でもいい、誰か探してきてくれ。俺は――この後を追ってみる」
みぎわ 024_013 「わ、わかった……っ、必ずみんなを探してくる――汀、気をつけて!!」
025_009 「(頷く)」
【みぎわ、走り去る】
(汀、そっと窺うと、瀧子の部屋の中にまで血が続いている。
そっと歩いていくと、瀧子の部屋の奥に、隠し扉が開いているのを見つけた)
026_010 「隠し扉……!(すん、と鼻を動かし)潮の香りがする……。瀧子様の部屋は、海に通じてるって言われてたけど、本当だったんだな……」
(気配を殺しながら、そっと扉を潜ると、下り階段。
ゆっくりと階段を下りていくと、その先は広くなっていて、人影が見えた)
027_011 「――(息を詰める)」
瀧子 028_001 「――……愚(おろ)かな。人の子よ。夢幻(ゆめまぼろし)にすがりつく己(おのれ)の手が、血にまみれたことに気づけぬのか。力など、所詮(しょせん)はまやかしに過ぎぬ。終焉(しゅうえん)を受け入れることこそが、この瀧子の意志」
029_001 「――それが……それがあなた様のお言葉だなどと……我は――信じぬ!!」
【ザシュウ!!】
030_012 「!!」
(一番奥の中央、一段高くなったその上座では、瀧子が倒れているのが見えた。
そして。その傍に立つのは、滴。手には、血にぬれた槍を握っている)
031_013 「滴!」
【駆け寄る】
032_014 「――滴!無事だったのか!なにがあった!!どうして瀧子様を……ッ!!」
033_002 「(わなわなと震え、青ざめている)」
034_015 「滴!!」
035_003 「――た……瀧子様が……っ、神降ろしの儀に、……失敗したのだ……!器に収めることができなければ、神はただの強大な力に過ぎない。神の力は、瀧子様の御身を奪い、その体を使って暴走して――そして、……そして、次々にみなを……!!」
036_004 「濠も……ッ潤河も洋汰も……ッ!!みな助けられなかった……!!」
037_005 「こうするしか……、こうするしかなかった……!瀧子様をとめるには、……こうするしか……!!(槍を握る手がぶるぶる震えている)」
038_016 「滴!なんで神降ろしの儀なんてやったんだ!?誰の指示だ!」
039_006 「――神を……降ろせなければ――なんのための巫女だ」
040_017 「滴!!答えるんだ、これはいったい、誰の指示だ!」
041_007 「…………時期だ」
042_018 「はっ・・・?」
043_008 「時期が来た、と、仰られたのだ」
044_019 「時期って……なんの」
045_009 「水輪が起って百余年――頃合だと――頃合だと仰られた――」
046_020 「だから頃合って、なんのだ!!」
047_010 「神を、神の力をその身に下ろすのだ!!そして、瀧子様は――否、この水輪は、真の神の一族となろう!!」
048_021 「しずく・・・おまえ、なにを言って・・・」
瀧子 049_002 「――この瀧子と、かわらんとしたか、滴よ……」
050_022 「瀧子様!!まだ生きて……!!」
051_011 「――」
瀧子 052_003 「そなたが――そなたが、楔(くさび)、か――?……神の力など……、竜神の子だなどと……、そんなものは結局、何の意味も持たぬものであった……この一族を――……そなたが終わらせるか――しずく――」
053_012 「終わらせる……?終わらせるだと!?この水輪を終わらせるなどと我は許さぬ!決して許さぬ!それが瀧子様のご意志であろうと、我は認めぬ――!」
054_023 「滴……!!」
055_013 「竜神とはかくも無力なものか!?己の身に降りかかる災厄すら、他者に守られることでしか払えぬ――――否、神の力とはそのようなものではない……この地を育み、波を操り、水輪を未来永劫守り生かし続けるもの!それができぬとは、なにが竜神の巫女か!――瀧子様が出来ぬのならば、我が代わりに竜神を身に受けようぞ。神降ろしの儀はこのまま続ける。我が神となる――!」
比奈伎 056_001 「――これが竜神の力の末路か」
057_024 「!」
(音もなく、背後の鬼の面をつけた青年が立っていた)
058_025 「あんた、鬼火の……!」
059_014 「――っ!」
(その瞬間、滴の腕がしなって、汀を攻撃する。
普段の滴では考えられないほどの攻撃で、汀の目には見えなかった。
汀の目の前で、滴の槍が、比奈伎の刀によって受け止められる)
比奈伎 060_002 「――ッ」
【ガキーン!!】
061_026 「!?(かばわれた事に気づき)ッ、何故かばう!?」
比奈伎 062_003 「(その力を受けたまま)――神の力とやらは俺が引き受ける。おまえは外へ」
063_027 「瀧子様を……滴をこのまま放っておけって言うのか!?」
比奈伎 064_004 「落ち着け。竜神の子と名乗る水輪の者よ。おまえの技は人の技だ。だから、神には通じない」
065_028 「……っ俺は……俺たちは…………竜神の子なんかじゃ、なかった…………」
比奈伎 066_005 「だが――、神には通じなくとも、人には通じる」
067_029 「っ!」
比奈伎 068_006 「おまえはこれまで、なんのために戦ってきた?これから先は、なんのために戦う?――なぜ、誰のために」
069_030 「俺は……」
比奈伎 070_007 「……」
071_031 「俺は……、――仲間を救いたい」
比奈伎 072_008 「(ふと目を細めて)おまえが救うべき仲間は、もうここにはいない」
073_032 「――」
比奈伎 074_009 「いけ!」
075_033 「っ(身を翻す)」
【汀、走り去る】
【比奈伎のいた場所に槍が突き刺さる】
比奈伎 076_010 「っ」
077_015 「邪魔をするな、鬼の子らよ!我が神の力をその身に受けたいか!」
比奈伎 078_011 「――俺は、神の力など信じない」
079_016 「愚弄するか!」
比奈伎 080_012 「人の世に、神の力など存在しない」
081_017 「黙れ……ッ」
比奈伎 082_013 「おまえが手に入れたかった神の力とは、人の心をなくしてまでも手に入れるほど価値のあるものか!?」
083_018 「黙れえええ!」
比奈伎 084_014 「滴――」
085_019 「――」
瀧子 086_004 「(E)――滴」
比奈伎 087_015 「滴。大河の一滴をなすべき存在」
瀧子 088_005 「(E)よき名じゃ。その名の通り、そなたはこの大河(たいが)をなす、尊(とうと)きひと滴(しずく)となろうな」
089_020 「(よろめく)……たきこ、さま」
瀧子 090_006 「(E)滴。よき名じゃ……」
091_021 「あ……あ……っ」
比奈伎 092_016 「――かつて……。巫女姫に竜神が降り、その力で一族を守ると信じられていた。だがそれは、滅びかけた一族の明日への希望が妄念となって、たった一人の女に背負わされただけだった。女はただ、神であれ、力ある存在であれと押し付けられ、『人でないもの』として扱われるようになったにすぎない――」
093_022 「……」
比奈伎 094_017 「その結果として、一族が永らえたことが、『神の力』に対しての妄念に拍車をかけた。――だが。その『竜神の力』とやらを守るために、一族が行ったことはなんだ?一族を守るという名目で、どれだけの血が流れたか……――おまえが本当に手に入れたかったのは、血の海などではないはずだ」
095_023 「…………………………神殺しは大罪――ならば、我は命を持って贖(あがな)おう。だが我はこの身をもって竜神となろう!神にあだなす者は、その命を持って贖(あがな)うべし。ゆえに、我に逆らうのならばそなたもその命で贖え!」
比奈伎 096_018 「――……退(しりぞ)かないか」
097_024 「退(ひ)かぬ!」
佐久弥 098_001 「(そっと)――比奈伎」
比奈伎 099_019 「(苦く)――俺がやると言っただろ。……一応、いまは頭領代理だからな」
100_025 「おおおおおおおおッ!!(槍を振るう)」
比奈伎 101_020 「!!(刀で受ける)これが、女の力か……ッ」
102_026 「ははは!愚かな!!これが神の力よ!!」
比奈伎 103_021 「愚かはどちらだ!!――『神の力』という幻に翻弄され、自らヒトであることを捨てるとは」
(瞬間、滴の脳裏に、みんなの呼ぶ姿が)
漁火 104_001 「滴」
105_001 「滴」
106_001 「滴」
こさめ 107_001 「滴」
みぎわ 108_014 「滴」
109_034 「滴」
潤河 110_004 「滴さん」
111_001 「滴」
洋汰 112_001 「滴ねえちゃん」
瀧子 113_007 「滴――」
【――ドシュ……!!】
114_027 「あ――……(ぽた、・・・ぽた)」
比奈伎 115_022 「――おまえは――『神』になる必要など、少しもなかった。そのままのおまえを、みな、愛していただろうに――……」
116_028 「…………」
【ずる……とさ。】
佐久弥 117_002 「――比奈」
比奈伎 118_023 「――(息を吐いて)……神の力、か……」
佐久弥 119_003 「比奈伎?」
比奈伎 120_024 「……案外、本当にそうだったのかもしれない。あの女は本気で――その力を信じていた。だからこその、……」
佐久弥 121_004 「神の怒りに触れた者はみな殺された――。本来の彼女の力量では、水輪の者たちまでもを殺すことは出来なかったはず。……そう言うのなら、彼女はあの瞬間、本当に竜神だったんだろう」
比奈伎 122_025 「ああ…………」
(血まみれで倒れていた瀧子に近づき、体を支える比奈伎。瀧子はもう虫の息だ)
比奈伎 123_026 「(抱き起こして、少し揺する)――瀧殿。瀧殿」
瀧子 124_008 「(ひゅう……)………………鬼の……面……。そうか……そなた、……鬼火、の……」
比奈伎 125_027 「はい」
瀧子 126_009 「(ひゅぅ……)……やっと…………終わった、かえ……」
比奈伎 127_028 「はい。あとは、人の子らが決着をつけるでしょう」
瀧子 128_010 「……そうか」
(瀧子、どこか遠くを見つめる)
瀧子 129_011 「百余年(ひゃくよねん)も続く、水輪の一族――。竜神の威(い)を借りて他者(たしゃ)を喰(く)らい、この地に巣食(すく)ってきた、歪(ゆが)んだ一族……。どこかで、終止(しゅうし)符(ふ)を打たねばならなかった」
佐久弥 130_005 「――ありもしない竜神の影に怯え、ここでは、多くの血が流れすぎた」
瀧子 131_012 「(力なく頷く)……竜神など、幻想に過ぎない――そう伝えるには、この海では、神への畏(おそ)れが浸透(しんとう)しすぎていた……」
比奈伎 132_029 「竜神を畏れる一方で、浅はかで単純な権力闘争が耐えなかった……。竜神はもはや、逆らうものの口を塞ぐためだけに利用されていたにすぎない」
瀧子 133_013 「…………そうじゃ…………。竜神のため――否(いな)――、この瀧子のためと――幾人(いくにん)が殺されたか――……もはや数え切れぬほど………………。だが――」
比奈伎 134_030 「――瀧殿」
(そこに、傷を負った漁火が現れる)
佐久弥 135_006 「――(漁火の気配に気づく)」
漁火 136_002 「――瀧子様」
比奈伎 137_031 「……長殿」
瀧子 138_014 「……(じっと漁火を見つめる)……漁火、そなた」
漁火 139_003 「――それでも――わしは……自分は…………」
(漁火の姿に、かつて、若かりし頃の瀧子と袂をわかつた、BBBの姿が)
漁火 140_004 「自分は、誓った――」
BBB 141_001 「自分は、誓った――」
瀧子 142_015 「――!」
AAA 143_001 「――!」
(それに答えるかのように、瀧子も若かりし頃の姿へ)
AAA 144_002 「……ああ…………そなたは――!」
BBB 145_002 「たとえ姿形を変えようとも、必ず、傍にあると。そして――」
AAA 146_003 「そなた…………」
BBB 147_003 「そして、『楔』になると」
AAA 148_004 「……そうか……。そなたは――……あなたは、ずっと、私の傍(そば)に居(い)てくれたの――」
BBB 149_004 「ずっと……傍にあった――。一族と――そして、貴様にとっての楔となるため」
AAA 150_005 「ああ……――、これで……やっと、……人の子として死ねるというもの……」
AAA 151_006 「長かった……とても……とても…………。……この、……数十年…………――」
比奈伎 152_032 「――」
(息を引き取った一人の老婆の遺体を、そっと横たえる。
彼女の死をもって、ここに、文字通り水輪一族は終わりを迎えた)
(もうBBBの気配はない)
漁火 153_005 「(沈うつな溜息)……皮肉なもんだな。ヒトによって無理矢理ヒトの心を奪われ、神にされた瀧子様と。自らの意思でヒトの心を捨てて神を得ようとした滴と――」
佐久弥 154_007 「……けれど。そのどちらもが、結局は――ヒトの選んだ道だ」
比奈伎 155_033 「(静かに頷く)――これで……、これまで水輪一族の根幹だった、神の力は消えた。あとは、水輪の者が、人として、自分たちで決着をつけるだけだ」
佐久弥 156_008 「(小さく頷いて)もう、竜神の力は通用しない。ただ人だったということが、彼らも、嫌というほど感じているだろうね……」
比奈伎 157_034 「――それでも。彼らが自分たちで納めなければならない」
漁火 158_006 「……ああ。そうだ」
【漁火、武器を握って、みなの元へ向かう】
比奈伎 159_035 「――水輪にはつらい戦いになるだろうな」
佐久弥 160_009 「……そうだね」
(比奈伎、刀を握りなおして部屋を出て行こうとする)
佐久弥 161_010 「……って、どこに行くの?比奈伎」
比奈伎 162_036 「見ているだけというのも性に合わないからな」
佐久弥 163_011 「駄目だよ」
比奈伎 164_037 「佐久弥」
佐久弥 165_012 「駄目」
比奈伎 166_038 「――……」
佐久弥 167_013 「比奈」
比奈伎 168_039 「……(むぅ……)わかったよ」
【チャキ】
比奈伎 169_040 「・・・って佐久弥、おまえこそどこに行くつもりだ」
佐久弥 170_014 「どこって、もちろん決まってるだろう?」
比奈伎 171_041 「……おまえ――今俺に駄目だって言ったばかりだろう」
佐久弥 172_015 「だって、比奈伎は今、鬼火頭領の名代でここにいるんだよ。だから駄目」
比奈伎 173_042 「おまえだって……」
佐久弥 174_016 「ふふ。私は下っ端だから。下っ端が勝手にやることなら、きっと――神様も見逃してくれると思うよ」
【颯爽と去っていく】
比奈伎 175_043 「(半ば呆れて)……なにが下っ端だ……、――鬼火随一の使い手が」


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