鬼神楽・流の章03

 出演キャスト様
キャラ名 キャスト様 台詞数
 水輪一族
漁火 31
4
89
みぎわ 59
2
こさめ 4
52
瀧子 13
洋汰 3
 鬼火一族
彩登 25
珠菜 7
夜紫乃 19
佐久弥 60
比奈伎 34


役名 番号 台詞 注釈
(一の島にて、物資の配布が終了した2人。ぶらぶら中)
【波の音】
みぎわ 001_001 「汀」
002_001 「……」
みぎわ 003_002 「なーぎーさ」
004_002 「…………」
みぎわ 005_003 「なーぎーさー!」
006_003 「………………」
みぎわ 007_004 「もー!いい加減許してよ〜!知らない子にいろいろ喋っちゃったのは、ほんとに悪かったってばぁ。もー、めっちゃくちゃ反省してる!大反省!大大大反省っ!!」
008_004 「…………、(溜息)わかった」
みぎわ 009_005 「なぎさっ」
010_005 「ただし、本当に次は気をつけるんだぞ?みぎわの人を見る目を疑うわけじゃないけど……」
(とかなんとか2人で話していたら、だいぶ先に誰かが立っているのが見える)
みぎわ 011_006 「――(ハッとして)汀、あれ」
012_006 「男か。……なんだ、あれ。――なにかの面をかぶってるみたいだ……」
みぎわ 013_007 「でも、私たちの竜の面じゃない――ということは、水輪の者じゃない……何者」
014_007 「――(チャキ、と槍を構える)」
みぎわ 015_008 「汀。……どうする」
016_008 「――(スッと立って)――討つ」
***
(まだ潜んでいるみぎわ、汀。気配で比奈伎には見つかる)
比奈伎 017_001 「――(ふと視線を向ける)そこからでは、自慢の槍は届かないだろう」
みぎわ 018_009 「!」
019_009 「……ばれてたか」
【正体がばれては意味が無いので、姿を現す】
比奈伎 020_002 「…………(ふぅ)、水輪は、陸地でも武器を取るとは知らなかった」
みぎわ 021_010 「臨機応変って言葉、知らないの?」
比奈伎 022_003 「いや――……なるほど」
023_010 「おまえは……目障りだ。――消えろ」
比奈伎 024_004 「断る」
025_011 「っ(小さく息を呑む)」
みぎわ 026_011 「っ(小さく息を呑む)」
比奈伎 027_005 「――と、言ったら?」
028_012 「……水輪一族の、竜神の子たる証をその目で見たいとみえる」
比奈伎 029_006 「そうだな。それは興味深い。(スッと向き合って)もっとも――俺は神の子だなどと信じないが」
みぎわ 030_012 「!」
031_013 「!」
032_014 「……侮辱するか」
比奈伎 033_007 「そんなつもりはない」
みぎわ 034_013 「おなじことだ!」
035_015 「(すっと手を出して止め)――なにが目的だ」
比奈伎 036_008 「――鬼火頭領の名代にて、水輪一族の長に目通り願いたい」
みぎわ 037_014 「長に会ってなんとする」
比奈伎 038_009 「(少し笑って)貴女に言う必要はない」
みぎわ 039_015 「!(いきなり切りかかる)」
比奈伎 040_010 「ッ!(受ける)」
【ガキィン!】
(打ち合いの勢いで、2人とも後方に下がる)
【ズザザ!!】
比奈伎 041_011 「(しばし睨みあう)」
みぎわ 042_016 「(しばし睨みあう)」
比奈伎 043_012 「―――、(小さく息をついて)ずいぶん手荒いな」
みぎわ 044_017 「そちらこそ、歓迎されると思っていたわけではないでしょ」
比奈伎 045_013 「斬られる謂れはないと思うが」
みぎわ 046_018 「(鼻で笑って)よく言う。斬られるつもりなど毛頭ないくせに」
比奈伎 047_014 「鬼火と知った上での行いならば―――俺も抜こう。(まだ抜かないまま、構えつつ)…女を斬るのは気は進まないが」
みぎわ 048_019 「女と侮るか」
比奈伎 049_015 「そういう意味合いじゃない」
みぎわ 050_020 「同じことだ」
比奈伎 051_016 「…刀を抜く以上は加減はしない。そちらも知っての通り俺は斬られるつもりはないが、そちらの都合までは配慮できないぞ。この場に屍が一つ転がることになっても、鬼火のあずかり知らぬこととなるが、異存はないか」
みぎわ 052_021 「屍をさらすのはそちらだろう!」
(相手の男が構えた武器を見て、二人とも眉を上げる。それは短刀だった)
053_016 「短刀だって?そんな短いのでこの槍を相手するつもりか」
みぎわ 054_022 「よっぽど死にたいみたいね」
比奈伎 055_017 「……どうかな」
056_017 「……気に入らないな、おまえ」
(互いの呼吸を読む、しばしの対峙)
比奈伎 057_018 「――」
058_018 「――」
059_019 「ッ!!(槍を振るう)」
(汀の先行にて、打ち合う汀と比奈伎。右に左に激しく切りかかるが、比奈伎はそれをすべてギリギリでよけていく。
引いてばかりの相手に業を煮やした汀が渾身の力で槍を振るうと、比奈伎の短刀を弾いた)
060_020 「ッ、ッ!!ハ!!(何度も切りつける)」
比奈伎 061_019 「ッ、・・・ッ(ギリギリよけていく)」
062_021 「ッ(瞬時に互いの位置が入れ替わる)」
比奈伎 063_020 「ッ(瞬時に互いの位置が入れ替わる)」
064_022 「――、ハァアッ!!(呼吸を読んで、一気に懐に!躊躇せず槍を突き刺す)」
比奈伎 065_021 「!、く!(さすがに受け損ない、短刀が弾かれる)」
(輪を描いてクルクルと短刀が宙を舞う)
比奈伎 066_022 「(一瞬眉間に皺を寄せ)・・・」
(汀、最後の止めを刺そうと、再び思い切り比奈伎の懐に飛び込んだ、
が、比奈伎の一瞬の抜刀により、倒れる)
067_023 「ハアアアッ!!」
比奈伎 068_023 「おおおお!!」
069_024 「(腹部に激しい痛み)う、ぐ……ッ!……ッ(ズルッと比奈伎に凭れるかのように倒れる)」
【ザク、っと短刀が浜に突き刺さる】
みぎわ 070_023 「!!!汀あああっ!!!」
比奈伎 071_024 「……(息をつく)」
みぎわ 072_024 「(槍を振るい)――おのれ……ッ、鬼火、よくも!!」
比奈伎 073_025 「――(少し戸惑う)」
みぎわ 074_025 「オオオッ!(槍を突き刺す)」
比奈伎 075_026 「――!(抜いた刀で受ける)」
(その音が響いた瞬間、水輪の長・漁火が姿を現す)
漁火 076_001 「――見事!(叫んで、軽く手を叩く)」
みぎわ 077_026 「!親父様!!邪魔立て無用だ!」
漁火 078_002 「槍(やり)を引け、みぎわ。どう見てもおまえのほうが分(ぶ)が悪かろう」
みぎわ 079_027 「…!なに…ッ!?」
漁火 080_003 「力量も測れずに、鬼火の副頭領を討つつもりだったか?頭を冷やせ、馬鹿者。運よく打ち合えても、せいぜいがそこまでだ。その刀を最後まで抜かせていたら、そこに転(ころ)がるのは間違いなくおまえだった。いまだ立っていられることを感謝せにゃならんぞ」
みぎわ 081_028 「………ッ!(強引に槍を振るって)フン!いつから水輪の頭領は、鬼火とやらに傅(かしず)くようになったんだか!竜神の子が聞いて呆れる!」
漁火 082_004 「みぎわ(宥めようと)」
みぎわ 083_029 「っなにが……見事よ!汀……ッ汀が……!!(涙ぐむ)」
比奈伎 084_027 「――・・・(静かに刀を下ろす)」
漁火 085_005 「……いやはや。相(あい)も変わらずの腕よな。鬼火頭領が推(お)すだけのことはある」
比奈伎 086_028 「……恐縮です」
みぎわ 087_030 「(ついていけず軽く混乱する)……ちょっと!どういうこと!?」
漁火 088_006 「みぎわ。こちらは、鬼火の副頭領、比奈伎殿」
みぎわ 089_031 「……知り合い!?」
漁火 090_007 「いや?」
みぎわ 091_032 「は?」
漁火 092_008 「ワシもこちらの副頭領殿にじかにお会いするのは初めてだが、長(おさ)殿(どの)とは飲み友達……いやいや、昵懇(じっこん)の仲だ」
みぎわ 093_033 「はあ!?」
漁火 094_009 「落ち着かんか。よく見ろ」
みぎわ 095_034 「えっ・・・」
(みぎわが下に眼をやると、汀が体を起こすところだった)
096_025 「(しこたま打たれた腹部をさすりながら)いててて……」
みぎわ 097_035 「ちょ…っ汀、だっ大丈夫なの!?(慌てて手を貸す)」
098_026 「(手をとって立ち上がりながら)大丈夫……じゃない、っ、もんのすごく痛い……(ちょっと涙目)」
漁火 099_010 「(顎をなでつつ)こりゃどっか折れたかもなぁ」
みぎわ 100_036 「親父様!!(説明して!っていうか涙を返せ!的な)」
漁火 101_011 「そうどなりなさんな。ワシは言ったぞ、『よく見ろ』と」
みぎわ 102_037 「!?」
(よーく見ると、比奈伎の刀は逆に握られている)
みぎわ 103_038 「!!あれが峰打ち!?……持ち替えたっていうの!?あの一瞬で……」
104_027 「全然気づかなかった……。てっきり斬られたと思ったもんな(腹をさすりながら)」
比奈伎 105_029 「・・・申し訳ない」
106_028 「?なんで謝る?」
比奈伎 107_030 「加減がきかなかった。俺でなくほかの者であれば、おそらくそこまで打ち込まずに済んだはずだ」
みぎわ 108_039 「…………もっと強いのがいるって事?」
比奈伎 109_031 「(小さく微笑って)何人かは」
******
漁火 110_012 「――いやはや、すまんな。見ての通り血気(けっき)盛(さか)んな連中ばかりなもんで、手を焼いとる」
111_029 「血気盛んで悪かったな」
みぎわ 112_040 「なにも説明してくれなかった親父様が悪いんじゃない」
漁火 113_013 「順を追って話をするから、先に戻っとれ」
みぎわ 114_041 「えー!?」
漁火 115_014 「いいか、汀。みぎわ。ここに鬼火がいるということは、まだおまえたち2人しか知らんことだ。泪にも知らせておらん。――この意味が、わかるな?」
116_030 「――」
漁火 117_015 「極秘(ごくひ)に、動かしたいことがある。――これは、命令だ。わしもすぐに戻る」
みぎわ 118_042 「……」
119_031 「――承知した。(くるっときびすを返して)みぎわ、俺たちは先に館に戻るぞ」
みぎわ 120_043 「はぁい」
【二人は去っていく】
漁火 121_016 「(その後姿を見送る)」
(比奈伎に向き合う漁火)
漁火 122_017 「鬼火頭領・朱音殿は息災(そくさい)か」
比奈伎 123_032 「――つつがなく」
漁火 124_018 「そりゃなによりだ。久しぶりに一緒に酒でも飲みたかったんだが。副頭領殿はいかがだ?」
比奈伎 125_033 「生憎、下戸なもので」
漁火 126_019 「そりゃつまらんなぁ。下戸(げこ)というのは物の例えだろうが。わざわざ海まで来たんだ、ワシの顔を立ててちょっとくらい付き合わんか」
比奈伎 127_034 「(少し笑いながら)ほかの者を寄越します」
漁火 128_020 「(笑いながら)頭領と違ってかたいな、おぬしは。まぁせっかくだ、せいぜい綺麗どころを寄越(よこ)してくれ」
***
(と、いうわけで、綺麗どころがきた。)
佐久弥 129_001 「――鬼火の者を水輪に受け入れてくださったこと、感謝いたします」
漁火 130_021 「こりゃあ…………」
佐久弥 131_002 「はい?」
漁火 132_022 「確かに綺麗どころだが、意味がちがうぞ!」
佐久弥 133_003 「(少し笑って)それは、申し訳ありません」
漁火 134_023 「鬼火は女子(おなご)も大層(たいそう)強く麗(うるわ)しいと聞いたのだが、女子はきとらんのか、女子は」
佐久弥 135_004 「別の役目を負っているので……」
漁火 136_024 「そりゃ……つまらん」
佐久弥 137_005 「くすくす」
漁火 138_025 「鬼火の女子(おなご)は、猛々(たけだけ)しさの中にも淑(しと)やかさを持ち合わせていると聞く。ぜひそれを、この目で見てみたかったんだがなぁ・・・。なにしろ、ほれ、水輪の女は、『ああ』だからな」
佐久弥 139_006 「水輪一族は、特に激しい戦を強いられてきた一族のうちの一つ。自ずと、必要な力が特化されていくのでしょう」
漁火 140_026 「水輪を見たか」
佐久弥 141_007 「(小さく頷いて)限られたもののみが着用を許される竜の面。そして船を操る技」
漁火 142_027 「おぬしはどう見た」
佐久弥 143_008 「水軍より勝るといわれる海上での攻防、とくと堪能させていただきました。あれだけの波を受けながら、よく舵を操れるものだと」
漁火 144_028 「懸命(けんめい)な修練を重ね、なによりも海を傍(かたわ)らにして育った、その経験ゆえの賜物(たまもの)の、術(すべ)だ」
佐久弥 145_009 「(頷いて)水輪の真実(まこと)の力です」
漁火 146_029 「――あれを、竜神の加護(かご)だと、水神(すいじん)の力ゆえだ、というものがいる。――水輪本家の者ですら。……否(いな)。身内のものであればあるほど、その力を信じ、頼みとしておる」
佐久弥 147_010 「――」
漁火 148_030 「――力、か」
佐久弥 149_011 「――はい」
漁火 150_031 「――わしは――、その『力』を、捨てる」
【雷鳴】
***
(外で気配を窺っていた夜紫乃。戻ろうとしたところ、ばったり泪に見つかる)
夜紫乃 151_001 「――!(はっと気配に気づく)」
(夜紫乃が振り向くが早いか、泪が武器を振り下ろす)
152_001 「ッ(振り下ろす)」
夜紫乃 153_002 「(受ける)うわ!」
154_002 「(三度振るう)」
夜紫乃 155_003 「うわっ!と、っと!!」
156_003 「ハァッ!(振るう)」
夜紫乃 157_004 「(受けながら、逃げながら)ちょっと、待った待った、待ってってば!」
158_004 「――」
(一瞬、武器を引いたのを目にして、一瞬、ホッとする、が)
夜紫乃 159_005 「(一瞬ホッとする)」
160_005 「――ハ!(踏み込む)」
夜紫乃 161_006 「ッ、やば……!」
(その隙をつかれて思い切り踏み込まれた夜紫乃。
手加減していたがゆえに避けきれず、あわや!というところで)
佐久弥 162_012 「(飛び込む)」
【・・・ガキーン!】
(当然、佐久弥が飛び込んできました)
163_006 「――!」
佐久弥 164_013 「――」
(武器を交差したまま対峙する2人)
165_007 「――」
佐久弥 166_014 「――」
(武器はそのままで、じりっと踏みしめる泪)
167_008 「……おまえは誰だ?」
佐久弥 168_015 「――鬼火の佐久弥」
169_009 「何者だ」
佐久弥 170_016 「敵じゃない」
171_010 「信じろと?」
佐久弥 172_017 「今は」
173_011 「――今は、か」
夜紫乃 174_007 「さ、佐久弥……っ」
175_012 「顔も見せない相手を、ただ信じろと?それは虫が良すぎないか」
佐久弥 176_018 「――確かにね」
(お互いに、武器を振るって離れる)
夜紫乃 177_008 「佐久弥」
佐久弥 178_019 「大丈夫。――(ゆっくりと面を外す)――私たちは、鬼火の者。私は佐久弥。こちらは、夜紫乃。ゆえあって今はこの地にとどまっている」
179_013 「……」
佐久弥 180_020 「(面を付け直しながら)……時期が来れば理由は自ずと知れるはず」
夜紫乃 181_009 「……(2人のやり取りを見守る)」
(やがて、警戒を解いた泪)
182_014 「……(ふぅ)。まぁ、確かにおまえたちからは殺気を全く感じなかったしな。とりあえず、敵ではないということは信じるさ」
佐久弥 183_021 「(ふと笑って)…ありがとう」
184_015 「……ところで」
佐久弥 185_022 「え?」
186_016 「おまえ、酒はいける口か?」
佐久弥 187_023 「…え?」
188_017 「暇なら今夜、一杯付き合わないか」
夜紫乃 189_010 「……あれ?」
佐久弥 190_024 「ええと」
191_018 「これだけの綺麗どころを前にして、共に酒が飲めないという話はないだろう。払いは泪がもつ。ぜひとも付き合え」
夜紫乃 192_011 「……君……もしかして」
193_019 「うん?」
夜紫乃 194_012 「もしかして、水輪の長の、親戚かなにか…?」
195_020 「なんだ、親父にはすでに会ったのか」
夜紫乃 196_013 「親父ぃ!?」
佐久弥 197_025 「……」
198_021 「身内の者にすら全く似ていないといわれるのに、親父と泪の血が繋がっていると良くわかったな」
夜紫乃 199_014 「えーと」
佐久弥 200_026 「……なんだか、別の人にもよく似ている気がするよ」
***
夜紫乃 201_015 「ところで、呑気(のんき)にお酒なんて飲んでて大丈夫なの?」
佐久弥 202_027 「夜紫乃」
203_022 「――」
夜紫乃 204_016 「あ…っ、……余計なことだったよね、ごめん」
205_023 「――外の者のほうがよく見える――か」
夜紫乃 206_017 「え?」
佐久弥 207_028 「……」
208_024 「……確かに今、水輪には何事かが起ころうとしている――。だが、内部に居ては、見えないことも多くてな。見ようとしても、なにかに目を塞がれてしまうのさ」
夜紫乃 209_018 「なにかって?」
210_025 「わからない……。水輪の者の元々の性質かもしれないし、――瀧子様や竜神への畏敬の念のためかもしれない。なにかはわからないが――確かに、その『なにか』が、内部で起こっている何事かを、やんわりと隠してしまっているような気はするんだ」
佐久弥 211_029 「あなたは――その気配に気づいているんだね」
212_026 「(肩をすくめて)泪は、親父と同じで『外』に近いからな」
夜紫乃 213_019 「え?」
214_027 「(それには答えず)瀧子様のお力が弱まったとかで、ずいぶんバタバタもしているし…。海もずっと荒れているしな」
佐久弥 215_030 「――泪」
216_028 「うん?」
佐久弥 217_031 「事が起こる前に、館から離れていたほうが良い」
218_029 「え――……どういうことだ、何が起こるかお前にはわかっているのか?」
佐久弥 219_032 「いや――」
220_030 「では」
佐久弥 221_033 「『なにか』はわからない。けれど――もうじき嵐が来る。おそらく――これまでに経験したことのない、とても大きな………強い嵐が」
***
(帰ってきたが、みんないない。会合の間へ行ってみた)
222_032 「あれっ?やけに静かだな」
洋汰 223_001 「あれえ?汀にーちゃん、みぎわねーちゃん。一の島から戻るのずいぶん遅かったじゃん。とっくに会合はじまっちゃってるよ」
みぎわ 224_044 「どうりでみんないないと思った。どうする、汀」
225_033 「途中で入っていくと、瀧子様のご機嫌が悪くなるからな……終わるまで待ってよう」
みぎわ 226_045 「うん。……あれ?」
洋汰 227_002 「ん?」
228_034 「どうした、みぎわ」
みぎわ 229_046 「――あの男。なんだか動きがおかしい」
230_035 「え?」
洋汰 231_003 「えっ?」
(みぎわと汀が見た方向、会合の間の入り口にふらふらと男が。瞬間、男は会合の間に飛び込んだ!)
みぎわ 232_047 「!」
233_036 「マズイ!」
【2人も急いで後を追って飛び込む】
234_037 「(入り口から)――瀧子様を守れ!!」
235_001 「!!」
こさめ 236_001 「!(一番早く反応し、瞬時に飛んで男の目の前に)…ハッ!(槍を振るう)」
237_001 「ぎゃああ!(刺される)」
【ドサッ】
238_002 「瀧子様ッ!!」
239_001 「瀧子様!!」
瀧子 240_001 「――大事無い」
こさめ 241_002 「(ハッとして)ですけど、血が……っ」
瀧子 242_002 「返り血を浴(あ)びただけじゃ。瀧子のものではない、ゆえに案ずることはない。こさめ、ようやった」
こさめ 243_003 「(ほっとする)いえ、光栄です」
瀧子 244_003 「この男は」
245_003 「は。先日加わったばかりの、杯組の一人です――」
瀧子 246_004 「――漁火を呼べ(ひやりと)」
247_031 「(ハッとして)瀧子様、お待ちください!」
248_038 「!」
みぎわ 249_048 「!」
250_002 「!」
251_004 「!」
こさめ 252_004 「!」
瀧子 253_005 「……なんじゃ、泪」
254_032 「親父の……いえ、真実、漁火の采配によって杯組が選ばれていたのならば、罰を与えられても文句は言えませぬが、これは……!」
瀧子 255_006 「ひかえよ」
256_033 「これでは、あまりにも!」
瀧子 257_007 「ひかえよ!」
258_034 「ッ!」
瀧子 259_008 「漁火の代わりにそなたが罰せられたいと見える。ならば、望みどおりにしてやろうぞ」
260_035 「――っ(後ずさる)」
261_039 「(素早く止めにはいる)お待ちください、瀧子様!お気をお鎮めくださいませ。いまここで、水輪の、それも本家の数を減らすは、得策ではございません」
瀧子 262_009 「ほう?」
263_040 「今は何よりも、瀧子様とこの場所が、血で穢れたことを清め払うことが大事。それには、漁火も泪も、なくてはならぬ者たちです」
瀧子 264_010 「――」
みぎわ 265_049 「(同じように庇う)ここに血の穢れがある以上、更なる穢れは避けねばなりませぬ。瀧子様の御身のためでございますれば」
瀧子 266_011 「(すっと目を細めて)……汀。みぎわ」
267_041 「は」
みぎわ 268_050 「は」
瀧子 269_012 「此度(こたび)はそなたたちの顔を立てて、許そう。――泪」
270_036 「――は」
瀧子 271_013 「この瀧子に声を荒げることは、二度と許さぬ。二度目は、そなたの死をもって贖(あがな)え」
272_037 「――は……ッ」
***
(瀧子が下がった後)
273_042 「――この……馬鹿!!」
274_038 「っ」
275_043 「大馬鹿だおまえは!!今回は本当に運よく許されたからよかったものの、あんな馬鹿な行為ははじめて見たぞ!!」
276_039 「……(うつむく)」
みぎわ 277_051 「ほんっとに危なかったよ、泪。こっちの寿命が縮んだ」
278_044 「あの方に逆らうなんてどんな馬鹿だ!!おまえは命を捨てたかったのか!」
279_040 「……そうじゃない」
280_045 「今回はほんとに奇跡だぞ!?二度とこんな幸運はありえない。あの瞬間、おまえは間違いなく死んでたんだぞ!」
281_041 「――言われなくてもわかっている」
みぎわ 282_052 「泪」
283_042 「あのまま親父が罰せられるのは許されることじゃない。親父は、本当に何もしていないんだからな」
みぎわ 284_053 「……どういうこと」
285_043 「あれは親父の采配だといっていたが、実際はそうじゃない。あれは――瀧子様の指示だ。親父は、罪を着せられた」
286_046 「――・・・」
みぎわ 287_054 「(少し考え)瀧子様に、親父様を罰しなければならない理由がほかに生まれたということ?」
288_044 「――」
289_047 「泪」
290_045 「はきとはわからない。だが…………おそらく。親父は別の事で何かをした。それが、瀧子様の逆鱗に触れていたんだと思う」
みぎわ 291_055 「なにかって」
292_046 「それはまだわからない」
みぎわ 293_056 「……」
294_048 「……」
295_047 「……汀」
296_049 「(見る)」
297_048 「あの親父が、本当に、瀧子様のご不興を買うようなことを……すると思うか」
298_050 「――……わからないな」
みぎわ 299_057 「……親父様は、杯組だったから、じゃない?」
300_051 「――」
みぎわ 301_058 「生粋の本家の者ではない。けれど、力を見込まれて長になったわ。それでもやはり、生粋の水輪ではない」
302_049 「……ゆえに、外の者に近い」
303_052 「泪、みぎわ。その話、これ以上しないほうがいい」
みぎわ 304_059 「汀」
305_053 「危険だ。――あまりにも、危険すぎる」
306_050 「――」
307_054 「泪。おまえ、しばらく大人しくしてたほうがいい。もし本当に親父様がなにかをしたんだとしたら――、おまえも危険だ」
308_051 「……汀」
309_055 「泪。おまえは一の島へ行け。だいぶ波が高くなってきたけど、おまえなら渡れる。……たぶん……親父様は、おまえを守るための手はずは整えてるはずだ」
310_052 「?どういうことだ」
311_056 「なにをしてるかまではわからないけど――親父様が動いてることは確かだ。そしてそれはたぶん――俺たちを守るために」
******
(外との繋ぎをとるため、一人、館の外に出た彩登。そこを汀に見つかる)
彩登 312_001 「ええっと……。松の木、松の木……これ、かなぁ」
***(思い起こす、先日の会話。館に潜入した珠菜・彩登に、接触してきた佐久弥)
佐久弥 313_034 「(E)ようやく、水輪の頭領とつなぎが取れたよ。――私たちの思うよりもずっと速く、事が進んでいるのには気づいていると思うけど……もう猶予はない。お頭たち本陣はまだこの地に到着していないけれど、私たちだけで先に行動を起こす。そのつもりで、準備していて欲しい」
珠菜 314_001 「(E)わかりましたわ」
彩登 315_002 「(E)あ、彩登もっ」
佐久弥 316_035 「こちらは、比奈伎、夜紫乃、そして私の三人。すでに比奈伎と夜紫乃は水輪と接触済みだから」
珠菜 317_002 「ええ。それで、水輪の方(かた)は、なんと?」
佐久弥 318_036 「幾人か、本家の中から協力を得られそうだ」
珠菜 319_003 「(ほっと笑って)そう、それはよかったですわね。こちらも、例の書き付けの場所がわかりましたわ」
佐久弥 320_037 「(頷く)」
彩登 321_003 「誰が動くか、もうわかった?」
佐久弥 322_038 「じきにね。明日、私が彩登を迎えに来る。――彩登」
彩登 323_004 「うん、わかってる。大丈夫!」
佐久弥 324_039 「(ふわりと笑って)うん。しっかりね。――それじゃ、明日――」
***(回想終わり)
彩登 325_005 「――目印の松の木、あれだ!」
326_057 「――それ、なに?」
彩登 327_006 「!!」
(振り向くと、すぐ後ろに汀が立っていた)
彩登 328_007 「あ……、竜のお面……水輪一族の本家の人……」
329_058 「その、手に持ってるヤツ。それ、なに?」
彩登 330_008 「……っな、なんでもないよっ」
331_059 「じゃあ見せてよ。なんでもないなら、見せられるだろ」
彩登 332_009 「あ……はい」
【彩登、手に持っていた書き付けを渡す】
333_060 「(さっと開くが、白紙だった)……?なに、これ、何も書いてないけど」
彩登 334_010 「(汀がきょとんとしたことにホッとする)」
(回想)
珠菜 335_004 「(E)――さあ、おさらいですわよ、彩登」
彩登 336_011 「(E)明日の正午きっかりに、目印の松の木まで、この書き付けを持って行く。誰かに見つかって、もし書き付けを見せろと求められたら、渡してしまっても、大丈夫」
珠菜 337_005 「(E)ええ。普通ではなにも読めないようになっていますから」
彩登 338_012 「(E)それで、彩登は、佐久弥が来るまで待つ。見つかった相手が、水輪本家の、瀧子様とじかにお話ができる人だったら、その人とは、お喋りしても大丈夫、なんだよね?」
珠菜 339_006 「(E)ええ。わたくしたちはすでに面通しも終わって、杯組の一人ですから。仲間として扱っていただけますわ」
彩登 340_013 「(E)その人が、その書き付けを見てどんな反応をするか……を、見るんだよね」
珠菜 341_007 「(E)そうですわ。重要なのは中身ではなく、『書き付け』そのものだから――」
彩登 342_014 「……あ、あの、あなたは、水輪の本家の人、ですよね?」
343_061 「そうだけど……」
彩登 344_015 「瀧子様と、直接お話が出来る人、ですよね」
345_062 「……そうだけど」
彩登 346_016 「(またホッとして、ふと上を見上げる)」
347_063 「どういう意味、(視線を追って、気配に気づく)―――」
佐久弥 348_040 「―――申し訳ないけれど」
349_064 「……だれだ?」
佐久弥 350_041 「今はまだ詳しくは話せない。(彩登を見てふわりと微笑み)――ご苦労様」
彩登 351_017 「佐久弥!」
352_065 「……変わってるな。おまえも鬼の面か。一応聞くけど、何者?」
佐久弥 353_042 「私たちは、鬼火一族」
354_066 「鬼火。ああ……(やっぱりと思う)」
佐久弥 355_043 「そちらは…」
356_067 「ハ。知ってて来たんだろ?海に生きる一族は、俺たちだけだからな」
佐久弥 357_044 「(頷く)」
358_068 「それで――」
佐久弥 359_045 「……それで?」
360_069 「(槍を構える)俺たちからなにを奪おうっていうんだ?鬼火とやらは」
佐久弥 361_046 「――やめたほうがいい。あなたは、勝てないよ」
362_070 「(ちょっとムカッ)なんだそれ。ずいぶんだな、おまえ」
佐久弥 363_047 「ごめん。でも、それが事実だから」
364_071 「――ハ!(とりあえず、槍を振るってみる)」
佐久弥 365_048 「(いとも簡単に流す)」
366_072 「(突き刺すが)」
佐久弥 367_049 「(当然払う)」
368_073 「――」
佐久弥 369_050 「――、(ふわりと笑って武器を放す)」
370_074 「……ほんっとに強いんだな、おまえ。(さっさと槍を下げた)――このあたりで水輪のものより強い人間に会ったのは、二度目だ」
佐久弥 371_051 「ふふ、ありがとう。一度目は、一の島で、だね」
372_075 「(頷く)。それで――その子も、鬼火ってわけか」
彩登 373_018 「(頷く)」
374_076 「なにかをするために、水輪に入り込んだ。……一昨日の様子から見ると、親父様の差し金だな」
佐久弥 375_052 「そうだ」
376_077 「みぎわが会ったとか言う、浅葱(あさぎ)色の髪をした若いのも、鬼火だな?」
佐久弥 377_053 「ああ。あれは鬼火の夜紫乃。私は、鬼火の佐久弥」
378_078 「――親父様は、あとで事情を話すと言ってたが……一の島から戻ってこない。おまえ、事情を知ってるか?」
佐久弥 379_054 「え……?」
380_079 「……なんだ、知らないのか」
佐久弥 381_055 「戻っていない?あの後、一度も?」
382_080 「戻ってない。だから、俺たちはまだ『事情』とやらをなにも知らされてない」
佐久弥 383_056 「――」
384_081 「どうなってる?」
佐久弥 385_057 「……少し――時間をもらえるかな。こちらで確認してみる」
386_082 「――わかった」
【ざ…】
387_083 「それから、その子どもはこっちにもらう」
彩登 388_019 「!」
389_084 「……おまえは、俺たち水輪の杯を受けたんだ。杯を受けたものなら、俺たちの家族と同じ。お前を守るのは、家族の一員である俺の役目でもある」
彩登 390_020 「え――……」
391_085 「おまえは親父様と瀧子様に選ばれて、杯を受けた。それなら、おまえは水輪の家族になる資格があるってことだ」
彩登 392_021 「……そう、なの?」
(彩登、困ったように佐久弥を見上げる)
佐久弥 393_058 「(ふわっと笑って)水輪のその性質、話には聞いていたけれど本当なんだな。確かに、それならこの子はそちらの家族だ。そちらに返すのが道理。今はね」
彩登 394_022 「佐久弥……」
佐久弥 395_059 「大丈夫だよ、彩登」
396_086 「あやと?それが、おまえの名前か?」
彩登 397_023 「う、うん」
398_087 「俺は汀だ。水輪一族の、汀」
彩登 399_024 「なぎさ……」
400_088 「鬼火一族の彩登。杯を受けた今は、おまえは水輪の彩登でもある。そうであるうちは、俺が守る。必ずな」
彩登 401_025 「うん――!ありがとう、汀」
402_089 「その代わりと言ってはなんだけど――佐久弥とやら。親父様のことを頼む」
佐久弥 403_060 「承知した」


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