鬼神楽・流の章02

 出演キャスト様
キャラ名 キャスト様 台詞数
 水輪一族
漁火 19
31
40
みぎわ 52
39
こさめ 23
30
瀧子 9
3
 鬼火一族
夜紫乃 18
比奈伎 6
彩登 11
珠菜 11


役名 番号 台詞 注釈
(所変わって、館を少し出たところの外。
館の立つ断崖絶壁の裏手にある、鬱蒼とした山の上の方をじっと見つめている汀)
みぎわ 001_001 「あれえ?汀、どーしたの、なんか小難しい顔して」
002_001 「え。俺、そんな顔してる?」
みぎわ 003_002 「うん。考える人って感じ。泪は?」
004_002 「あそこ」
みぎわ 005_003 「……なにしてるの?」
006_003 「なんだか……誰かいたみたいだって」
みぎわ 007_004 「――え?」
(泪がもどってきた)
008_004 「泪。どうだった」
009_001 「ほんのかすかだけどな。おそらく、何者かがこの館を窺っていたらしい気配がある」
みぎわ 010_005 「ええ!?あそこって……私ら以外は登れないでしょ、どうやって……」
011_002 「泪たちと同じ、もしくは――それ以上の身体能力を持てば、簡単だろう」
みぎわ 012_006 「そりゃ……そうだろうけど」
013_005 「やっぱり……一族の者が怪しいかなあ」
014_003 「身内に間者が?」
015_006 「わからない……」
みぎわ 016_007 「一人ずつ締め上げて聞きだす?」
017_007 「そりゃあ時間がかかりすぎる」
みぎわ 018_008 「そりゃそうだけど…。一族、もしくは杯組に変なのがいたとして、なにを窺ってたってわけ?」
019_004 「……うーん」
020_008 「――瀧子様じゃないか?」
021_005 「瀧子様を?なぜ」
022_009 「特に理由はないよ、なんとなくだけど……。あの方は俺たちの主だけど、水神そのものでもある。何者かが何かを探ろうとしてるなら、瀧子様くらいかな、と」
023_006 「一理ある」
みぎわ 024_009 「滴に相談する?」
025_010 「そうだな。漣とこさめも呼んで、ちょっと話してみよう」
026_007 「(頷く)」
みぎわ 027_010 「(頷く)」
***
こさめ 028_001 「――妙な気配?」
029_001 「何者か――ですか?」
030_001 「我ら水輪一族以外に、かえ?」
031_008 「それはまだわからない。誰とは言えない」
032_011 「このまえの水軍との戦あたりから……何かが紛れ込んだらしいな」
みぎわ 033_011 「杯組も加えたばっかりだしね」
こさめ 034_002 「それもそうだね……。ざっと今日見た限りでは、杯組の方に行動の怪しいものはいなかったと思うけど」
035_012 「行動が怪しかったら、親父様が最初から選別しないだろ」
こさめ 036_003 「今度ばかりは、親父様の見る目が外れたってこと?」
037_009 「――」
こさめ 038_004 「……泪?」
039_010 「あ、うん、そうだな。泪もそう思う」
こさめ 040_005 「?」
041_002 「それにしても……ようやっと、捕虜たちから解放されたというに」
こさめ 042_006 「まったくだよ。やっとあの煩い連中から離れられたと思ったらこの騒ぎ」
043_013 「しょうがないだろ。俺たちのせいじゃない」
044_011 「ははは。戦が終わった直後は、色々と落ち着かないものさ」
みぎわ 045_012 「よね」
046_002 「その何者か、ですが……。逃(の)がした水軍(すいぐん)という可能性は?」
047_003 「先の戦では、逃がした者は一人もおらぬよ」
048_003 「では、その前、さらにその前ならどうでしょうか。捕虜(ほりょ)にもならず、杯組(さかずきぐみ)にもなれず――そういった連中が、瀧子(たきこ)様(さま)を窺(うかが)うのも可能性としてはあるかも、と」
みぎわ 049_013 「ねえ、ちょっと待ってよ。瀧子様を窺うってさ……窺って、具体的にどうすると思う?」
050_004 「……そうだねえ……あのお方は神だから、神としての何かを、得ようとしている……とか?」
こさめ 051_007 「なにかって?」
052_005 「それは我にもわからぬよ」
053_004 「どのみち――このままでは気味(きみ)が悪いですね……。自分はもう少し、捕虜を気にかけてみることにします」
こさめ 054_008 「そうだね。アタシもそうする」
みぎわ 055_014 「でもさ、面通しが全て終わったから、あとはもう瀧子様の管轄になったんでしょ?瀧子様の手の内にあるものを、私たちが勝手に監視したりしてまずくない?」
056_005 「うーん……。けれど、一応、非常事態(じたい)というヤツでしょうから……事情をお話すればわかっていただける、とは思いますけどね」
057_006 「けれど、用心に越したことはないえ。瀧子様のお怒りに触れるはなにが要因か、わからぬことも多いゆえ」
058_014 「(頷く)」
059_007 「いまはどうやら、瀧子様のお力の弱まる時期に近づいておるようだ。それゆえに、どこかお気もたっておられるかもしれぬ」
こさめ 060_009 「いつだったか、捕虜の者が全員死んだこともあったよね。確か、なにかの病だったかで……」
みぎわ 061_015 「ああ、そうそう!そんなことあったよね」
こさめ 062_010 「あれも……確かこんな季節だった。おそらく竜神の加護が弱まったせいだろう、って親父様が言ってたけど」
みぎわ 063_016 「瀧子様のお力を安定させる方法とかってないの?」
064_006 「さあ……どうでしょうね。これまでの記録によれば、特別な薬湯(やくとう)を飲んでいただくとか、特別な海水で御身(おんみ)を清めていただくとか……。あとは――これはあくまでも一説(いっせつ)ですが、――贄(にえ)を捧(ささ)げるとか、でしょうかね」
こさめ 065_011 「生贄!?」
みぎわ 066_017 「生贄!?」
067_012 「まさか捕虜を!?」
068_007 「(くすくす)、こんなものは、あくまでも噂の域(いき)を出ませんよ。自分の知る限り、我らの竜神様は、そんな恐ろしいことはなさいません」
こさめ 069_012 「ああ……なんだー、脅かさないでほしいね」
みぎわ 070_018 「捕虜が消えちゃったこんな時に、悪い冗談過ぎるじゃないの」
071_013 「その噂が本当かと思ったぞ」
072_008 「(すまなそうに笑って)すみません。ちょっと調子に乗りました」
073_015 「こら、おまえたち。瀧子様のこと、そんな風に軽い話題にするのは不敬だぞ」
074_008 「(頷いて)そうだえ。……事実、瀧子様のお力が弱まっているのであれば、何かしらの策を練らねばならないかもしれぬが……とかく、みだりに神の領域に触れるようなことは避けねば、な。捕虜の方は、あまり表立って手を出さぬほうが良かろう」
みぎわ 075_019 「杯組のほうは?」
076_009 「あれらは、こちらの管轄(かんかつ)です」
077_009 「では、瀧子様のほうは漣とこさめに任せ、我らは杯組のほうに気を配ろう。みぎわ、汀、手伝っておくれ」
みぎわ 078_020 「いいわよ」
079_016 「わかった」
080_014 「じゃ、泪は親父にご注進、だな」
081_010 「頼むえ」
082_015 「せいぜい一刻でも速く親父が重い腰を上げてくれるよう、ムチを当てるさ」
083_017 「……親父様に少し同情する」
みぎわ 084_021 「ふふっ。少し、ね」
***
夜紫乃 085_001 「――あ。動きがあるよ」
比奈伎 086_001 「俺たちに気づいたか?」
夜紫乃 087_002 「みたい。どうする?」
比奈伎 088_002 「これも予定のうちだ。二人の様子は」
夜紫乃 089_003 「昨日、面通しだったみたいだね。今は館の中」
比奈伎 090_003 「面通しの順序がいつもとは違うようだな」
夜紫乃 091_004 「……あ。そう言われればそうだね」
比奈伎 092_004 「――」
夜紫乃 093_005 「まさか?」
比奈伎 094_005 「(少し頷いて)思ったより、時間がないかもしれないな……」
夜紫乃 095_006 「(ちょっと不安そうに唸って)……中の二人、焦ってなきゃいいけど」
比奈伎 096_006 「それは大丈夫だろう。もうじき、繋ぎがつくはずだ」
***
(水輪の中で、異変が起きる)
こさめ 097_013 「――滴、ちょっと(少し焦りの色)」
098_011 「こさめ。どうした?」
こさめ 099_014 「ほかのみんなは」
100_012 「――(何かがあったと悟る)。急ぎ呼んでこよう。少し待ちや」
***
(杯組の面倒を見ている泪)
101_016 「母屋の中では、基本的に会合の間までは出入り自由だが、特に用向きがない場合は勝手に入ることは許されない。また、水輪本家のみの会合が行なわれている場合も、同様だ」
彩登 102_001 「はい」
珠菜 103_001 「はい」
104_017 「そしてこの奥が、瀧子様のおわす場だ。瀧子様にお声がかからぬうちは、ここから先へは、絶対に行ってはいけない」
彩登 105_002 「はい」
珠菜 106_002 「わかりました」
彩登 107_003 「あの……」
108_018 「うん?なんだ、彩登」
彩登 109_004 「瀧子様、って、神様……なんですよね?」
110_019 「ああ。あのお方こそ、我らの海を統べるお方。あのお方が我らの元にいてくださるからこそ、我らは、波を自在に操ることができるのさ」
彩登 111_005 「へえ・・・」
珠菜 112_003 「そんなお力を持つ方と同じ場所で暮らすというのは……少し、怖いような気もしますわ」
113_020 「ははは。あの方は普段からずっと強大な神の力おお持ちでいるわけじゃないさ。無論、力をお持ちであることには変わりないが――特に大きな力が必要な折には、正式に神をその身に降ろすんだ」
珠菜 114_004 「そうなんですの?では、その都度その都度、竜神様のお力をお受けになると…」
115_021 「いや。一度降ろしたのちは、しばらくの間そのご加護は我らにもたらされる」
彩登 116_006 「へえ……」
117_013 「――泪。ちょっといいかえ」
118_022 「滴。どうした?」
119_014 「話がある。急ぎ来ておくれ」
120_023 「わかった。――珠菜、彩登。悪いが、案内はここまでだ。掟についてはまたあとで改めて説明する。ほかの者にも、そう伝えてくれ」
珠菜 121_005 「わかりましたわ」
122_024 「指示があるまで、最初にいた部屋で待機していてくれ」
珠菜 123_006 「はい」
彩登 124_007 「はい」
(二人が行ってしまうのを見送る)
珠菜 125_007 「――……」
彩登 126_008 「珠菜……」
珠菜 127_008 「――まずいですわね。こちらの思惑以上に、ことが進むのが早すぎる」
彩登 128_009 「ど、……どうするの?」
珠菜 129_009 「わたくしたちはこの中では迂闊に動けませんわ。とにかく、外との繋ぎをとらなくては」
彩登 130_010 「うん」
珠菜 131_010 「――本当でしたら、まだ猶予を持って準備できたはずなのですけどね……」
彩登 132_011 「……なんだか……ざわざわする、ね」
珠菜 133_011 「……ええ。きっと、急いだ方がいい」
***
(捕虜の場にいたはずの捕虜たちが、姿を消したらしい)
みぎわ 134_022 「ええ!?捕虜が消えた!?」
135_010 「どういうことです」
こさめ 136_015 「わからない。誰かが手引きしたとしか」
137_018 「まさか……身内に内通した者がいるとでも?」
138_025 「新たに杯を受けた者を調べるべきだ」
139_019 「――待て。選んだのは親父様だろうが。あの人が、そんな選び方をするとは思えない」
140_015 「では……この水輪の者に、裏切り者がいるということかえ」
こさめ 141_016 「……落ち着くんだ。まだ、本当に手引きした者がいるとは限らないよ」
142_011 「その通りです」
143_020 「――(そっと、何かを思う顔)」
144_026 「……捕虜はすでに瀧子様の管轄に移っていたはずだ。どこに手引きしたものがまぎれていたとしても……瀧子様の目を欺くことは絶対にできないだろう。それが何故、……消えた?」
みぎわ 145_023 「……、全然わからない」
146_021 「――もう、俺たちだけで対処できる範囲を超えてる。親父様に話して、瀧子様においでいただいたほうがいい」
147_012 「……そうですね……。会合(かいごう)を開いた方がいいでしょう」
148_022 「――みぎわ。水輪の者を集めろ。急ぎでだ」
みぎわ 149_024 「わかった」
150_023 「泪。海に出ている者も呼び戻せ」
151_027 「ああ」
152_024 「漣。滴、こさめと協力し、杯組を全て捕虜の場へ移せ」
153_013 「はい」
154_025 「水輪の本家全てで会合を開く」
***
(夜紫乃とみぎわの出会い)
夜紫乃 155_007 「――君に少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
みぎわ 156_025 「!!(ざっと武器を構える)」
夜紫乃 157_008 「あんまり手荒なマネはしたくないから、武器を引いてくれるとありがたいんだけど……」
みぎわ 158_026 「何者」
夜紫乃 159_009 「僕は――」
(上を見上げると、辛うじて手の届かないような位置の木の枝に一人の青年。夜紫乃だ)
***
(会合)
漁火 160_001 「うん?みぎわはどうした」
161_014 「まだ姿が見えないようですが……」
漁火 162_002 「またか!まったく、仕方のないやつだ。……まあ、しかたがない。先に始めるとするか」
163_015 「はい」
***
こさめ 164_017 「――瀧子様、それで、捕虜の件はいかがなさいますか?」
瀧子 165_001 「案ずるでない」
こさめ 166_018 「では――」
瀧子 167_002 「そうじゃ。捕虜は、すでに我が手の内(うち)にある。そなたたちの口を出すことではない。ゆえに、この件については今後一切(いっさい)の協議(きょうぎ)は無用じゃ」
168_026 「しかし……」
瀧子 169_003 「汀」
170_027 「――は」
瀧子 171_004 「聡明(そうめい)なそなたのことじゃ。思うことはあろう。なれど、そなたは人じゃ。そなたは、そなたが人としてすべきことをして欲しい。瀧子はそう願う」
172_028 「――もったいなきお言葉」
瀧子 173_005 「これにて、本日の会合は終(しま)いとする」
***
(瀧子と漣の会話)
瀧子 174_006 「――今宵(こよい)は波が荒れよるな」
175_016 「はい」
瀧子 176_007 「……水輪がこの地に根付(ねづ)いた時から、ちょうど百年の月日が経った」
177_017 「もうそんなになるのですか」
瀧子 178_008 「まだ百年、じゃ。……しかし」
179_018 「……?」
瀧子 180_009 「それはまた、一つの節目(ふしめ)と呼ぶべきもの。――――頃合(ころあい)じゃな」
***
(追加シーン)
181_019 「――滴?もう遅いですよ、どこへ行くんです?」
182_016 「ああ、少しな。我にかまわず、みな先に休んでくれ」
183_028 「滴!明日は杯組の役割案内をするからな、分配のほうよろしく頼むぞ」
184_017 「わかっておるよ」
***
(滴、勝手に、親父様の部屋で書き付けを調べている)
185_018 「……あった。これだ」(『神降ろしの儀』を調べていた)
漁火 186_003 「(後ろ・入り口から)――わしの部屋でなにをしている」
187_019 「(小さくはっとして)……親父様」
漁火 188_004 「こそこそとそんな古い書き付けを漁って、なにを探してるんだ?」
189_020 「ふふ、なんでもないえ」
(その口調と、近づいてみて、滴とわかった)
漁火 190_005 「滴か、――おまえ、なにを。勝手にわしの部屋に入って――」
191_021 「早合点をなさるでないよ、親父様。ここ数日、瀧子様のお力が不安定のようでな。それで、我らになにかできないかと、それを調べていたまで」
漁火 192_006 「……ああ」
193_022 「このままでは杯組ばかりか、本家の皆々も不安であろ。汀たちもずいぶんと気にしておったようだし……。わざと親父様に黙っていたわけではないえ。物資調達の件で慌しそうであったしな、あとで改めて、と思っていた。(書き付けを元の場所に戻し)親父様こそ、こんな夜分に珍しい。……眠れないのかえ」
漁火 194_007 「(息をついて、縁に腰を下ろす)……まぁな……。ここずっと風がにおうだろう。いつもの嵐の時期だとはいえ、少しばかり気になってな」
195_023 「あぁ……。此度はずいぶんと大きな嵐になりそうだと、島の者も話していた」
漁火 196_008 「(溜息)被害が大きくならんか、心配だ」
197_024 「心配ないえ、親父様。我らには瀧子様が……強いては、水神様がついておられる」
漁火 198_009 「ああ――……そうか。……そうだな」
199_025 「(ふ、と息をついて)…親父様のその不安を拭うためにも、一刻も早く、瀧子様のお力を確かなものにせねば、な」
漁火 200_010 「(少し笑って)滴は、本当にいつもいつも、瀧子様やこの水輪のことばかり考えているな。本来ならば、それは頭領であるわしの役目だ」
201_026 「(笑って)人には得手不得手がある物。それに我は、少しでも瀧子様のお力になりたいのだよ」
漁火 202_011 「……滴。ワシは水輪に、……おまえにも、これ以上は求めておらんぞ」
203_027 「なにを急に改まって」
漁火 204_012 「いや、な……。(気を取り直したように、明るくいつもの調子で)……みなで共に生きることが、ワシのなによりの幸せだと、そういうことだ」
205_028 「ふふ。それこそ今更。それは、きっとみなも同じであろ――」
206_001 「(戸のそばから)――長、そこにいるか」
漁火 207_013 「おう、なんだ濠、おまえもまだ起きてたのか」
208_002 「記載に抜けがあったのが気になってな。今のうちにやっておこうと……。やはりいくつか数があわんのだ。それで確認してもらいたいことがある」
漁火 209_014 「わかった。すぐ行く。……やれやれ。みな几帳面だな」
210_003 「(目は笑って)なにを言っている。なにもかも『おう、いいぞ、それでやれ』で済めば、そもそも戦は起こらぬであろうが」
漁火 211_015 「はっはは。さもあらん。(振り向いて)――滴、嵐になればまた忙しくなる。今はできるだけ休めよ」
212_029 「ああ。親父様こそ、ご苦労だね」
漁火 213_016 「まったくだ。みな頭領使いが荒くていかんな(笑う)」
214_030 「(くすくす)」
(漁火、出て行く)
215_031 「(ぽつりと)…………――けれど。けれど、『時』は決して戻らぬよ、親父様――。瀧子様も既にご高齢。これ以上の時を逃すわけにはいかぬ――絶対に」
***
(次の日、漁火に用を頼まれる汀)
漁火 216_017 「――おう、汀。ちょいと用向(ようむ)きを頼まれてくれんか」
217_029 「いいよ。なに?」
漁火 218_018 「明日、一の島に物資(ぶっし)を運んでほしい。じきに嵐の季節だしな、一の島は前に被害がひどかったろう」
219_030 「わかった。誰か連れてく?」
漁火 220_019 「一人でも構わんと思うが……まあ、手があいているものがいりゃ、ってとこだな」
221_031 「了解」
*********
(というわけで次の日。汀は、みぎわを伴って一の島へ行くことに。その準備中)
みぎわ 222_027 「それにしても……。瀧子様の目が届かないこともあるんだねー。水輪の中でそんなことが起こるなんて、なんだかおどろき」
こさめ 223_019 「いくら巫女姫様でも、やっぱり不可能なこともあるって事じゃないか?」
みぎわ 224_028 「ふふっ、あの瀧子様にもそんなところがあるんだな〜って思ったら、ホッとしちゃう」
こさめ 225_020 「わかるわかる。ちょっと安心するっていうかね」
226_020 「神と呼ばれる方でも、人間らしい……そんなところがおありなんでしょうか」
227_029 「シッ。聞かれたら後がうるさいぞ」
こさめ 228_021 「そうそう。滴は、なんだかんだ、瀧子様に対する尊敬やら傾倒やらなにやら、水輪の本家一だからね」
みぎわ 229_029 「そうそう(くすくす)」
230_032 「――こら。誰がなんだえ?」
こさめ 231_022 「滴!」
232_030 「……さてと。泪は船の様子を見てこよう」
こさめ 233_023 「あ、アタシもアタシも」
(すたこら)
みぎわ 234_030 「あ、ずるい逃げたなっ!」
235_032 「くすくす」
236_021 「くすくす」
みぎわ 237_031 「あー、滴、さっきのはべつに瀧子様への悪口とかじゃないんだからねっ」
238_033 「(くすくす)わかっておるよ。此度の件に関しては、我も驚いていたところだから。先ほども、なにかいい対処はないかと、調べていたんだ」
239_022 「さあ。この件はさておき――ともかく、今は物資(ぶっし)のことをお願いしますよ」
みぎわ 240_032 「うん。私、一の島に行くの久しぶり!あそこって果物が美味しいんだよね〜なに食べよう」
241_034 「こら、みぎわ。おまえは物資を運びに行くのだよ?おまえがあちらのものを食してどうする」
みぎわ 242_033 「ちぇー」
243_035 「まったく……(くすくす)」
244_023 「汀、みぎわ。荷は準備できましたか?」
245_033 「あともうちょっと!」
246_024 「船の方はすぐにでも出られるので、いつでも言ってください」
247_036 「波はどうえ?」
248_025 「少し荒れてますが、汀(なぎさ)の腕なら何の問題もないでしょう。ただそれでも、時刻(じこく)が遅くなればなるほど波も高さが増しそうですから、できるだけ早めに済ませたほうが良さそうですよ」
249_034 「わかった」
250_026 「船に使う人足(にんそく)たちは、松の木の下に待たせてますから、入用(いりよう)だけ連れて行ってください」
みぎわ 251_034 「あ。それで思い出したけど、そこで、変なやつに会った」
252_027 「え?変なヤツですか?」
みぎわ 253_035 「うん」
***(というわけで、VRをどうぞ)
夜紫乃 254_010 「僕は、君たちを害するものじゃないのは確か。――でもごめん、いまはまだ。あとで必ず名乗るよ」
みぎわ 255_036 「(眉を寄せて)……どういう意味?」
夜紫乃 256_011 「ごめん、それも、いまはまだ何も言えないんだ。あとで絶対、ちゃんと話すから」
みぎわ 257_037 「……変なヤツ。で、何を聞きたいの?」
夜紫乃 258_012 「うん。あのさ、水輪一族って、長と神様と、どっちが偉いの?」
みぎわ 259_038 「変なしつもんー。でもそーね、そりゃやっぱり、瀧子様……竜神さまじゃない?」
夜紫乃 260_013 「頭領より、神様のほうが力があるんだ」
みぎわ 261_039 「そうね。親父様……頭領は、長ってことで私らをまとめてるけど、あるじ、っていう意味ならやっぱり、瀧子様がそうかなぁ」
夜紫乃 262_014 「へー」
みぎわ 263_040 「瀧子様はね、その身体に竜神様を降ろすことができるわけ。だから、瀧子様の部屋は、海に通じてるって噂なの。時々、神様の力を降ろしてきて、海を操ってるって言う話でね。あ、水輪の一族は、だからいつも、瀧子様のご機嫌を損ねないようにしてるわけ」
夜紫乃 264_015 「へえ〜」
みぎわ 265_041 「でも水輪の本家の一員になれば、瀧子様から神様の力を貰い受けることができてね。まあ、ちょっとだけだけど。でもそれで私らは、ほかの連中よりちょっと別格ってわけよ」
夜紫乃 266_016 「そうなんだ」
みぎわ 267_042 「だから水輪一族は、みんな瀧子様、瀧子様、なわけ。あのお方の存在がいちばんなの。でも実を言えば、私は個人的に、親父様の方が好きなんだけどねー。瀧子様のことは尊敬してるけど、あまりにも遠い存在過ぎるっていうか?それに比べていつも傍に居てくれる親父様の方が、やっぱり親しみがあるってもんだよねえ」
夜紫乃 268_017 「あー、なんかわかるわかる。そこらへんは、僕らと一緒なんだな」
みぎわ 269_043 「え、なに?あんたもなんかどっかの一族なの?」
夜紫乃 270_018 「うん、一応ね。一番上に主(しゅ)がいるけど、僕らは主よりも長である頭領に従ってるかな」
みぎわ 271_044 「へー!」
***(とかなんとか。VRもとい回想シーン終わり)
みぎわ 272_045 「――っていう話で盛り上って。まだ子どもなのにビシッと戦装束着て、全然隙がなくて、ちょっと目を離したら消えちゃった。木の上でだよ?ちょっとすごくない?」
273_035 「なんでそれを早く言わないっていうか怪しすぎるだろ!?しかも内情をペラペラ喋りすぎ!知らない人間といきなり和むな!!」
みぎわ 274_046 「えー、でもなんか、明るくて良い子だったし」
275_036 「(がっくり)そういうことじゃなく……」
276_037 「(はぁ……)みぎわはどうにも、自分より小さな子には甘いといおうか、なんといおうか……(やれやれ)」
277_028 「それで、この前の会合をサボったんですね?」
みぎわ 278_047 「サボっただなんて人聞き悪い〜」
279_029 「もう長(おさ)も、みぎわはまた昼寝のしすぎでこないんだろうと諦めてましたよ」
みぎわ 280_048 「ちょっと失敬な!私が昼寝で会合をお休みさせていただいたのは、ほんの3回程度よ!」
281_037 「ひい、ふう、みい、よ、いつ、むう……いや、俺の覚えてる限り、7回だな」
282_030 「甘いですよ汀。自分の記憶だと、しめて、計十三回です」
みぎわ 283_049 「それで、最近親父様から遅刻について何も言われなくなったのか……」
284_038 「諦められたんだねえ……」
285_038 「とにかく、その話、泪たちにもするからな。あとで泪になにを言われても知らないからな」
みぎわ 286_050 「えーっ」
287_031 「(苦笑しつつ)とりあえず、いまは荷(に)をよろしくお願いしますよ。その話は、自分から泪(るい)たちに伝えますから」
288_039 「おう」
みぎわ 289_051 「はぁーい」
290_039 「2人とも、充分に気をつけるのだよ。先の事も鑑(かんが)みて、瀧子様はいまはまさに、力の弱まる時期に違いないえ。そんな折は、我らがしかと支えて差し上げねばね」
291_040 「(返事)」
みぎわ 292_052 「(返事)」


formed by N的シナリオチェンジャー